第3話 食事
何も変化しないか、損傷するか、死に絶えるか、潜在的能力が引き出されるか、進化を遂げるか。
災害に見舞われた薬草たちがどのような道へと進むのか。
無限ではないものの、時間は優にあるのだ。
具に観察し、効能を調べ、その都度提供できる薬草を提供すればいい。
などというわけにはいかず、期限までに求められた薬草を提供しなければいけないのは、薬草師の悲しい運命である。
などと、嘆いても仕方ないのだが。
自前の薬草畑に居た浅葱は結界縄で保護された薬草を一本根ごと丁寧に引き抜いてから、地下の研究室へと向かおうとしたのだが、その前に都雅に呼び止められて、彼の下へと歩を進めた。
「ほれ。注文票と朝飯の木の実パンに、かぼちゃと人参のゼリー」
「ありがとうな」
三枚の紙の注文票と都雅手作りの朝食を受け取った浅葱の顔に、都雅は厳めしくした顔を近づけた。
「おまえら。また薬草だけでめしを済ませてないよな」
「済ませている」
悪びれもなく堂々と言う浅葱に、都雅は盛大に肩を落とした。
浅葱も史月も必要な栄養分が取れて腹が六割満たされればいいとの思考の下、たいてい朝昼晩薬草で済ませているが、まるきり食に無頓着ということでもなく、持ってきたご飯に対しては、美味しい美味しいと喜んで食べているのだ。
「おまえが一人暮らしを始めて三十年、史月が来てもう五年経つだろう。薬草メインじゃないめしぐらい自分たちで作ろうと思わないのか?」
「歩く、品定め、客躱し、店員躱し、洗う、切る、焼く、煮る、炒めるなどなど。めんどい」
「いや、ほぼ薬草でやってんだろうが」
「薬草だけでも身体が足りないくらいなのに、違う材料を使っためし作りなんて、無理だな」
「史月は………無理だな」
「ああ、薬草めしで満足しているからな」
都雅は片手で目を覆って、天を仰いだ。
命に別条がないから、厄介なのだ。
(まあ、満足………しているのか?)
いやどうなんだろう。
食えるもんなら食いたいと思っているに違いない。
料理師も紹介しようか。
と、幾万思ったか知れないが、相性が悪そうだしなあと、いつも思い留まってしまうのだ。
(また、史月を飯づくりに誘ってみるかな)
別に毎日食事を作れとは言わない。
週に二回程度で構わないのだ。
(あいつの楽しみになるかもしれないしな)
都雅はうんうんと大きく頷いて、さてどう誘ってやろうかと満面の笑みを浮かべた。
(2021.9.23)
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