第6話 別に
『史月が料理する気になったみたいで。初心者だし。今回はサンドイッチに挑戦してみた。トマトは史月が切ったし。ちょっと潰れたけどな。スクランブルエッグは生卵から作ったんだぜ。ほら、この綺麗な黄金色。食欲そそるよな。レタスも十分水が切れているし、食パンを押すのも軽すぎず重すぎずいい塩梅だったし。後片付けも手際がよかった。すごく美味しそうなのに、完成したサンドイッチを見ていたと思ったら、急に俺にあげるって言って、自室に行ったんだよ。どうしたんだろうな』
研究室から地上へと上がって、外に出て、家へと戻った浅葱に皿に乗ったサンドイッチを眼前に見せつけながら、ゆっくりと説明をした都雅。追いかけようかどうしようか迷って、結局止めたと締めくくった。
「ふ~ん」
「ふ~ん。っておまえ」
目を前髪で隠していて正確には分からないが、何の感情も宿っていないように見えるのは、心の底からか、それとも表層だけか。
非難しようとしてやめた都雅は五秒間思案して、口を開いた。
「薬草作りがうまくいってないのか?」
「ん。ああ。ちょっとな」
言うや、浅葱は木の椅子に深く腰をかけて、のけぞった。
「また薬草の盗人か?」
「いや。あれは史月が対処していてくれるから今のところ、問題ない」
「ああ、言ってたっけ。すごいよな、史月。盗人をお縄で頂戴してんだから」
「結界師は保護専門家だから、身体能力も高いんだろうな」
「………だろうなって。おまえたち会話してんのか?」
「必要最低限はしているんじゃないか?」
「おまえ。史月の目が輝くさまを見たいとか言ってなかったか?」
「ああ。言ったな」
「なのに知ろうとは思わないのか?」
「ああ、別に」
「………ん~。まあ、おまえが。おまえたちがいいならいいけど。とりあえず。サンドイッチどうする?」
浅葱はのけぞったままサンドイッチを一瞥して、おまえにやったんだからおまえが食えと言うや、目を瞑り、ほどなくして睡眠へと入っていった。
「えええ。まあ」
都雅は迷ったが、最終的に二人が食べろと言っているのでと納得させて、一口でサンドイッチを口の中に招き入れてのち、ゆっくりじっくり味わいつつ、浅葱を横抱きして自室へと運んだのであった。
「うん。うまい」
(2021.10.5)
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