第29話 初クリア

角ウサギの生息地は町近くの草原もしくは森。

カルカスの町は草原に囲まれていて、少し歩くと森がある。審判の洞窟があるのもその森の奥だ。


俺たちは町を出て草原を歩いていた。


角ウサギの姿はまだない。やつらはあまり森の奥に入る習性がないので、討伐対象としては比較的安全な部類だ。


兄妹は初めての実戦で緊張している。

フローラは兄の後ろに隠れるように辺りを見回しながら歩いていく。


カルカスを出て十五分ほどすると、だいぶ森が近づいてきた。


「そろそろ森に入るよ。みんな離れずに固まって進もう。角ウサギを見つけたら教えてね。」


「はい。」

「はい!」


二人とも返事で精一杯という感じだ。


辺りを見回しても魔物の気配はない。さすがに無防備に飛び跳ねているわけないよな。


俺は感知のスキルで魔物を探ってみた。

んー、ウサギっぽい反応はこっちか。


洞窟の時は比較的狭かったからか魔物が湧いて出てきてたけど、外だと意外に遭遇しない。


さっきから小型の魔物や動物らしい反応はあるが、こちらの気配を察知するとすぐに逃げてしまう。野生の生き物はそういうもんか。簡単に捕まえられたらクエストの依頼なんて出さないもんね。


なんて思っていたら、反応のあった方に少し進んだところでようやく目的の魔物を発見。


頭に角があるウサギ。


あれが角ウサギじゃなかったらなんと呼ぶんだというぐらい角ウサギだ。

洞窟にはいなかったので、見るのは俺も初めてだった。


「あれだよね。どうする?二人でやってみる?」


俺は二人に判断を委ねる。

リッシュはまだ駆け出し冒険者とはいえ、鉄の剣と盾を装備している。丸腰の俺よりまともな格好だ。

いいなぁ、あの剣。俺も欲しいなぁ。


「行ってきます!」


リッシュが颯爽と前に出る。フローラはお兄ちゃんの服を引っ張りながら後ろにくっついていく。戦いづらそうだ。


角ウサギはこちらに気付くとすぐに突進してきた。


角ウサギ   

種族: ウサギ   種目: 通常種


体力:25/25

魔力:0/0


攻撃:20

防御:15

知力:7

速度:15


【基本スキル】突進


角と盾がぶつかり、ガイーン!と大きな音をたてた。


弾みで二人は尻餅をつき、慌てて体制を立て直す。握った兄の服だけは離さないフローラ。


ちょっと危なっかしいが、それでもリッシュの防御はそこそこ様になっている。角ウサギの単調な突進攻撃くらいなら問題なさそうである。


その後も何度か同じような展開が続き、一進一退の攻防が繰り返され、なかなかお互い決定打がない。


ん?!


そんな時、少し離れたところに新しい生体反応が。

彼らの背後の草むらに角ウサギがもう一匹潜んでいるようだ。


前と後ろから挟まれる状態となった二人。しかも後ろは何も防ぐ術のないフローラだ。


あのまま突進されたら、フローラが危険だな。

後ろの一匹は俺が仕止めておこう。


俺はイベリアを倒した時に新しく覚えたスキル、大気振動を使ってみることにした。

確か、状態異常のスキルだったよな。


後ろの角ウサギに狙いを定め範囲を狭めて大気振動をかけてみる。


見た目はあまり変化ないが、周りの空気が少し歪んだように見えた瞬間、角ウサギはドサッとその場に倒れこみ動かなくなった。

どうやら急激な気圧変化で失神したようだ。


ひとまず一匹は討伐完了!


もう一匹のほうは相変わらずの展開。

二人ともかなり疲労して動きが鈍っている。


こっちも少し手伝うか。


俺はリッシュが剣を振り上げた瞬間を狙い、角ウサギに共振をかけた。

角ウサギの動きが止まり、リッシュの剣が見事命中。

なんとか二匹目もゲットに成功した。


「やった!フローラ勝ったよ!」


フローラも「やったー」とピョンピョンしている。

ただ、このままだと複数体を同時に相手にする時は危険そうだ。今度ヒットアンドアウェイのレクチャーでもしてあげようかな。


フローラは安堵の表情を浮かべ、その場にしゃがみこんでいる。彼女の回復魔法があれば致命傷を受けない限り二人でもなんとかやっていけるだろう。


その後、戻り際に俺がもう一匹の角ウサギを捕獲。大袈裟に殴る振りをして大気振動で失神させた。これで無事に目標達成だ。

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