スマホをうっかり壊したら、妹風ヤンデレ幼馴染が彼女になりました

霜月琥珀

スマホをうっかり壊したら、妹風ヤンデレ幼馴染が彼女になりました


 ――スマホを壊しただけなのに、俺は『死』を確信した。

 

 俺はそう遠くないうちに……殺される。


 六つ歳下の幼馴染の手によって……。



 俺は上京したばかりの田舎者――佐藤結翔。歳は二十三で、彼女は今までいたことがない。つまりは非リア充。社会的立場で言うなら、新社会人といったところだろうか。


 しかし、最近は適切な指導のお陰で仕事についていけるようになって、絶好調である。

 自分で言うのもおかしな話だが、ようやくスタートラインに立てたと思っている。


 それもこれも全部、優しくて凛々しい上司のお陰である。

 そんな時期だというのに、俺はこれから冗談抜きで殺される。


 幼馴染で妹のように可愛がってきた東條可憐の手によって……な。


 あぁ……どうしてこうなった。どこで俺は間違えてしまったのか。

 と、自分に問いかけてみるが、別に俺が何かをやらかしてしまったわけじゃない。


 そう……俺はスマホをうっかり壊してしまっただけだ。何も悪いことはしていない。

 だが、それが問題だった。


 花蓮にとっては……な。


 勿論、俺もスマホを壊してしまったことには多少なりともショックを受けているが、可憐はその比ではないぐらいのショックを受けてしまう。


 ……俺に対する想いが重すぎるあまりに。


 何を言っているかわからないかもしれないが、これは事実。


 可憐は重度のヤンデレで、一時間――いや一分でも俺との連絡が途絶えてしまったら、迷わず家に凸しにくるのだ。

 あ、誤解しないでほしいんだが、四六時中そうじゃないからな。


 寝るときとか仕事中は勘弁してもらってる。


 昔はただただ可愛い妹みたいな存在だったが、今では見る影もない。

 と言っても、俺だって別に可憐のことが嫌いなわけじゃない。


 可憐は愛が重すぎて暴走してしまいがちだが、付き合い方さえ間違えなければ、凄く思いやりがあるいい女の子だ。


「まあ、今しがた、付き合い方を間違えたばかりだけどな……」


 俺はソファーに腰かけて、頭を抱える。

 そして、目の前に設置されている机の上に置かれている白紙に目をやった。


 今から遺書を書こうかと思っているのだが、何を書けばいいのかわからない。

 だって俺、別に死にたいわけじゃない。そもそも死ぬつもりもないわけだし……。


 しかし、今日中に可憐が家にやってくる。

 可憐に住所を教えた覚えは全くないが、何らかの方法で住所を特定して、家に押しかけてくるに違いない。


 それに、俺の契約しているマンションはセキュリティが甘いというより、もはや存在していないと言った方が適切だ。


 つまり、位置情報がバレてしまったら即終了というわけだ。

 タイムリミットはそうだな……今日いっぱいといったところだな。


 壁に掛けられている時計を見るに、残り四時間。それまでに、俺は自分の命を守る算段を確立する必要がある。


「まったく、思いつきやしないが」


 というか、理性がぶっ飛んだ状態の可憐に何を言っても無駄だと思う。

 力で抑えつけようものなら、それ以上の力を発揮してきて、逆に俺がやられてしまう。


 つまるところ――詰み。俺の人生は今日までということだ。

 それが、スマホを壊した時点で確定した。


 ……一応、存命させる方法はある。


 しかしそれを選択すれば、俺は社会的に死ぬことになるだろう。

 どのみち死ぬのであれば、無理に生きる必要もない。


 俺はもう諦めた。


 本当は好きなように恋愛して、好き同士になってから結婚して、子供も二、三人作って、それで……幸せな家庭を築きたかった。


 でも、可憐がいる以上、それは不可能だと理解している。俺以外に依存する対象を見つけたならば、その願いも達成できたのかもしれないが、その兆しは一向に見えなかった。


「短い人生、そして……運が悪い人生だったな。……来世に期待して、死ぬとするか……」


 俺は目を閉じた。俺は寝ることが唯一の趣味で、大好きなのだ。


 最後ぐらい、好きに眠ってもいいだろう。


 そうして、俺の意識は闇の中へと沈んでいった。


 次、目覚めたとき、きっと俺は――。




「――お兄ちゃん、起きてっ! 起きてよっ! お願いだから……」


 女の子の声がする。それも、聞き覚えのある声だ。


 しかし、俺には『お兄ちゃん』と呼んでくれるような妹はいない。

 いるのは、妹風のヤンデレ幼馴染だけだ。

 でも、俺のことを『お兄ちゃん』と呼んでいた記憶はない。


 では、この子は誰だ? 俺のことを必死に呼びかけているあたり、大事に想ってくれているのはひしひしと伝わってきているが……俺にはそうさせる覚えがない。


 しかし、それでもこの子は言葉を紡いだ。


「また、可憐を独りにするの……? 嘘つき嘘つき嘘つき――ッ! 『お兄ちゃん』の嘘つき! 可憐を独りにはしないって約束してくれたのに。また……約束破るの?」


 ――可憐? この子は可憐なのか……? 


 確かに、声は似ている。

 だが、可憐は俺のことを『お兄ちゃん』とは一度も――いや、一時期。そう呼ばれていた頃があったような気がする。


 あれは、そう……花蓮の両親が事故で亡くなり、俺だけが可憐の味方だったときだ。

 あのときは、本当に大変だったのを覚えている。


 その当時、俺はまだ小学生で、可憐もまだ幼稚園に通っている年齢だったか。

 とにかく可憐は寂しさのあまり、いつでもどこでも泣きまくって、近所に迷惑をかけまくっていた。


 しかし、なぜだか、俺と一緒にいるときだけは泣かなくて――それから、祖父母に引き取られた可憐だったが、それからも毎日のように遊んでいたっけ。


 そうか。


 今まで忘れていたが、可憐が俺に固執しているのは、俺がめちゃくちゃ好きというわけではなく、心の拠り所だったからか。


 ……そりゃ、悪いことをしたな。


 可憐を一番に知っているのは俺で――そんな存在が自由に会えなくなったら、嫌だよな。ほかに、心を寄せられる相手がいないのなら、なおさらそう思っているはずだ。


「お兄ちゃん……? 目が覚めたの――お兄ちゃん!」


 ガバッと覆い被さるように抱き着いてきた可憐に、俺は手を回そうとして――体がまったく動かないことにようやく気が付いた。


 ……あれ、もしかして……やられた? 逃げられないように、手足でも縛られたか? 


 でも、もしそうなら、可憐が慌てていた理由に説明がつかない。

 もしかして、俺が寝ている隙に何かあったのだろうか。


 とにかく、今の状況を整理する必要がある。


 俺はこのままの状態で口を開いた。


「なあ、可憐。俺、今どうなってる? 目を開けてるのに、何も見えないし、体も動かせない。それに、なんか寒いんだけど。……窓、開いてる?」


「…………」


「え、何……? 何で何も言わない?」


「……お兄ちゃん、言わなきゃわからない? 可憐、怒ってるんだよ?」



「何でそっち方面に話が進む――!? 俺、今の状況を教えてもらいたいだけなんだけど……」


「ふうん。可憐のことはどうでもいいんだ……やっぱり、そうなんだね。でも、お兄ちゃんはこれから可憐のお世話なしでは生きていけないんだよ? わかってる?」


「どういうこと!? 可憐の世話なしでは生きていけない?」


「……こういうこと、だよ……」


 そう、可憐が言って――俺の唇に柔らかな物が押し当てられた。

 それは冷たいわけでも、温かいわけでもない――それでも、顔が熱くなってしまうような感触だった。


 そして、数秒間。その感触を味わうことになって、可憐は恐るおそる口を開いた。


「どう、だった……かな? これが、可憐の気持ち……伝わった?」


「…………」


 伝わった。


 というよりか、可憐の気持ちは知っていた。わかっていた。逆に理解していないことの方がおかしいと思うぐらいに、可憐の気持ちは伝わってきていた。


 ずっと昔から。


 でも、俺は可憐の気持ちに応えることはできない。社会的にも、俺の気持ち的にも。

 しかし、ここまで想ってくれているのは素直に嬉しいと思っている。


 それは、嘘偽りない。


 だからこそ、俺は可憐に対して、正直な想いを伝えよう。


「俺は……可憐を一人の女性として見れない。ずっと一緒にいたから、家族のように思っている。だから、ごめん。俺は可憐を好きにはなれない」


「なんで……? どうして……? 可憐はこんなにも想っているのに。なんで、なんで、なんで――ッ! ほかに女がいるの……? だから、可憐に返事を返してくれなかったの? そうだ、絶対にそうだ――ッ! 殺す、殺す殺す殺す殺す――、殺してやる! お兄ちゃんは可憐のものなんだから、誰にも渡さない――ッ!」


 ……この反応は想定内だった。


 悲しむ可憐も、荒ぶる可憐も――すべて、こうなることが、俺にはわかっていた。

 それでも、俺は自分の気持ちを偽ることができなかった。


 それは……可憐を裏切ることにも繋がるからだ。


 だから、あえてこうした。こうした上で、俺は最低なことを言う。


 それはただの保身で、嘘で固められた戯言。ゆえにクソ野郎だと罵られても、俺はすべてを受け止めよう。


 それが、俺にできる――最大の誠意だから。


「――可憐!」


「なに、お兄ちゃん……。まだ可憐に何か言うの?」


「――俺は今、特定の異性がいないんだ。でも、母さんが早く孫の顔を見せろってうるさくてな。俺はまだ二十三なのに」


「うるさい! 嘘を吐かないで! 可憐の気持ちがわかってるのに応えてくれないのは、ほかに好きな女がいるからなんでしょ――ッ!」


「だからさ、可憐。俺の――彼女になってくれない?」


「――嘘ッ! 可憐は騙されないよ!」


「可憐はさ、俺が好きなんだろ? だったら、なってくれるはずだよな? 俺の妻に――」


「やめて! 可憐をイラつかせないで!」


「ふうん。なってくれないんだ。それじゃあ、仕方ないなあ。あーあ、せっかく、破格の条件で夫になってあげるって言ったのに……そうか、可憐は俺の言うことも聞いてくれないんだ。俺、言うこと聞いてくれない女、大嫌いなんだよね――」


 やってしまった。彼女とか妻って単語を出したら、すぐに食いついてくるかと思ったんだが、可憐もそこまで馬鹿ではないらしい。


 それに勢い余って、煽ってしまった。

 はい、俺氏、死亡確定。さよなら現世、よろしく来世――。


「いや――ッ! なんで? なんで嫌いになるの? 嫌わないで? なる――なるから、彼女にも、妻にもなるから嫌いにならないで。お兄ちゃんが言うこと全部聞く。聞くから、可憐を独りにしないで――ッ!」


 ――はい、俺氏、完全勝利。


 可憐は俺の言いなりになってくれた。これで、俺は死ぬことがなくなる。やったぜ! 


 と言っても、別に酷いことをしようとは思っていない。むしろ、可憐にとってはいいことだ。つまりはウィンウィン。

 それをこれから、一つずつ証明していこう。


「よーし、じゃあ、まずは拘束を解いてもらおうか」


「うん、わかった」


 そう言って、すっかり大人しくなった可憐は文句の一つも言わずに、俺の手足を縛っていたロープを解き、目隠しも取ってくれた。


 俺はこれでようやく解放されたわけだが……部屋は酷い有様になっていた。


 これは、見るからに強盗が入ったな。

 窓が開いているってことは、窓から出たみたいだが……大丈夫か? 

 ここ、五階だぞ? 言うほど高くはないが、打ち所が悪ければ、普通に死ぬ高さだ。


「可憐は大丈夫か? もしかして、入れ違い?」


 その問いに対して、可憐は首を横に振ってから、


「泥棒、見たよ。部屋のカギが開いてたから入ったら、男の人が色々漁ってた。でも、可憐の姿を見たら、ベランダに出て、逃げちゃった」


「これは、ナイスタイミング――とは言えないな。可憐にも被害が出ていた可能性もあるわけだし。……これを機に引っ越すか。セキュリティが甘々で、安心して眠れやしない」


「……あの、お兄ちゃん。可憐に怒ってる? 嫌いになった?」


「何で? 今までのこと会話で嫌いになる要素があったか?」


「でも、可憐がもう少し早く来ていれば、こんなことにはならなかったかも……」


 さっきまでの、荒ぶる可憐はどこに行ったのやら。すっかり萎れてしまっている。


 それは俺のせいではあるが……こうもしおらしくなるものか? なるんだろうなあ、可憐は……。

 ほかに、心の拠り所を持たない可憐にとって、俺の存在は大きなものだろうから。


「……やっぱり、可憐はほかの子を好きになった方がいいよ。俺以外にも、もっと意識を向けた方がいい。そうすれば、俺がいなくても、生きていける」


「……可憐は邪魔? いない方がいい? その方が……幸せになれる? お兄ちゃんが、可憐を邪魔だって言うなら、可憐は……」


「何でそんなに思いつめた表情をするんだよ。俺、別に可憐が邪魔だなんて言ってないだろ? ただ、俺以外の人も好きになった方がいいってだけ。だから、可憐の一番が俺だって言うんなら、それでいいよ。だって――俺たち、恋人同士になったんだろ?」


 そう、俺はなかなかにくさいセリフを言って、可憐の頭に手を置いた。


 そして、ゆっくりと手を動かし頭を撫でてあげる。それはとても懐かしい感覚で、昔はよくこうしてあげたのを思い出した。


 しかし、子供のときと今とでは、その行為が持つ意味は大きく変わってくる。

 俺はそれを自覚しなければならないのだと思う。


 そしてそれは、可憐にも同じことが言えた。


 だからこそ、可憐に言わなければならないことがある。そう思い、口を開こうとしたのだが、可憐は静かに涙を流していた。


「――え!? 何で泣く? もしかして、嫌だった!?」


 俺は頭から手をどけて、泣いている可憐の顔を見る。

 すると、可憐は手で顔を隠して、俺に見えないようにした。


 やっぱり……嫌だったのだろうか。


 俺は肩を落として、可憐が落ち着くまで待つことにした。


 のだが、何やらポツポツと語り始めた。


「ずっと、寂しかった。悲しかった。お兄ちゃんが高校生になったときから、ずっと、可憐は寂しかった。でも、お兄ちゃんには可憐以外にも大事な人がいて、邪魔できなかった。構ってほしいって言えなかった。でも、いつか、可憐のことも相手してくれるって……そう思ってた。お兄ちゃんの一番は可憐になるって思ってたんだよ? 可憐の一番はずっとお兄ちゃんだったから。でも、お兄ちゃんは可憐を裏切ってどこかに行っちゃった。もう、簡単には会えなくなっちゃった。可憐、寂しかったから、いっぱいお兄ちゃんにメッセージを送っちゃった。いつもすぐに返してくれて、嬉しかった。だけど……それ以上にもどかしかった。嫌だった、可憐がいないところで、お兄ちゃんの一番が可憐じゃなくなるんじゃないかって。それで今日、お兄ちゃんから返信がなくって、捨てられたって思った。始めはお兄ちゃんの幸せを邪魔しないようにって、我慢しなきゃって思ってた。でも、気づいたらここにいて……お兄ちゃんの部屋は荒らされてた。お兄ちゃんは全然起きてくれなかった。このまま起きてくれなかったら、可憐、どうすればいいのかわからなくて、怖くて……。何回も、何回も何回も――、お兄ちゃんの名前を呼んで、そしたら何もなかったかのように起きて。そのとき、可憐、思ったんだ。嬉しいって思う以上に、何で起きたのかなって。誰のために起きたのかなって。きっと、可憐のためじゃない。だから、起きないでほしかった。起きないお兄ちゃんを、可憐がお世話したかった。起きてからも監禁すれば、可憐だけがお兄ちゃんと一緒にいられる。お世話してあげられる。可憐はそう思ってたけど、お兄ちゃんはそれを望んでなかった。だから可憐、おかしくなっちゃった。ダメだってわかってたけど、止められなかった。お兄ちゃんが大好きだったから。だけど、もういいやって思っちゃった。嫌われても、お兄ちゃんは可憐がいないと、生きていけない状況だったから。そうしてお世話を続けていくうちに、お兄ちゃんは可憐を一番にしてくれると思ったから。……でも、違ったんだね。とっくに可憐が一番だったんだね。嬉しいよ、お兄ちゃん。ようやく、可憐の想いが通じたんだね」


「お、おう……。随分と長い一人語りだったな」


「大好きが止まらなくて――でも、もう……隠さなくてもいいんだよね? 可憐はお兄ちゃんの彼女、彼女か……ふふっ」


「泣いてるのか、笑ってるのか、はっきりとしない状況のところ悪いが――可憐に言わなくちゃいけないことがある」


「ん、なーに?」


「まず、可憐は高校をちゃんと卒業すること。今は高校二年だから、後、一年と少しだから頑張れ。それと、友達を作ること。可憐のことだから、友達いないだろ? 友達っていうのは大事だからな。別に沢山作れって言ってるわけじゃない。信頼できる友達を一人でも作ること。それから、夢を見つけること。どうせ、専業主婦になるとか言うんだろうけど、それはダメ。だって、俺は仕事しながら家事するのに、可憐は家事だけとかずるい。そういや、絵を描くのが好きだったろ? それを仕事にしてもいいし、とにかく夢を見つけること。後――ちゃんと、俺が好きだということを明確にすること。正直、今の可憐からは愛というより、執着心というものしか感じられない。だから、俺はハッキリと言って、今の可憐と結婚したくない。とにかく、何が言いたいのかと言うとだな――可憐は可憐の人生を生きて、俺をその人生に関与させてほしいと思わせろ。それができて、初めて俺たちは夫婦になれる……と思う」


 そう、これこそが可憐に対して言いたいことだった。


 可憐には俺ありきの人生を生きて欲しくはない。俺に独占欲なんてものはないからな。

 あくまでも俺は可憐の人生に華やかさを与えるエッセンス。ぐらいに思ってほしい。


 でも可憐はそれを前向きには捉えてくれないだろう。それは今の可憐の表情を見れば、一目瞭然だった。

 こいつは何を言ってやがる? みたいな顔で俺を見ているからな。


 だが、俺が言ったようにすれば、可憐の人生が華やかになる。

 生きていて楽しいと思える、そんな豊かな人生が送れると思うから。


 ぜひとも、可憐には頑張ってほしいところだが、いきなりは難しいだろう。

 だから、俺もその手助けをしよう。

 後はご褒美もあった方がいいか。頑張るキッカケぐらいにはなるだろう。


「大丈夫だよ、可憐。遠距離恋愛という形になってしまうけど、今までと違ってこれからは――会いに行くから。スマホ越しではなく、ちゃんと顔を向かい合わせて話そう。可憐が頑張れば頑張るだけ、俺と楽しく話ができる。話のレパートリーは多い方がいいぞ。それに、ご褒美もあげる。可憐の頑張りが俺に伝われば、どこにだって連れて行ってやるし、一緒に寝泊まりできるように手配だってしよう。だから、頑張れるよ。可憐は俺の彼女なんだから」


「――本当!? 可憐が頑張ったら、お兄ちゃんと一緒にお出かけできるの!? それに、お兄ちゃんと同じ場所にお泊り……えへ、えへへへ。うん――可憐、頑張る!」


 そう……可憐は晴れやかな笑みを浮かべた。


 俺はその表情を見て、やっと見ることができたと、嬉しくなった。

 もう、十年はその、屈託のない笑顔を見てはいなかったから。


 というか、やばい。さっき一瞬ではあるがときめきかけた。

 ほんの〇コンマ数秒だが、目を奪われた。

 これは、すぐに落とされるかもしれないな……。


「あ、そういえば、可憐」


「なーに、お兄ちゃん」


「その、お兄ちゃんっていうの禁止。これからは結翔と呼んでくれ。恋人になったわけだし、お兄ちゃん呼びはおかしいからな」


「そ、そそそそっか……可憐、彼女になったんだもんね。わ、わかったよ。結翔……お兄ちゃん」

「なぜ、お兄ちゃんをつける。それだと、兄妹のようにしか見えないぞ」


「だ、だって、恥ずかしい……もん。そんな、いきなり名前呼びとか……」


「え? でも、前まで、俺のこと結翔くんって呼んでなかった? 今日、いきなりお兄ちゃんって呼ばれて、驚いたんだけど」


「それはそれ、これはこれなの! 昔は幼馴染として呼んでたけど、これからは彼女だから……難しいよ」


「ふうん。まあ、いいけどな、今はそれで。お陰で、可憐の恥ずかしがる顔を見れたわけだし。役得、役得」


「――もう! 結翔お兄ちゃんなんか、大っ――好き」


「うん、知ってる。さてと、可憐、部屋片づけるの手伝ってくれ。後、今日、ここに泊まっていけよ。可憐のじいちゃん、ばあちゃんには俺から説明するからさ」


「は、はいぃ――」


 突然、顔をゆでだこのように赤くする可憐に、頭を傾げる俺だったのだが、今から数時間後にその意味がベッドの上で発覚する。


 しかし、それは俺が唯一考え付いていた、存命方法と同じことをするという意味で――俺は社会的死を免れることができたのかは、また別のお話である――。

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