第67話ラノベ界の為にも、否、文学界の為にも

「読み専がんばれえ!」


「読み専負けるなあ!ろりこんクソ作文野郎なんかに絶対負けるなあ!」


 一万と四十三名の『モブ』から一斉に大コールが。


『よーみせん!よーみせん!よーみせん!よーみせん!』


「こらこら君たち。彼は『読み専』かもしれないが国士館君だからね」


 とくさんがたしなめますが気持ち分かるような気がしますね。


「いくぞ問題。残る席はあと一つ。日体大。元気はあるか。国士館。自信はあるか。笑っても泣いても次で決まるか。問題。これだ!」


 タメてタメてこれです。


『ハズレ』の札です。


「おいおい。持ってないなあ。お前らは。会場はこんなに盛り上がっているのに」


『よーみせん!よーみせん!』


 一万と四十三名の『モブ』の大コールを背に緊張気味の国士館さん。チート能力『ハートイヤー』にも雑音は混ざっていません。正真正銘、『読み専』を応援する声しか聞こえません。


「(み、みんな…。みんなのために俺は…、勝つ!)」


 『ハートイヤー』の使い手国士館さんの心の耳には日体大さんの心の声も聞こえます。


「(勝ちたい!勝ちたくない!負けたくない!勝ちたくない!俺なんかが勝ち残っても…。ちまちま更新する俺なんかが…。それよりも貴重な『読み専』である国士館さんが残った方がラノベ界の為にも、否、文学界の為にも…。いかんいかん!ここは勝負に徹するんだ!逆に手抜きする方が相手に失礼じゃないか!『読み専』だとか『やたらタイトルが長い』だとか関係ない!『美少女高校生双子姉妹を拾ったらヤンデレで俺の取り合いになって困ってる件』には俺のすべてが詰まってある!胸を張れ!俺だって自分の時間を割いてまで書いてきたんだ!正々堂々と戦うんだ!)」


 ここにきて熱い思いが国士館さんの胸を打ちます。それに水を差すかの如くといいますか、クールダウンさせようと意図的なのか。理由は分かりませんが『ハズレ』の札が連続します。


「でたぜ。十枚目で問題の紙だ。これで決まる。ていうより決めてくれ。元気はあるか。国士館。自信はあるか。日体大。問題。『作家チェーホフ、モーム、魯迅、森鴎外、彼らが共通して学んだ学問はなんだ?』」


 そしてしばらく流れる沈黙、静寂の時間。


 ポーン!


「日体大。決めろ」


「医学」


 いつもとは違う、自信も元気もなく低いテンションで答える日体大さん。


 ピンポーン!


「おめでとう。日体大が最後で抜けた。正解。その通りだ。国士館はここで脱落だ」


 しかし一万と四十三名の『モブ』から一斉に温かい拍手が。それはこれまで熱い戦いを繰り広げてきた、そして『読み専』という貴重な存在である彼らにとって貴重な心の拠り所である国士館さんを労う温かいものなのです。素晴らしい!これぞ『敗者が主役』なんです!『異世界ウルトラ』なんです!とめさんも勝ち抜けた日体大さんを称えながら、敗れた国士館さんの肩を抱きしめてます。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る