第40話さんとりー、氷河で割ったら、かなでぃあん

 誰でも行ける異世界の果て。カナディアンロッキイ。極北の決戦。大氷河のクレパスに飲み込まれてしまうのは果たして誰か。


「とうとう来ちゃったね。コロンビアキグナス氷河。いやあ、いいねえ。あの氷河の色ってのはねえ。今立ってるところ、大体これ、三百メーター下まで全部氷河の氷なんだってね」


 暖かそうなジャケットに身を包んだとめさんが水割りを片手にもう片方の手でストックを持ち、氷を掘っています。


「何をするか分かってるね」


 ガンガンと大氷河をストックで掘り続けるとめさん。


「持っているのは『水割り』なんだが。取れたあ。よいしょ」


 水割りの入ったグラスにコロンビアキグナス氷河で掘り起こした氷の塊を投入するとめさん。


「ほーら入った。氷河の水割りです。さんとりー、氷河で割ったら、かなでぃあん」


 そしてどや顔で水割りを飲み干すとめさん。本番中に『酒』ですかあ。


「うまいぞきっと。グビグビ。ぷっはあああああー。一万年の歴史を感じますね。さ、第七チェックポイントはこのコロンビアキグナス氷河の上で行いたいと思います。お、やってきたぞ。ここだここだ。来たぜ来たぜ」


 ものすごくデカいスタッドレスタイヤの馬車に乗って十名の転生者がとめさんと合流します。


「すごい馬車だ。はい、いらっしゃい、いらっしゃい」


 それぞれが厚着した状態で馬車から降りてきます。


「おはよう、岩瀬君」


「おはようございます!」


「何だい。氷河でも掘り起こしに来たのかい?」


 そう言って岩瀬君の被ったヘルメットをポンポンと叩くとめさん。


「うわはははははは。おい、馬淵」


「おはようございます」


「今日は頭、タオル巻いてきたね」


「燃えてます」


「燃えてます。土谷君」


「よいしょお」


「どうだい。氷河の上に立った気持ちは」


「よく分かんないっすね」


「よく分かんないって。皆さん、ここからこの氷河で行います『クイズ』は。その前に松本さん。このチェックポイントの名称は何だったかな」


「え、ああ、『街角テレビ』です」


「そうだ。第七チェックポイントである『街角テレビ』で行われる『クイズ』は『氷河街角テレビクイズ』と申します」


「(そのまんまやん…)」


「(つーか、氷河に一万と四十一人の『モブ』って…)」


「(敗者復活はまだなのか!?)」


 同行している『モブ』の皆さんもなんだかんだで氷河を満喫しております。


「『街角テレビ』と言えば『カラオケ』です。あそこを見ろ!」


 とめさんが指さす方向になんと!一軒のスナックが!


「え?」


「ま、まさか…」


「そうだ!順番に一人ずつあのスナックへ行ってもらい、ランダムに選ばれたカラオケをそのまま歌詞通り間違わずに歌ってもらう。ただし、『カラオケの画面を見てはいけない』。記憶にある歌詞をそのまま間違わずに歌いきれば勝ち抜け。一文字でも間違えるとその時点で強制退店だ!」


「いや、あのお…」


「何だ。国士舘大学」


「これって…、『歌詞の引用』とかでアウトになるんじゃないですかねえ」


「さすが国士舘大学。鋭い!『小説家に楽してなろー』なら即警告だ。『運営がクソなカクさんヨムさん』は通報されたらやばいかな。だが大丈夫!君たちは『書き手』だろう。そこは上手く『表現を変えて』乗り切れ!ちなみに『盗んだバイクで走り出すのが十五歳』と書いただけで『小説家に楽してなろー』は警告メールを送ってくるそうだ」


「表現を変えるですか?」


「そう。君たちは『書き手』なんだからさあ。漢字を上手く使うとかいろいろあるだろ。『せくーす』とかそういう抜け道をよく使うだろ。そういうことだ」


「あのお…、流れてきた曲の歌詞を知らなかったらどうなるんですか?」


「そこは『時の運』だろ。歌ってみろ。奇跡が起こるかもしれないぞ。ちなみにここまで残っている君たちなら『無敵なチート能力』ぐらい持ってるだろう。どんどん使っていいぞ。ちなみにここも携帯は繋がりません。圏外です。元気はあるか」


「おおおおお!」


「自信はあるか」


「おおおおお!」


「では始めることにいたします。岩瀬君。君からいけえ!」


「え?僕からですか?」


「あいうえお順だ。よかったなあ。ほら、行ってこい!」


「はい!」


 そしてコロンビアキグナス氷河の上にある一軒のスナックへ走り出す岩瀬君。スナックに到着しドアを開けます。


「いらっしゃーい。わたくし、総合司会であり、このお店のマスターであります大木の凡ちゃんでございます。それでは歌ってもらいましょう。切ない乙女心を純文学『ランドセルが似合う妹が実の兄である俺にずっこんばっこん』岩瀬さんが歌ってくれます。『渚のはいから人魚』。どうぞ!」


「(ええええええええええええ!知らねええええええええええええええ)」


 てってれてってれてってれ、たたん、ず・き・ど・き・ず・き・ど・きゅん、うー、うー、てってれてってれてってれ。


「(前奏が流れるううううううううううう!でも知らねえええええええ!)なーぎさのはいからにんぎょー、クーラスの美少女ずっこんばっこん♪」


「ごるああああああああ!」


 いきなり怖そうなストロングさんとたんこばさんが現れ、曲が止まります。


「なんだその歌詞は!てめえ舐めてんのか!殺すぞ!」


「おら!帰れ!この野郎!ぶち殺すぞてめえ!」


 ストロングさんとたんこばさんに強制退店させられる岩瀬君。第七チェックポイント『街角テレビ』。これはとんでもない『クイズ』であり、怒られますね。

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