第22話 救援


 「はぁ……何だかんだ長くなっちまったな」


 「雨だったからな、仕方ねぇって」


 「お陰で捗ったのは麻雀だけだったねぇ」


 なんて事を言いながら甲板でグッと背骨を伸ばす。

 もう目の前には、シーラ王国の街並みが見える。

 数年ぶりではあるが、懐かしいと思えるこの光景。

 どいつもコイツも、元気でやっているだろうか?

 なんて事を思いながら船乗り場に船を止めると、ご丁寧に向こうからタラップ……といか階段と言った方が良いのか?

 そんな物が近づいてきた。


 「へぇ……やっぱ王族が乗っているって事で、お迎えも準備万端だな」


 ソイツが黒船に設置されるまで大人しく待っていれば。

 船内からは欠伸をかますエルフの女王様と、護衛達がゾロゾロと出てくる。


 「ついたー?」


 「着いたぞ、シャキッとしろシャキっと」


 「昨日の熱い夜の戦いが効いてましてねぇ……」


 「お前が役満あがるまで止めないとか言うからだろうが……」


 変わり者のエルフの島。

 通称“飯島めしじま”のトップが、眠そうな顔で目を擦っている。

 そんな事をやっている内に黒船に繋がれる階段。

 下からは「お待たせいたしましたぁ!」なんて声を上げる、いつか見た兵士達の姿が。


 「さて、行きますかね」


 「エスコートをお願いしても?」


 「へいへい。そういうのは苦手なんですがね」


 なんて軽口を溢しながら、ウチの国のトップの手を取る。

 ゆっくりと、慎重に。

 とか思っていたのに、意外とスタスタと降りていく姫様。

 エスコートとか、いる?


 「待っておったぞ、悪食」


 「てめぇが待ってたのは俺らじゃなくてこっちの姫様だろうが。このアロハジジイめ」


 「はっはっは! 相変わらずのようじゃの!」


 階段を最後まで降りてみれば、いつか見たアロハジジイがものっ凄い笑顔で待っていた。

 こっちもこっちで相変わらずの様で、非常に緩い。

 はぁ、とため息を溢していると。


 「ひゃっはぁぁ!」


 「「姫様ぁぁぁ!」」


 「空中三回転&縦回転マシマシじゃぁぁぁ!」


 「ひょぉぉ! ニシダさん最高ぉぉ!」


 馬鹿な叫び声と共に、ズドンと音を立てて西田が降って来た。

 その腕に、飯島のお姫様を抱えて。


 「お前らさ……いや、良いけど。いや良くないのか」


 「カッカッカ! 我々の会合としちゃ上々じゃろ。 ちなみにニシダ殿、儂もさっきのやってくれんか?」


 「別にいいけど?」


 「やめろっつの。人集まって来てんだから、自重しろ」


 アホな事をやっている内に、船の周りに一般人まで集まって来てしまった。

 そして、そこら中から手を振られる。

 懐かしい顔もチラホラ。

 そんな訳で、手を振り返していると。


 「全員下船致しました、リーダー」


 いつの間にか後ろには黒船に乗っていた皆々が揃っており、その先頭の中島が頭を下げていた。


 「へぇ、コレが皆の飛ばされた国かぁ」


 「正確には森の中、という話でしたけどね。外国に来るのは初めてです、ワクワクしますね」


 「美味しいモノ、探す」


 興味津々のアイリに、いつもより落ち着きのないアナベル。

 そしてもはや食う事しか考えていない白がフンスッ! と鼻息を荒くしておられた。

 コイツ等は……一応仕事で来たんだからな?


 「では、城に行く前に軽く挨拶でもしておこうかの。シーラ王国代表、カラド・クレイルド・シーラじゃ」


 「どーも。“飯島”って言った方が分かりやすよね? そこの代表、リナ・スレイ・イルクレイズ・フォールターですよっと」


 どいつもコイツも名前がなげぇ。

 というかジジイの名前は初めて聞いた。

 でも覚えられる自信がない。

 そんな訳で、ジジィで良いか。

 とか何とか思っていれば。


 「カラド・クレイルド・シーラ様。リナ・スレイ・イルクレイズ・フォールター様。よろしくお願い致します。イージス国代表、シルフィエット・ディーズ・エル・イージスと申します。今後とも、友好的な関係が築けたらと思いますわ」


 そう言ってスカートの裾をソッと拡げるウチの姫様。

 うっそん、さっきので覚えられたの?

 というか、誰一人フルネーム言える気がしないんだけど。

 とかなんとか、色々思う訳だが。

 視界的に色々と複雑なのだ。

 アロハジジイに、着崩した着物のお姫様。

 そんでもってウチの姫様は……真っ黒いドレス。

 その周りには俺達、黒い鎧をまとった連中が集まっている。

 これはなんというか、酷い。

 混ぜるな危険、みたいな光景になっているんだが。

 コレ、大丈夫?

 各々個性が強すぎなのだ。

 俺達が言えた義理ではないかもしれないが。


 「ま、とりあえず城に行こうかの。馬車は用意したから、各々好きなモノに乗ってくれ」


 「えー、せっかくなら“黒い戦闘用馬車ブラックチャリオット”で行こうよぉ」


 「バッカ野郎、あんなもん街で引きずり回したら間違いなく被害が出るわ」


 「是非ブラックチャリオットにもう一度……」


 「姫様まで……勘弁してくれ」


 なんて、アホな事を言い合っていたその時。


 「貴様ら! 何をしている……って、ユーゴ様!? どうなされたのですか!?」


 周囲に集まって警護の連中が、妙な声を上げた。

 騒がしくなる群衆、そして人の群れをかき分ける様にして飛び出して来たソイツは。


 「北山さん!」


 彼は、随分と必死な顔で叫び声を上げた。

 薄汚れた革鎧。

 ドロドロで、ベチャベチャ。

 俺らが森から帰って来た時の様な姿。

 そんな彼がヨロヨロと俺達の元へ走り寄り、両膝をついた。

 そして、その後ろからワラワラと現れる数多くのウォーカー。

 その顔には、半分以上見覚えがあった。


 「お願いです、助けて下さい! 無理な事を頼んでいるのは分かっています! でも、助けて下さい! 俺らのリーダー達がピンチなんです!」


 良く分からないが、彼らは皆揃って土下座を始めてしまった。

 先頭のユーゴと呼ばれた少年。

 それに続いて、どう見ても貴族だろってくらいの可愛い女の子が二人。

 更には、いつか見た生意気な態度の“森の専門家”達まで。

 その他、知らない顔もチラホラ居る訳だが。

 なんだこりゃ?


 「お前、勇吾か?」


 「はい! 勇吾です! お久し振りです!」


 「随分デカくなった、というか立派になったな……んで、どうしたよ?」


 「それが……」


 勇吾から状況説明を受けている間、王族連中も静かに話を聞いていてくれた。

 普通なら、この場に突入した事でさえ重罪だろうに。

 それでもこの三人の王だからこそ、そのまま聞いてくれた。


 「だから、お願いです……助けて下さい。お願いします、俺に出来る事だったら何でもします。 だからどうか、ウチのリーダーを。墓守さんを助けて下さい!」


 目に涙を溜めながら、随分と大きくなった勇吾は俺達に懇願した。

 まるで彼に初めて会った時の様に。

 大きくなっても、変わらないモノもある。

 別に彼が情けないと言っている訳じゃない。

 こんなに大きくなっても、俺達に助けを求めてくれる事が純粋に嬉しかったのだ。

 だからこそ。


 「姫様、スマン。護衛の数を半分に減らしても良いか?」


 そう言い放てば、彼女からはやれやれとため息が返って来た。


 「そう言うと思っていましたよ。むしろ全員で行かなくてよろしいのですか?」


 「“こっち”を知っている奴等だけ連れて行く。それ以外は引き続き護衛だ」


 「では、行ってらっしゃいませ。私の知る“悪食”は、こういう場面で誰かを見捨てる英雄ではありませんから」


 「英雄じゃないんですけどね……すんません、行かせてもらいます」


 「はい、行ってらっしゃいませ。“谷底”に注意を払ってくださいませ、きっとソコに居ます。今、そう“視えました”」


 「感謝しますよ、姫様」


 という事で、俺は勇吾を肩に担ぎ上げた。

 そして。


 「西田、東、南! 行くぞ! 疲れている所悪いが、勇吾は道案内だ。南ぃ! “足”を出せ! 日帰りで終わらせるぞ!」


 「はい、ご主人様!」


 そう言って取り出されるのは、仰々しいという言葉を通り越した様な巨大な馬車。

 戦闘用馬車、というか戦車。

 “向こう側の知識”を持ってしても、コレは戦車という他なかった。


 「御者は私が勤めます、皆様乗り込んでください!」


 南が手綱を掴めば、人形の馬たちが力強く鳴き声を上げる。

 ブラックチャリオット。

 陸において、コイツ程信用の置ける存在を俺は他に知らない。


 「イヤッホィ! 久々に見るけど、やっぱり私が作った戦車は格好良いよ!」


 「塗り替えただけじゃなかったのか?」


 「連結する仕組みを作ったのは私だもん!」


 エルフの国のお姫様と軽口を交わしている間に、遠征メンツは乗り込みが終わったらしい。

 早くしろとばかりに、西田から手招きされてしまった。


 「んじゃ、すまねぇ姫様。ちょっと行ってくる」


 「はい、行ってらっしゃませ」


 「すまない悪食……“森”のクランは、この国にとっても重要なウォーカー達じゃ。報酬はたんまり出す。だから、頼む」


 そんな言葉を頂いてから、こっちはこっちで仲間達に視線を向ければ。


 「いってらっしゃいキタヤマさん! お姫様の護衛は任せてよね!」


 「早めに帰って来て下さいね? 私達にとっては全てが初の土地なのですから」


 「北、お土産よろしく」


 「リーダー、ご無事をお祈りしております。 いってらっしゃいませ」


 彼等の言葉に、俺たちはグッと親指を立てた。

 そして。


 「行きます! 本気で飛ばしますから、皆様捕まっていて下さいね!」


 南の一言と共に、ブラックチャリオットは走り出した。

 とんでもない勢いで、遥か先に見える山に向かって。

 勇吾が窓から顔を出し、何かを叫んでいるが。


 「おい、マジで止めた方が良いぞ。戻れ、勇吾」


 「す、すみません北山さん」


 「ま、いいさ。久しぶりだな」


 「はい! お久し振りです!」


 何だかんだ、現地に到着するまでの間。

 現状の報告と、思い出話に花を咲かせるのであった。


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