第116話真っ先にトラックへつっこんでもらおう。次の主役は『あなた』です。

「やったぜー!」


「ありがとう」


「信じられない?」


「いや、信じられないです」


「本当におめでとう!よく頑張った!ねえ、いやあーーーー、長かったなあ」


「長かったです」


「ねえ、今の気持ち。正直」


「胸がいっぱいです」


「では大優勝旗を渡すことにしましょう。ぶっ壊れた天才まさき審査員長から渡されます。はい」


「ぶっ壊れた天才まさきです。優勝おめでとう」


「ありがとうございます(うわー、まさきさんだあー、ワクワク。かっこいいなあー)」


「おめでとう!」


 一万と五十人の『モブ』となった『敗者』から拍手が巻き起こります。楽器を演奏できる人なんかは演奏で盛り上げてくれてます。いいですねえ。


「いやあ、酒が大好きなんだよなあ。ねえ、これを一万と五十名の『モブ』たちは君がどこまで飲むか楽しみにしてるんだよ」


 そう言いながら勝利のシャンパンを半径一メートルほどのデカいグラスに注いでます。シャンパン十五本分ぐらいですね。どんどん注いでます。


「さあ!飲んで!『異世界横断ウルトラクイズ』チャンピオン!」


『バンザイ!』


『バンザイ!』


『バンザイ!』


 なんだかんだで『モブ』の皆さんも優しいですね。同じ志を持つ書き手ですもん。


「おいおい。最後まで飲み干さないと。飲めない?もう飲めない?飲めない時は自分でかぶりなさい!」


「はい!」


「うわあーー!はははは!はい、自分でかぶるー!もう一本!いえーい!おめでとおー!」


 そして多くの『モブ』たちが『傷』こと横田さんを担ぎあげます。


「ほーら、担いで担いでー。おめでとー!」


「ありがとー!」


 ここで敗者となった『詩人からの手紙』の成田空港渡辺さんも笑顔で拍手です。



 優勝セレモニーが終わって横田君がポツリと呟いた。初めて周りの景色を見る余裕が出来た、と。それほど緊張が続く長い道のりだったのです。それでも日々の更新は欠かしませんでした。しかし敗れた渡辺さんにはこの最終決戦の格闘場を眺めるゆとりさえなかったのかもしれません。この時横田君が恐らく初めて味わう『勝つことの心の痛み』を感じていたのでしょう。この『ネオヨーク』にいるのは勝負しなければならなかった友情熱き二人の『書き手』なのです。


 代表作『傷』の横田さんと代表作『詩人からの手紙』の渡辺さんがセレモニー後、初めて熱い握手を交わします。


「いやあ、参ったよ。強かった。おめでとう。強かったよ」


 涙を我慢する横田さんは言葉に詰まります。笑顔になりたいはずなのになれない。そんな横田さんの右手を両手でがっちりと包み込む渡辺さん。


「一緒にここまでこれたのが嬉しかった。本当にありがとう」


 目を瞑って渡辺さんの言葉を噛みしめる横田さん。


「どうしたんだよー」


「いや…、え?急に酔いが回ってきちゃったのかな?」


 最後まで若旦那はカッコいいですね。


 そして。



「優勝したなあ」


「はい」


「異世界コロシアムでの言葉、覚えてるかい。優勝賞品」


「ええ。確か『望むもの何でも』と」


「そうだ。チートだろうとハーレムだろうと君は勝者なんだから。『異世界横断ウルトラクイズ』に二言はない。君には望むものを何でも与えよう。リッチだぜ」


「…」


「うん?どした?迷うところか?願いを三つにするか?それもありだぜ。『異世界横断ウルトラクイズ』の頂点なんだからな」


「それなんですが…」


「なんだ?」


「いろいろ考えたんですけど…」


「けど?」


「ハーレムとかチートもいりません」


「え!?マジで!?お前気は確かか?」


「はい」


「それで」


「とめさんやとくさんが言ってたじゃないですか。『異世界ウルトラ』は『敗者が主役』だと」


「そうだぜ。でも勝者は勝者だぜ。チャンピオンだぜ。君は一万と五十一名の」


「でもそれはやっぱり同じ志、『書くこと』を頑張ってる人たちがいたからであって。最後のセレモニーもそうですが、決勝戦での一問ごとの拍手を聞いてるうちに『ランキング』だとか『読み専』だとか『書籍化』だとか。そういうのを卓越した一体感を感じまして…」


「そうだよな。途中はジェラシーの嵐だったが最後はリスペクトの嵐だったよなあ」


「なので。考えたんです。皆さん全員を現世に戻してください。そして来年また同じメンバーで第二回大会をやってくれませんか?」


「え!?いいのか?」


「はい」


「ハーレムもいらないの?」


「はい」


「チートも?」


「はい。それより僕の願いは叶いますか?」


「そりゃあ出来るけど…」


 現世に戻れると知り、歓喜の雄たけびを上げる一万と五十名の『モブ』たち。そして一斉にコールです。


「きーず!きーず!きーず!」


「だれーかオーレにー、きーすをつーけてくーれえー、胃やーされーないー、おれーのころころうぉー!」


「分かった!じゃあ一年後に第二回をやるぞ!それまでおめえら!『書くこと』を続けろよ!そして『更新』をまめにな!」


「はい!」


 この様子を眺めていた横田君の表情には『書くこと』を続けることの喜びに溢れていた。誤字脱字が多かろうと、誰にも読まれない作品だろうと、書かれた作品には『書き手』の魂が宿っていることを。そして君が教えてくれたのは『書くことの喜び』。そしてもう一つは『友情』だったに違いない。君と死闘を繰り広げたかつてのライバルたち。その『友情』がこれからの人生に、『書くこと』にどれほどプラスになるか、それは君自身が一番よく知っていること。本当は旅館の若旦那ではなく建築家になりたいと思っていた横田君。しかものちに最年少松本さんとは遠い親戚だったと知る横田君。『書くこと』が運命を大きく変えてしまった。しかしこの勝利で君の人生はまた大きく変わるであろう。ハーレムもチートもいらない。だからまたこの仲間たちで第二回異世界ウルトラをやりたいと言った君。その時が来たら真っ先にトラックにつっこんでもらおう。駅前旅館の若旦那横田君。代表作『傷』。君が第一回異世界横断ウルトラクイズのクイズ王なのだ。


 異世界の都、『ネオヨーク』を目指して繰り広げられた数々の激戦死闘。爽やかな出会いと別れを生んだ『異世界横断ウルトラクイズ』。ではまた来年お会いしましょう。次の主役は『あなた』です。

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異世界横断ウルトラクイズ 工藤千尋(一八九三~一九六二 仏) @yatiyo

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