第28話 初クエスト

予定時間五分前。少し早くギルドに到着した。

扉を開けると二人の若い男女が椅子に座っている。

ギルドの中には他に誰もいない。


もしかして、あれがクエストを受注した冒険者たちかな。

俺は若い男性に話しかけてみた。


「こんにちは。あなたたちが角ウサギの討伐依頼を引き受けた方ですか?」


「はい。そうですけど。」


やはり、当たりだ。


「急で申し訳ないんですが、できたら私も一緒に参加させてもらえないでしょうか?」


男性は少し困った表情で俯き考えている。

隣の女性は男性の方を向き何か言いたそうな表情。

いきなり知らないやつが参加したいなんて言ってきたら警戒するよなぁ。


「そうしようよ。お兄ちゃん。やっぱり私たちだけじゃ危ないよ~。」


まず、女性のほうが口を開いた。


「う~ん、でもどんな人か分からないし、、」


と女性に顔を近づけ小声で話しているのが聞こえる。

確かにそうだろう。飛び入り参加は厳しいか。


男性が言い淀んでいるので、もう一押ししようと思っていると、ギルド長のオーウェンが話に割って入ってきた。


「彼は信用して大丈夫だぞ。俺の長年の勘がそう言っている。頼りになるし、なかなか面白い男だ。」


一回しか会ってないのに、その自信はどこから来るんだろうと思ったが、オーウェン、またしても、ナイスアシスト!


「ほら、オーウェンさんもそう言ってるし、大丈夫だって~!」


女性のほうはかなりウェルカムのようだ。

風向きが良くなってきたので、俺も頭を下げてお願いする。


「そこまで言うならそうしようか。じゃあ、よろしくお願いします。」


男性はまだ悩んでいる様子だったが、三対一の状況に根負けしたのか参加を了承してくれた。


「ありがとうございます。」


オーウェンがにこやかに奥の部屋へと戻っていく。

俺はオーウェンに微笑み軽く会釈した。


「そうだ。自己紹介がまだでしたね。」


親睦を深めるためにもまずは自己紹介。

俺は自分の名前、年齢、職業などを伝え、ギルド登録したのはついさっきだが、実戦経験は豊富だとアピールしたあと、二人についても教えてもらった。


話によると二人は兄妹で、討伐クエストは今回が初めて。

兄がリッシュという名前の十八歳、妹がフローラで十六歳、小遣い稼ぎのために最近ギルド登録したものの、今までは採集クエストしかしたことがないらしい。

今回は兄のほうが討伐クエストをやってみたいと言い出し、妹はしぶしぶ連れてこられたそうだ。


こっそり鑑定してみると、リッシュは典型的なファイタータイプ、フローラは補助特化タイプなので、攻撃、防御、回復が揃っている。二人パーティーとしては理想的な組み合わせだった。


冒険者は危険が伴うので、反対する親も多い。

特に大抵の女性は安定した職業の家に嫁ぐことが最良と考えられているため、女性は十五歳を過ぎると女性らしさを磨くための花嫁修行や結婚相手探しで忙しくなるそうだ。冒険者の9割は男性。年頃の女性の冒険者はあまりいない。

今のうちしかできないぞと兄にそそのかされ、仕方なく付き合っているとのことだっだ。


お互いの素性もわかったところで、リッシュは思い出したように用紙を出してきた。


「それと、これが今回の依頼内容です。」


差し出された討伐依頼書によると、


クエストランク:F

条件:角ウサギ3匹の引き渡し(全身)

報酬額:15,000ルギア

獲得ポイント:150P


有効期限は本日中のようだ。


個体の大きさや必要用途によっては部位のみの引き渡しもあるらしいが、今回は全身。角ウサギが丸々三匹だった。結構重そうだ。空間収納はあまり見られたくないし、普通に運ぶしかないか。

三人で割るから一人五千ルギア。最初にしてはまあまあかな。


「了解。じゃあ、そろそろ出発しよう!」

俺は二人に声をかけた。


「はい!」

「宜しくお願いします。」


俺たちはギルドを後にし、角ウサギのいる森へと向かうことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る