第18話 改めまして初めまして ⅲ
「あら? 朝護さんも綺麗な金の瞳をしていたんですね?」
その言葉を聞いた彼は寝ぼけ眼を見開いて飛び起きようとし、覗き込んでいた私の額と衝突した。
「アガっ!」「イタッ!」
互いに額を打ち合った私と朝護さんは、二人仲良くのけ反り額を抱えた。
「すまん、焦って急に動いちまった。ケガないか?」
「いえこちらこそ、注意が足りませんでした。それよりまだ動いてはいけません、安静にしていてください。」
そして二人仲良く似たような言葉を吐いた。
「俺は大丈夫だ。肩の傷も嬢ちゃんが治してくれたんだろ?」
「はい、炎症は治しました。ですが疲弊は残っているはずです。しばらくお休みになってください。」
「問題ない。体力には自信があるんだ。」
「先程まで倒れていた貴方がそれを──」
「それより、俺の荷物弄ったり服剥がしたりしていないか?」
「えっと……荷物はここに運んできましたし、服は上半身だけですが治療のために一度脱がしました。」
「成る程そういうことか……」
そう言うと彼は顔に手を当てて項垂れてしまった。
あの、幽霊さん?
なんだか余計な事をだったみたいなんですが、どういう事ですか?
幽霊さんを探して洞窟内を見回してみるがどこにも見当たらない。もしや逃げたのですか幽霊さん!
「すみません、余計なことをしてしまったみたいで……」
「……いやすまない、ありがとうな嬢ちゃん。治療どころか荷物まで持ってきてくれて。ここまで持ってくるの大変だっただろ?」
「そんな事ないですが……私が何かしてしまったのですよね? すみません配慮が足らず……」
「ああ、いやコレはだな、急なことでパニクっただけというかだな?どう説明したものか……」
そう彼は一拍置いてから語り始めた。
「この国では違うらしいが、金の虹彩を持っているやつは珍しいんだ。だからこの眼をしていると目立ちすぎるし、場合によっては命も狙われる。それで普段は術を使って隠してるんだ。」
「術というのは魔法のことですか?」
「そう魔法。で、その魔法が解けていたから焦っていたって訳。」
「すみません私が要らぬ世話を焼いてしまったみたいで……。」
「あー違う違う、そういう事を言いたかったわけじゃないんだ。つまりだな、この眼がトラブルの元になっていたから普段は隠していたんだ。けれど俺と同じ眼を持つ嬢ちゃんは、この眼をしているからって差別や排除しよなんてしないだろ?」
「しません。例え私がこの目を持っていなかったとしてもしません。」
「この眼を抉って薬にしようとなんてしないだろ?」
「そんなことするわけないじゃないですか! そもそもそんなこと考える人、居るわけないですし。」
「居るんだなぁそれが。まぁ嬢ちゃんがそういう人間でないのは分かってる。ただ、さっきはいきなりその魔法が解けていたから驚いちまっただけで、別にその魔法が解けていたからって嬢ちゃんが気にすることではないさ。」
「でも私が不注意にその魔法を解いてしまいましたから、魔法をかけ直すための余計な手間をお掛けしてしまいましたし……」
「いや嬢ちゃんが解いちまったのは簡易の結界であってそもそも解けて当たり前のもんだし、かけ直すのも簡単で金もかからんから気にしないでくれ。
それよりすまん、命を救ってくれた恩人にも関わらず荷物まで運ばせちまった。その上でこんな風に要らぬ心労を掛けちまって、申し訳ない。」
朝護さんはペコリと頭を下げた。
「頭を上げてください朝護様!それに私は貴方を巻き込んでしまっただけで、助けられているのは私の方です!」
「だが嬢ちゃんはこうやって怪我を治してくれただろ?」
「でも裏路地で私を助けて運んでくれましたよね?」
「それに溝でも怪我を治した上に敵を倒して逃げ道まで運んでくれたよな?」
「そもそも朝護さんが命を賭けて私たちの盾になってくれたからああすることが出来たんですよ?」
「けど溝で見せたあの力といい、裏路地でも俺なしでなんとかなったんじゃないか?」
「いやアレは朝護様が来ること前提の行動というか……」
「あ? どういう事だ?」
「えっとですね……クシュンッ! す、すみません」
説明しようとしたところで、くしゃみが出た。
恥ずかしさに赤面する私の服を一瞥してから、彼は「あちゃあ」と顔に手を当ててから口を開いた。
「すまん、濡れた服のまんま長話するもんじゃないな。取り敢えず火を起こせる場所に移るか。」
「クシュンッ!……いえまだ安静にしていてください。私が準備を……クシュンッ!」
「おいおい、そんなんで言われてもなんの説得力もないぞ? 俺もこんなところにいちゃ嬢ちゃんみたく身体を冷やしかねんからな。今は移動した方がいいだろ?」
「……分かりました、クシュンッ! お気遣いありがとうございます。」
「それに、嬢ちゃんの格好を見てるとこっちが申し訳なくなってくるからな……」
「?」
「分かんないならもう一度ちゃんと自分の体を見てみろ。」
そういうと朝護さんは立ち上がり、荷物を抱えて泉とは反対側へと向かってしまった。
私の体に何かあるんでしょうか?
改めて自身の体を見下ろす。
別に怪我も傷もないし、濡れているしか普段と違う点はない。
ん?濡れている?
そこでようやく気づいた。
濡れた服が体に張り付いて、私の体のシルエットを映し出していたことを。
バッ!
誰もいない洞窟で私は体を隠すように身を捩らせた。
ふと視線を向けると、そんな私を幽霊さんが微笑ましいものを見る目で見ていた
「き、気付いていたなら早く言ってくださいよ、バカ!」
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