不完全で異常な、出来損ないの日常

こばや

そして今日も失敗する

『お前みたいな出来損ない、この世に産まなきゃよかった!!!』



 もはや口癖のような母の言葉を、私は物心ついた頃から聞いてきた。


 初めこそ

「なんで……なんでいつもこんなこと言われなきゃいけないんだ……っ!!」

 と心の底から悔しい思いが湧いてきていたが、今は感じられない。


「あーあ……また言われちゃったよ。ははっ……」


 この程度の反応だ。



 父は何も言わない。母を宥めるでもなく、私を擁護することもなく、ただ何も言わない。


 ただただ私が怒られる様をただジーッと眺めて観察する。

 何を考えているのか分からないし、分かろうとも思わない。


 不快にも思えない。ただ、こんな男にはなりたくないなぁ……と思うくらいだし、こんな男の元に生まれたくもなかったなぁと時たま考えるくらいだ。


 これが日常で、常に異常だ。


 けれど、その異常は学校にも伝播する。



「おい不完全野郎、なんで今日も来てるんだよ」

「お前みたいなのは、障害者って言うんだろ? だったら学校なんか来てないで大人しく部屋に籠ってろよ!」

「ココは人間様の来るところなんだよ!!」


 私が親から『出来損ない』と言われているのが学校中に知れ渡ると、すぐさまみんなの態度は豹変する。

 知る前までの優しさはなんだったのかと、疑いもしたが、そもそもおかしいのは私なのだから仕方がない。


 そうしていつも、私は学校を早退する。

 教師からは何も言われない。

「今日はもういいのか?」

 そう声をかける教師もいるが、表情は『面倒な子が帰ってくれてラッキー』と言っているようにしか見えない。



 早退したところで、すぐに家に戻る訳では無い。家に戻ってもいつものように罵られるだけだ。



 だから私はいつも、カッターを片手に公衆トイレに引きこもる。



「今日こそは……上手くできるかな……?」


 そう言って中に入るも結局いつも、気持ち半ばで諦めてしまう。


 胸と股間に痛みを感じながら。



 私は出来損ない。


 男でもなければ女でもない。


 中途半端に胸は膨らみ、中途半端な形で男性器が生えている。

 女性と言うには体つきは丸くなく、男性と言うには柔らかすぎる。


 何もかもが中途半端で、出来損ない。それが私。


 せめてどちらかの要素を削ぎ落とそうとしたけど、今日もダメだった。



 あぁ……いつになったら、出来損ないと言われなくなるんだろうなぁ……。




 やりきれない気持ちを胸の内で語りながら、私は家に帰る。


『出来損ない』と言われる日常へと……。

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