第23話 はじまりの町
そんなこんなで洞窟をでてから歩くこと小一時間。
とうとう俺たちの前方に町らしきものが見えてきた。
入口とおぼしき部分には木でできた大きなアーチがあり、町の周りも木製の柵でぐるっと囲まれている。
リザ吉が中に入るとまた混乱させそうだなと思ったので、彼にはしばらく外にいてもらうことにした。
「悪いけど、リザ吉はこの辺りの森で少し休んでてくれないか。何かあったら、すぐ連絡してくれ。俺も用がある時は連絡するから。」
「分かりやした!」
リザ吉も狭い町の中にいるより、外の方がゆっくりできるだろう。
魔物や冒険者に襲われないか少し心配だが、いざとなったらサラマンダーに戻ればやられることはないから大丈夫でしょ。
「万が一、危ない目に合いそうな時は変身して構わないけど、なるべく人間は殺さないでね。」
「了解っす」
俺たちはリザ吉と別れ、アーチの門を目指し歩を進めた。
上部に「カルカス」と彫られた門をくぐる。
実際には全く見たこともない文字が羅列されているのだが、俺の脳内にはしっかりと翻訳された状態で入ってくる。
俺の持つスキルの効果なのか、人間だからか分からないが便利な能力だ。
町の中はそれほど大きいわけではなく、想像していたよりもはるかに小綺麗に整備されている。
中央には大きな噴水があり、そこから東西南北に幅の広い道が伸びていた。
そのメインストリート沿いには商店や高い建物が建ち並び、路地を入ると住宅地が広がっているようだ。
なかなか落ち着いた雰囲気である。
最初の町としては打ってつけだな。
人通りは疎らだが、寂れているわけでもなく程よい感じ。
まずはどんな店があるかチェックするか。
と思っているとイベリアはそそくさと先に歩いていく。
「あれ?イベリアどこ行くの?」
「私は行きたいところがあるから、また後で。終わったらこれで連絡するよ。」
と自分の頭をツンツンしている。
おそらく思念のことを言ってるんだろう。
「わかった。この町に来たのは初めてだから、俺はもう少しいろいろと見て回るよ。気を付けてね。」
どちらかというと気を付けるのは魔王に遭遇した人たちのほうだろうが、イベリアに万が一の事があったら心配だ。
家族ってこんな感じでいいのかな?
俺は別れたあと一人で町を散策してみることにした。
宿屋、食堂、道具屋、武器屋、防具屋に屋台まで、一通りの施設は揃っている。
食堂は夜に酒場としても営業しているのだろう。店の看板には酒のイラストが描かれていた。
まぁ食事はどうにでもなるとして、ずっと野宿だったから夜は宿屋に泊まってみたいもんだなぁ。
ゆっくり温泉にでも浸かってこれまでの疲れを癒したい。こっちに来てから風呂どころかシャワーすら浴びてない。
とはいえ洞窟内にも綺麗な地下水が湧きだしている空間もあるので、水浴びくらいはしていたが。
それと、人間の冒険者としてやっていくなら、いつまでも魔物と殴りあってる訳にもいかない。やはり武器は必要だろう。
洞窟内で戦う分には肉弾戦と魔法で十分事足りるんだけどね。
洞窟で漁った服たちも、だいぶ傷んできているし。
そんなことを考えながら、ふと近くの屋台に目をやると、一本百ルギアと書かれたポップが貼られていた。
「へいへい、らっしゃい。焼きバード一本百ルギアだよ~」
屋台の親父が景気の良さそうな声で呼び込みをしている。
ルギアというのは、この世界の通貨単位だ。
これは俺も知っている。
しかし、もちろん俺は無一文。
指をくわえながら、旨そうな匂いを嗅いで我慢するしかないのだが、買っていく人の様子を見ると、さっきイベリアが持っていた銅貨のようなものを一枚渡していた。
おそらく銅貨一枚が前の世界でいう百円くらいの価値なんだろうな。ということは銀貨が千円、金貨が一万円くらいか?!
やはり、お金を稼ぐ方法を考えるのが先決だな。ヴァンパイアの時は血を吸っていれば食欲が満たされていたが、人間の状態ではあまりそういうわけにもいかない。
しかも人間になると血を吸いたい欲求が抑えられるようで、その替わりに腹が減ってくる。
何かないものかと歩いていると、ようやく俺の期待していた建物が目に入った。
「ギルド」の文字だ。
やっぱりありましたか!
ギルドとは冒険者が町の人達などからの様々な依頼を引き受けて報酬を得ることができる場所。ファンタジー世界には必ずあるよねぇ。
善は急げだ。まずは話を聞いてみよう!
俺は早速中に入ってみることにした。
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