前のエピソード――第54話『ぽろりこい！』

「土谷。あとがないぞ。だがまだまだチャンスはある。元気はあるか。自信はあるか。あ！揺れが！アースクロスだ！野郎が揺れてもなあ。だが耐えろ！耐えるんだ！あ、収まった。いくぞ問題。『歌という意味のフランス語はシャンソン、では歌という意味のイタリア語は？』さあこい。土谷」

　ポーン！

「土谷。待ってたぞ」

「カンツォーネ」

　ピンポーン！

「正解！時間も文字数もないから土谷君にもう一問」

「いやいや！とめさん！それはない！僕はリーチかけてんすよ！」

「『異世界ウルトラ』はなんでもありなんだ。前に言っただろ。『甘えを捨てろ』と。では問題。『ツベルクリン反応は直径十ミリ以上が陽性、四ミリ以下が陰性、ではその中間を何という？』土谷」

「擬陽性」

　ピンポーン！

「正解！土谷君に二ポイントと座布団二十枚だ。これで二人が並んだぞ。次に正解した方が勝ち抜けだ」

「いやいや！ずるいっしょ！のーかん！のーかん！」

「だからね。最初に言ったでしょ。『チート能力』も好きに使っていいからねって。多分、土屋君は何かの能力者で僕を操ったんじゃないのかな？」

「いやいや！とめさんにはチート能力通用しないって言ってたじゃないですか！」

「分からないよ。僕には基本的にチート能力は通用しないけれど、それさえも上回るすごい能力を土谷君が持ってても不思議じゃないでしょ？」

「（嘘だ！とめさんは盛り上がるために自作自演してやがる！くそ！）」

「さあ。最後だ。土谷。自信はあるか？」

「はい！」

「日体大。元気はあるか」

「元気も不満もバリバリあります！」

「よしよし。あ！揺れが！すごいぞ！グランドギガバギクロッサーパルプンテんだ！おいおい、揺れどころか飛んでるぞ。二人とも。耐えろ！耐えるんだ！あ、収まった。バランス感覚がいいんだね。ではいきます。問題。『食パンを小さなサイコロ状に刻んで揚げスープに浮かせるものはとくに何というかな？』」

　ポーン！

「日体大が早かった。決めてしまえ」

「クルトン」

　ピンポーン！

「おめでとう！やった！最後に抜けたあ！落っこちたぜえ。土谷ぁ」

　そして最後に抜けた日体大さんをハイタッチで迎える先に勝ち抜けを決めた転生者七名たち。それとは真逆で呆然としている土谷さん。とめさんが声を掛けます。

「お仕事ぉ、帰ったらまたすぐにやらなければいけないね」

「はい。そうですね」

「まあ、帰れないんだけどね」

「はい…。そうですね…」

「ちなみに土谷君。もうすでに『モブ』決定でチート能力は使えなくなったんだけど。君はすごいチート能力を持っていたみたいだね。この場で教えてくれるかい」

「はい。僕のチート能力は『あっちか』です」

「『あっちか』？それはどんな能力なの？」

「はい。他人のチート能力をすべて『無効化』する能力です」

「え？『無効化』？すげえじゃん！だから他の転生者もチートなしでガチ勝負してるのかと思ってたけど君がすべて『無効化』してたのかあ」

「そうですね。あ、でも僕の『あっちか』は自分への攻撃を『無効化』する能力ですので。こっちからは無理です。日体大さんかな。何かの能力で僕を攻撃してたのは分かりましたのでそれを『無効化』してました。でも肝心のクイズが…ですね」

「だな。それより『あっちか』って『むこうか』にかけて名付けたの？」

「はい」

「これは『罰ゲーム』じゃなく『罰』を受けてもらうしかないなあ」

「えええ…」

「ちなみに君の書いてる作品名。タイトル。もし言いたいなら聞かせてくれるか？」

「あ、はい。『ハラヘッター☆ハラヘッター』です」

「…あ、面白そうじゃないか！今度是非読ませてもらうよ。それじゃあ『罰』だ」

「はい…」

　そして次の第九チェックポイント『ロンダルキアに憧れて』に向かう八名に向かってお決まりのあれをやるとめさん。

「こうしてなんとか次の『ロンダルキアに憧れて』に行くことが出来ましたね。バンザイしようか。『ロンダルキアに憧れて』に向けてバンザーイ！」

「バンザーイ！」

「もいっちょ、バンザーイ！」

「バンザーイ！」

　さて『罰』はこの『自信だ！爺さん！』で使った座布団の後片付け。何しろスタッフが用意した座布団の枚数は三百枚近く。これを一枚一枚、丁寧に洗うのです。

「おいおい。洗濯機なんか使ったら中綿が偏るだろう。桶に一枚ずつ入れて洗剤を入れてだな。それを足で踏むんだよ。ほらほら、靴下も脱いで。馬鹿野郎。まず、肝心な君の汚い足を先に洗えよ。そうそう。しっかりと踏んでね。全部で予備も含めて三百枚かな。一枚ずつしっかりと踏んで踏んで。それから乾燥機もだめだからね。物干し竿を用意してるから。うん、乾くのに三日はかかるかな」

　『モブ』となった土谷さんが裸足になって一枚ずつ丁寧に桶の中に入れられた座布団を踏んでます。干してます。

「こら！一回踏んだだけで汚れが取れるわけないだろ。ちゃんと見てんだぞ。あ、ほらほら、桶の水が汚れてるだろ。水も途中で取り換えろ。一枚でもキレイになってなかったら全部最初からやり直しだからね」

　乾くのにも三日かかるこの作業。土谷さんの心は「ハラヘッター」ですね。