第16話地獄の『機内ペーパー』

「いよいよこれから第三チェックポイント『機内ペーパー』となります。思えば最初の『異世界コロシアム』も『運』だった。『えすぽわーれ号』も『運』だった。これから初めて実力が問われます」


 ドラゴンで上空を飛びながらも拡声器で五十一名の勝ち残っている転生者に話しかけるとめさん。


「(機内ペーパーか…。チートというよりスマホがあれば余裕っしょー)」


「ちなみにこのドラゴンで飛んでいる現在、この機内は上空一万五千メートルのところを飛んでいます。スマホを持っている方はお手元のスマホをみてみてください」


「あ!圏外になってる!」


 ざわつく機内の転生者たち。


「君たちはスマホなんか使わなくても『チート能力』があるだろう?ご都合主義のなんでもありの能力が。それをどんどん使ってくれたまえ。この『機内ペーパー』を勝ち残り、第四チェックポイントである『小説家に楽してなろー』に進めるのは四十名!つまり十一名、敗者復活でこの機内に乗っている東野さんだろうと十一名は敗者となります。わずか四十名の方だけです。思い出しますねえ。昨年の暮れ、七万人の皆様で争われました敗者復活戦のチャンピオン、北海道の増田紀子さん。奥さんでございます。警察官の奥さんでございますがその方は今、先に『小説家に楽してなろー』の世界で皆さんが来るのを待っておられます。もーね、日光の下で一生懸命泳いで、美味しいものたくさん食べてですね。のんびり楽しみながら皆さんが到着するのを待っておられます。それでは『機内ペーパー』いくぞ。まだ手元の紙と鉛筆には触ってはダメだよ。私が『はじめ』!と言ったら始めるんだよ。はじめ!…の一歩は面白いなあ。おい!そこ!ダメだろ!私が『はじめ』!と言うまで紙と鉛筆に触っちゃあダメって言っただろう」


「(『はじめ』っていっただろうが…)」


「では『はじめ』!」


 一斉に裏返しにされていた紙をひっくり返し鉛筆を握る五十一名。しかし!紙には問題どころか何も書かれてません!これはどういうことだ!?


「あのお…」


「なんだ?制限時間は四十分だぞ。さっさと書かないと時間はないぞ」


「いや…、問題が白紙ですが…」


「え?それが?」


「それがって…。『機内ペーパー』ってたくさんの問題を解くんじゃないの?」


「かばやろー!君たちは『異世界横断ウルトラクイズ』の世界に転生してきたんだろう!書くんだよ。小説を」


「えええええええええええええええええええ」


「君たちはあれだろ?ネット小説サイトに作品をアップして『書籍化』!『ランキング』!とか言ってるんだろう?SNSとかで。だったら四十分で短編書くぐらい朝飯前どころか『寝起き直後』だろう」


「マジかああああああああああ!!」


「ほらほら時間はどんどん減っていくよ。締め切りは待ってくれません。ほら書いた書いたー」


 わちゃわちゃと慌てながら紙と鉛筆で物語を書き始める転生者たち。


「(お!そういや前にネットへあげたあの短編を書いちゃえー。あれなら千文字ぐらいだったし。星もたくさんついたんだよねー)」


 しかし!そこで固まってしまう多くの転生者たち。そう!普段からパソコンやスマホでネット小説を書くことに慣れてしまっている現代の転生者たちは『漢字』を知らないのであった!


「(あれ?『ぼうじゃく』ってどんな漢字だったっけ?)」


「(や、やべえ…。『いせかい』が漢字で書けねえ…)」


「(『彼女』の『かの』って『右側が皮』であってるよな?)」


 普段から『祝!書籍化!』だとか『祝!二百万PV』だとか『祝!週間ランキング一位!』と言っていた転生者たちが小学生でも分かる漢字が書けないとは!これぞ地獄の『機内ペーパー』!


「残り二十分!」


「ええ…。マジでえ…」


 とにかく書こうと分からない漢字は平仮名でごまかしながら書く転生者たち。


「十五秒前。十秒前。五秒前、四、三、二、一、はい!それまで!鉛筆おいて!」


 とめさんの言葉で一斉に書くのをやめる転生者たち。中には時間に余裕を残し、残り十分には鉛筆を置いて書くのを終わらせていた転生者も多かったようです。つわものですねえ。


「どうでしたか?お母さん?難しかったですか?」


「ええ。クイズだと思ってましたので。『小説を書け』と言われた時はテンパりました。でも書ききりましたのでよかったです」


「あの時間で完結させたんですか。さすがですね。ドラゴンで酔いませんでした?」


「あ、大丈夫でした」


「ちなみにお母さんはどうやってこの『異世界横断ウルトラクイズ』の世界へ?」


「ああ、私は引きこもりでニートの息子にお説教をしたらキレられまして。そのまま包丁でめった刺しにされちゃいまして。気が付いたらこの世界に転生してました」


「それは大変でしたね。あんまり甘やかすとやっぱそういう育ち方しちゃうんですかね?」


「いえ、息子は悪くありません。私がすべて悪いんです」


「そういうとこだと思いますよ。甘いなあ」


 戦士の休息です。機内食が配られます。もうこれで帰るんだ。いいんだ。ドラゴンに乗れたんだから。やけのやんぱち。男のやけ食いだ。『小説家に楽してなろー』へ進めるのはこの中で四十名。そしてドラゴンが次の世界である『小説家に楽してなろー』に着陸します。そのまま『小説家に楽してなろー』の地を踏むことなくUターンする転生者は十一名。にぎにぎしくも出迎え一名。昨年暮れの敗者復活戦のチャンピオン、シード選手の増田紀子さん。そうです。『小説家に楽してなろー』から参加するのです。


「いやあ、いい天気ですねえ。いいなあ。やっぱり、この『小説家に楽してなろー』の世界は。あ、カメラマンさん。あっちに綺麗なお姉さんがいますねえ。はわゆー。かわいいねー。ほわっちゅあーねーむ?」


「いえー、さぶりな」


「ほわっちゅあーねーむ?」


「おー、しえら」


「きすみーおんざちーく」


 ちゅっ♡


「おー!さんきゅーべりまっち!いやあ、『小説家に楽してなろー』に来たなと実感が湧きます!あれ?こんにちはー!」


「ご無沙汰しております」


「いえいえ。こんにちは。こちらこそお久しぶりです。ようこそお越しくださいました。どうでした?先乗りでの生活は」


「楽しかったです」


「それはよかった」


 史上最大の敗者復活戦の優勝者である増田紀子さんと再会を果たすとめさん。思わず笑みがこぼれます。さあ、この第四チェックポイントである『小説家に楽してなろー』の地を踏める四十名は果たして!?

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