第27話 武器と防具の店バルキリー

俺はギルドを出て時間を潰すことにした。

これでようやく俺も冒険者の仲間入りだ。コウモリの姿で岩場に潜んでいた頃には想像もできない進歩だな。


春のような程よい日差し。心地よい風と相まってとても清々しい気分だ。湿度もちょうどいい。

お金があればカフェにでも入って、ゆっくり町や人々の様子を観察したいところだが、今はそういうわけにもいかない。

俺は先ほどと同じように当てもなく、町中を歩いていた。


すると一軒の服屋の前で見覚えのある姿が、、


あれはイベリアじゃないか。


別れた後はショッピングしてたのか。

さっきから無表情で服を見つめ全く動かない。何してるんだろ。

あまり見られたくないのかもしれないし、無一文の俺が行ったところで意味もない。

いまはそっとしておくか。


まだ時間があるし、装備品でも見に行ってみよう。


と振り返ると、道の向かい側に武器と防具の店「バルキリー」の文字が見える。

なんだ、目の前にあるじゃん!


店はギルドの建物と比べると、だいぶこじんまりとしている。

ウッディーな雰囲気は似ているが、黒を基調とした外観は初めて訪れる人には少し入りづらい印象。


俺がゆっくりと扉を開けると、拡大鏡のような眼鏡を付けた老人が椅子に座り、手に持った剣のようなものを眺めている。


「いらっしゃい」


老人は俺のほうに少しだけ目線を向けたあと、か細い声でそう言った。


「いまギルドに登録したばかりの冒険者なんですけど、これから装備品を揃えていこうと思ってるので、少し見させてもらっていいですか?」


「どうぞ」


冷やかしだと思われたら、気まずいからな。とりあえず先手を打っておく。

店の中を見回すとほとんどが基本的な装備品のようだ。


木刀   1,000ルギア

鉄の剣  5,000ルギア

木の盾  1,500ルギア

鉄の盾  6,000ルギア


他にも槍や弓などが少しある。


木刀は明らかに練習用か子どものおもちゃといった感じだ。安いし、これで魔物は倒せないだろう。ということは実質一択ってこと?!


俺の残念そうな表情に気付いたのか老店主から話しかけてきた。


「どんな装備をお探しなんだい?」


「えー、特に決めてはいないんですけど、、テイマーってどんな装備を付けるんでしょうか?」


しばし沈黙が流れる。


「テイマーなんて、ここら辺では見ないねぇ。わしが若い頃はたまに見かけたけど、まぁ人それぞれだったわ。」


老店主は何故かヒャッヒャッヒャと笑っている。テイマーって微妙だったのかな。

成り行き上ではあるが、これからもちょうどいい職業だと思ったんだけど。


「そうしたら、とりあえず好きなものを身につけておけばいいですかね。」


「ん~、そうじゃな、うちに置いている装備は本当に最低限なもんばかりじゃよ。この辺じゃ特殊な鉱石が取れるわけでもないし、装備に魔法を付与する技術もない。だから、どれを使っても大差ないて。」


装備に魔法を付与か。俺にも出来るんだろうか。

と思っていると老店主が俺の心を読んだかのように教えてくれた。


「装備への付与は付与魔法が使えるだけじゃできないよ。高い加工技術が必要なんじゃわ。わしも昔はその技術を求めて旅に出たりもしたが、結局身に付けることは出来んかったわい。」


魔法が使えるだけじゃダメなのか。

付与魔法は一定時間、味方を強化したり敵を弱体化する魔法。俺のスキルリストを見ても装備品へ付与できそうなものは出てこない。魔法やスキル以外の能力が必要なんだな。


「そうなんですね。いろいろありがとうございました。お金を稼いだらまた来ますので、よろしくお願いします!」


老店主はまたヒャッヒャッヒャと笑って軽く手を振り見送ってくれた。

どうやらバカにしているわけではなさそうだ。

正直、付与で強化されてない装備を使ってもすぐ壊れそうだし、形だけでも鉄の剣を腰にさしとくか。



その後、一通り町を見て回った俺は中心部にある噴水広場の石段に腰かけていた。


ここには時計もあり、待ち合わせの場所として使われているようで、いろんな人たちが行き交っている。

町人半分、冒険者半分といったところか。

ギルドではスペースが限られているし、あまり聞かれたくない話をする時はこういう開けたところのほうが意外といいのかもしれない。


そうこうしているうちに予定の時間まであと十五分に迫っていた。


「さて!またギルドに行ってみるか!」


俺は腰を上げ冒険者ギルドへと向かった。

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