第16話 洞窟脱出
魔王はすぐに目を覚ました。
警戒した表情で距離を取り、こちらの様子を窺っている。
「もうやめにしよう。」
俺は魔王に提案した。
「なんで私まで回復したのよ。」
「殺したくないからね。今回は俺の勝ちってことで!まさかあそこまで威力があるとは思わなかった。ごめん。」
何かの間違いで転生してきた俺が魔王を倒してしまってはマズいんじゃないかと思ったのが正直なところだ。
「あんた、ホントに何者なの?!ヴァンパイアだし。最後の魔法はなんなのよ!あんなの反則でしょ!」
反則か。その通り。実に的確な表現だ。
「俺も良く分からない。気がついたらコウモリで、ヴァンパイアに進化して知らないスキルがいろいろと使えるようになってた。」
「人間でもないし、魔族でもないし、意味分からないわね。てか、あんたさっきよりでかくなってない?!」
イベリアは眉間にシワを寄せながら俺のことを上から下までジロジロ見ている。
「なんか知らないけど、まあいいや。私もう決めたから。」
唐突になんだ?!
「面白そうだから、あんたに着いてくわ」
今度は不敵な笑みを浮かべてそんなことを言い出した。
「着いてく?でも君はこの洞窟の主だから、あんまりウロチョロしちゃまずいんじゃないの?ここが最深部だから、これ以上先もないし。」
「何言ってんのぉ。こんなとこにいたって楽しくないじゃん。外に出たら面白いものがいっぱいだよ。」
やはりイベリアはちょくちょくここを留守にして外に繰り出していたのか。
「う~ん。外かぁ。」
もともと最初は大した目的もなく始めた洞窟散策だった。
新しい階層や、まだ見ぬ敵との戦いもなかなか面白くてここまで来たが、人間にもなれるようになった今、ここに居座る理由もない。
新しい世界へ来てまで、この洞窟で涌き出てくる魔物をひっそり駆逐し続けるだけの人生なんてゴメンだ。
いずれそうするつもりではあったけど、こんなにすぐ洞窟を出ることになるとは思わなかったな。
俺は俺の思うように生きていこう。
「俺も目的は達成したからなぁ。それは構わないけど。ここはどうするの?」
「来れるやつなんてあんた達くらいでしょ。それに私の代わりはいくらでもいるから大丈夫よ。」
そんな適当でいいのか?
俺が心配しても仕方ないが。
イベリアの話によると魔王の称号は魔族だけに与えられるものでもなく、様々な種族から強いものが選ばれるスカウト制度のようなものだそうだ。
戦うのが好きだったイベリアは魔族に誘われて魔王を引き受けたというのがいきさつだった。
「それと、あんた名前は?」
名前、、
今はテスターらしいが、洞窟を出てからも聞かれることは多いだろう。せめて名前だけでも変えておくか。
俺は前世の名前であるソーマ(相馬健吾)を名乗ることにした。
「俺の名前はソーマ。よろしく。」
「ソーマね。じゃあ、さっさと行きましょ」
イベリアがクルッと階段の方へ方向転換するとリザ吉が恐る恐る話しかけてきた。
「あのー、、あっし、サラマンダーに進化しました。」
「あっ、そうだった!おめでとう!サラマンダーになるなんて、スゴイじゃないか。」
すっかりリザ吉のことを忘れていた。
裁きの門に吸い込まれないで良かった。
「ありがとうございます。テスターさん???
ソーマさん、になったでやんすか?」
「改名してみた。」
「了解です。ソーマさん。」
「それと俺は魔王のイベリアと一緒にこの洞窟を出ようと思うんだ。リザ吉もついてきて欲しい。イベリアもリザ吉のことよろしくね!」
「へぇー、なんか端のほうに魔物が紛れ込んだなと思ってたけど。ファイアリザードじゃなかったのね。」
「分かりやした。魔王様、宜しくおねげーします!」
おねげーって。俺の時より明らかにへりくだってるな。
こうして吸血鬼、魔王、精霊の三人旅が始まった。
俺たちは静かになった地下三十階をあとにし上へと向かう。
イベリアを眷族化したことはもう少し黙っておこう。
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