第9話 逃げ道 Ⅳ

 父なる神は人と2度お会いになる。

 

 一度は人として生まれる前。

 二度目は死んだのちである。


 それ以降もその後も、我々は彼にお会いすることなど能わない。


 故に神を想いなさい。

 (北方教会 正聖典 第四章第一節)


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「すまないが、俺たち兄弟は別れた妹を探していてね。

 初めての西都ってことで浮かれてしまったらしく、迷子になってしまったんだ。

 異国の御仁と一緒にいたと言う噂を耳にしたので、片っ端からこうして異国の御仁に聞きまわってたってわけさ。

 いやぁほんとお恥ずかしい。」


 そう朗らかに語る彼はケルン・ホッフと名乗った。

 騎士にしては身長もそう高くない彼は明るい笑顔を浮かべ朗らかに語っている。

 いかにも人好きのする雰囲気を浮かべるこの美青年には、つい心を許したくなってしまう魅力があった。


 だがそれを台無しにしている奴がいる。

 後ろで睨んでくるこの女騎士だ。

 名前すら名乗らないこの女はすらっとした長身で、何もしていなければ知的な女性に見えたことだろう。

 だがその目は侮蔑と怯えが混ざった濁った光を湛えており、立ち姿には「変な動きしたら殺す!」と言わんばかりの警戒が滲み出ていた。

 その様は、蛇を前にして尻尾を膨らませるリスの如く。


 この対照的な二人はどう見ても兄弟には見えない。

 それに加えて件の御令嬢を探している二人組の騎士と来た。

 十中八九、独房にいたジャートンが語っていた御令嬢お付きの騎士たちだろう。

 名前は確か──




「アンタらがケイとアイラか?」




 先程まで人好きのする笑みを浮かべていた青年が素早く隠し持っていたナイフを突き出してきた。

 おい女騎士、警戒っていうのはコイツみたいにやるもんなんだよ。


 だがその女騎士の反応も見事だった。

 青年の影を囮にして俺の側面下からダガーで刺し貫かんとしている。

 たしかにそこは死角だが、ちょっと殺意が高すぎる。


 俺はナイフを手に突っ込んでくる青年騎士の腕を掴むと、引き込む力を遠心力に変え女騎士に放り投げた。


 ほぅ、やはりいい動きだ。

 青年騎士は地面を転がることでその勢いを殺し、即座に反撃の態勢を取る。

 女騎士も同様に投げられてきた青年をひらりと交わすと、身を地面に滑らせるように潜り込んできた。


 だが残念そこには俺はいませんよ。


 襤褸小屋のヘリを掴み腕力で持ってグイッと体を持ち上げた。

 女騎士は俺がいた空間を駆け抜けていく。

 そのまま屋根上に登ろうとした俺だがそこは襤褸屋、俺の体重に耐えきれず屋根が崩壊した。


「ふげぇっ!?」

 あ、すまん。


 不運にも俺の真下にいた女騎士が踏み潰される音がした

 しておいたので死にはしないが、その蛙の如き無様な声は彼女の尊厳を深く傷つけてしまったかもしれない。すまない、襤褸屋。請求書は女騎士につけといてくれ。


「っ! っ!」


 二筋の銀光が走った。青年騎士がナイフを投げてきたのだ。

 いいねそういう曲芸、俺も得意だぞ。


 俺は地面に落ちていた木材を蹴り上げ盾とした。

 カカンッと言う心地いい高音が木材越しに聞こえてきた

 アッぶな半分貫通してるじゃん。


 青年は、今度は五つもの銀光がを放ってきた。たいした練度だ。全てがあの威力なら溜まったものじゃない。

 俺は青年騎士の視界を奪うように木片をぶん投げて2本の銀光を止めた。


 そして、そのを足場に俺は青年騎士へと接近した。


 通常ならありえない出来事に反応しきれなかったのだろう。

 驚きに目が見開かれているうちに、青年騎士がのアゴを蹴り飛ばした。


「っっ!!」


 たまらず仰反る青年騎士。

 それでも体勢を立て直そうと踏ん張っている。


 たいした根気だな。


 踏ん張っている足に払いを決める。

 仰向けに木材の山に倒れ伏した青年騎士の喉元に、彼を投げ飛ばしたときにくすねた投げナイフを突きつける。


「ナイフは投げるよりこうやったほうが当たりやすいぞ?

 覚えとくんだな。」


 気分が上がりすぎてめちゃくちゃ煽るみたいなこと言ってしまった。

 まぁ、コイツらから始めた喧嘩だからこれくらいいいよな?




 最近の不満が吹き飛ぶような楽しいひと時を過ごした



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