第114話彼を知り己を知れば百戦殆からず

 決勝前夜。異世界に来てしまったけれど現世に電話をかけることを許された二人。


「あ、もしもし」


「あ、渡辺君?仕事の方が忙しいんだけど。今どこにいるの?」


「決勝まで来たよ」


「は?何の決勝?」


「え?あ、まあ、クイズの決勝…」


「それは頑張らないと!決勝だろ?みんな応援してるからさあ!頑張れ!」


「うん!みんな元気にしてる?」


「元気!元気!」


「まだ僕の席はある?」


「あると思うよ」


 成田空港勤務の渡辺さんの同僚は応援してます。


「もしもし」


「あ、お兄ちゃん!今どこ!?」


「え、いや…、決勝だよ…」


「何の決勝?」


「いや、クイズの…」


「クイズの決勝?すごーい!大丈夫?」


「だめ」


「相手は男の人?」


「そお」


「うっふふふふ。いくつの人?」


「二十九」


「えー!お兄ちゃんより上じゃなーい」


「そお」


「なんか元気ないねえ!」


「ええっ」


「大丈夫だよ!絶対!いくよ!だってお兄ちゃんの作品『傷』はあたしも読んでるけど身内の贔屓目ナシで名作だと思うもん!」


「でも相手の人の作品もかなりいい作品なんだよ。『詩人からの手紙』って知ってる?」


「え!マジで!あの人?知ってる!超名作じゃん!うわー、これって…、大丈夫よ!お兄ちゃんの方が勝つと思うよ!自信持ちなよ!だって毎日頑張って更新してきたじゃん!絶対大丈夫だから、ね!ね!」


「うん…」


 そして決勝当日。三匹のドラゴンにそれぞれが乗ってます。運転手付きで。


「異世界が薄い雲に覆われております。時が流れ、そして時が今、訪れたのであります。幾多の転生者が夢に見、憧れた巨大なこの大地は今日も熱気に溢れております。こうして天を切り裂く剣のような山々を見下ろしておりますと、胸の鼓動がにわかに高まってまいります。数々のチェックポイントを汗と涙と根性で勝ち抜いてきた二人の表現者が今、ドラゴンに乗って決勝の地へ向かっているところです。千葉県成田市出身、成田空港渡辺さん二十九歳。血液型A。代表作『詩人からの手紙』。成田空港モーターサービスに努めるサラリーマン。ここまで来ることが出来ましたのは夜勤時に空港の滑走路で見た流れ星のおかげと言う好青年。コツコツと積み上げてきた努力が決勝進出に繋がりました。対するのは東京都新宿区出身(あれ?山口県じゃあ…)、駅前旅館の若旦那横田さん。二十五歳。血液型O。代表作『傷』。酒にバイク、オーディオとネット小説投稿更新とちょっぴりエッチな趣味を持つ駅前旅館の若旦那。じっくり構えて勝負する、ここ一番で荒ぶるのが強烈。足かけ三年半、毎日更新も侮れません。この二人に共通していますことは共に『異世界転生』も『クイズ大会』挑戦も初めてということ。それだけにトップで通過したりラストで逃げ込んだり、ハラハラの連続でありました。ネット小説投稿サイトの女神が見えてまいりました。工事に入るとの事でありましたが空から見るかぎりではまだ以前のままであります。この様子ですとまた来年もネット小説投稿サイトの女神の問題を出せることであると思います。『モブ』の皆さん、よーくご覧になっておいてください。昨夜は異世界で一番美味いと言われる日本料理屋へ行きまして二人は初物の焼きマツタケと熱々のおでんを肴に熱燗でくいっと一杯やりました。アジの塩焼きに生ウニでまとめました『詩人からの手紙』。イカウニとアワビの刺身、最後はざるそばでまとめました『傷』。お互いの健闘を誓いあったのであります。優しさと文才溢れる二人が雌雄を決する時が近づいてきました。優しさはもう必要ではありません。彼を知り己を知れば百戦殆からず」


 そして壮大な大地に作られた立派な格闘場に着地する三匹のドラゴン。とめさんが降り、そして渡辺さん、横田さんと続きます。

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