第12話 決戦前の休息

二十五階の守護者は魔王の手下ワイバーンだった。 


竜族なだけあってすべての能力が高い。


戦ってきた中で空を飛ぶ敵はサラマンダーくらいだったから少し手間取ったが、今回はリザ吉の炎攻撃も有効で前回不完全燃焼だったこともあり、思う存分暴れられたようだ。 


今の最深到達階層は二十九階。 


次はいよいよ魔王との対戦である。


ここまで色々あったが、ろくな休暇も取らず、リザ吉と突っ走ってきたので、今日は一時の休息を取ることにした。


場所は地下十一階。


ここには水辺があり、大した魔物はいないものの、人間たちもまだ到達できない階層。


のんびり過ごすには最適だ。 


リザ吉リサーチによると、第五階層のファイアリザードに勝てる冒険者はまだほんの一握りらしい。


運良く勝てたとしても、ボロボロの状態で戦い続けられるわけもなく、第十階層にたどり着けたものすらまだいないとのことだ。 


「あっしは休まなくても構わないですよぉ。回復ならテスターさんの回復魔法もありますし」


リザ吉は元気そうだ。

完全に俺の魔法を当てにしている。まぁ、いいんだけど。


「こういう時間も必要なんだよ。心を落ち着かせて明日の作戦を考えるんだ。」 


俺は深く息を吸い込み目を閉じながらそう言った。


「そうなんすね。あっしはちょっと向こうのほう見てきます。」 


リザ吉はドタドタとまたどこかへ行ってしまった。

俺の話に全く興味なしだな。彼はホントに配下なんだろうか?! 


それにしても、今まで魔物を倒して通りすぎるだけの滞在だったが、のんびり辺りを見回してみると、ところどころに草やキノコが生えている。 


いまいち使い方が分からないが、こういうとこに薬草のようなものがあれば組み合わせて薬なんかも作れそうなんだけどなぁ。


スキルの中に調合もあるし。

そこら辺は人間の方が詳しいんだろう。 


あまり必要性はないが、試しにちょっとやってみるか。


まずは鑑定で周りの様子をサーチ。

なんかいろいろ出てくる。どうしよう。


暇そうなリザ吉にも手伝ってもらい、周辺の草やキノコを片っ端から集めてみた。


おぉ、短時間で結構集まったな。


えぇ~


「ひねくれ草」

「なよりダケ」

「ただのこけ」

「洞窟エビの脱け殻」



うーん、





ゴミばかりでした。。。


洞窟だから素材が限られているとはいっても使えそうなものが何もないじゃないか。

だいたい調べるまでもなく名前からして期待できないし。


俺としては回復系のアイテムを作ってみたかったんだけど、洞窟にそんな草なんて生えてないのかぁ。


こういうところには鉱物なんかがあって装備品の素材になったりするんだよな。

今のところ装備は必要ないし、鍛冶屋もない。今の俺たちにはあまり意味がないのね。


いずれ試してみることにしよ。


豊富なスキルがあってもどう使ったらいいか分からないものがまだまだ多い。


魔王はどんな戦い方をするんだろうか。


自分のスキルについて今のうちにもう少し知っておいた方がいいな。 


俺は腕まくりして両手を頭の後ろで組み、その場にゴロンと寝転んだ。


そういえば、俺が着る服に関しては、志半ばで力尽きてしまった人間たちから良さそうな服を拝借している。


俺は基本的に日々湧いてくる魔物や明らかな敵以外の殺生はしないと決めているから、人間を殺したことはない。 


俺がいま大事にしていることは自由。

着るものにすら囚われない生活。別に裸でも全然構わないのだ。


しかし、一応羞恥心はあるので、誰に見られるわけでもないが、たしなみとして服だけは着るようにしている。ちなみに下着は取らない。ちょっと気持ち悪いからね。


ただ、まずいのはその現場を何度か目撃されていること。


先日遠くで悲鳴と足音が聞こえたので振り向くと、明らかに俺を見て逃げていく人影を目の当たりにしてしまった。 


ヴァンパイアの棲む洞窟なんて噂が立ったら面倒くさいなぁ。人間が逃げ出す存在になってしまったというは、やはりショックだ。

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