おしゃべり次郎
わたくし、あまり歴史に詳しくございません。
話すにしてもちょいと調べる程度なもので。
しかしこちらは小説投稿サイト、「読み」にも適したものならば架空空想こそお楽しみいただけるものと思っております。
数分程度の時間泥棒をお許しいただけるならば、どうぞ楽しんでお読みください。
もしも何百年も前に、現代では何度か流行いたしました「タピオカ」が
密かに流行っていたらどうなるか?という噺でございます。
遡ること江戸時代、働き者で町では評判の「次郎」という男がおりました。
「岡っ引き」で町の平和を守る正義感のあるこの男、こう見えて実は―――
「流行りもの」には目が無いという、今は『ミーハー』と言いましょうか?
誰よりも先駆けてすぐに取り入れるの可愛らしさも持ち合わせておりました。
そんなある日のことです。次郎が偶然訪れた寺では『富くじ』が行われようとしておりました。
みなさまご存じでしょうか?今で言う『宝くじ』というものです。
木札に名前を書いて箱に入れ、キリで刺して刺さった札が「当たり」というこの娯楽。
本来であれば一月に行われる富くじ、次郎が訪れた寺では
岡っ引きの次郎にも「夢」というものがございます。愛する妻のため、いつまでも長屋住まいというのも気が引ける・・・小さくても屋敷を建てるというもの。
木札にデカデカと『次郎』と書き箱に入れ、手から煙が出るほどこすり願います。
(当たれーーーーーッ!当たれーーーーーーッ!!)
そんな出来事がありました翌日のことです。
次郎は町にある小さな茶屋におりました。するとそこに一人の男がやってきて次郎に声を掛けます。
「お?次郎じゃねえかい!久しぶりだなー、俺だよ?俺、俺!」
「なんだい、詐欺かい?しょっぴくぞ。」
「詐欺ってなんの話でい?俺だよ、『
鹿乃介と名乗るこの男、次郎とは小さい頃からの幼馴染でございます。
次郎とは正反対で、働きはしますが不真面目な男です。
「昼間っから働かねえで茶だなんて、どうしたよ次郎?」
「それがよ・・・ここだけの話だけどな、今はよ、『休み』をもらってんだよ。」
「仕事熱心のおめえがかい?なんでまた。」
「これもここだけの話だがよ、誰にも言うんじゃねえぞ・・・富くじ当たったんだよ。」
ボソッと誰にも聞こえないように鹿乃介に耳打ちをした次郎。
「なに!!富くじだと!!!」
「バッ・・・!声抑えやがれ鹿乃介!誰かに聞かれたらどうすんでい!」
「わ、わりい・・・で、いくらよ?」
「驚くなよ・・・十両だよ。」
現代換算すればおよそ三百五十万円、そんな金額を聞いて鹿乃介は口をすぼませ、目をまん丸くして驚きました。
「じゅ…十両・・・!」
「・・・見るか?」
「いぃ!?・・・持ってんのか?持ち歩いてんのか?!」
「長屋じゃ気が気じゃねえ・・・これよ。」
次郎は懐に手を突っ込むとギラギラと輝く小判を取り出し鹿乃介に見せびらかしました。
「こ・・・これが十両?!さ、触ってもいいかい?」
「好きなだけ触っとけ!一生にあるかどうかだ。」
「いやー、ギラギラしてるねえ・・・それよりおめえさん、その湯呑で飲んでるそれはなんだい?茶かい?」
鹿乃介は次郎が持っている湯呑が気になるようで聞きました。
「これか?これはな、どこかは知らねえがよ流行ってるんだとよ。」
「なんていうモノなんでい?」
「『たぴおか』っていう甘い茶さ。」
「『たぴおか』ねぇ・・・うわああっ!」
湯呑を覗き込んだ鹿乃介は突然大声をあげて後ろへごろりと転げ落ちます。
「おめえ・・・おめえそれ、蛙のたまごじゃねえか!気でも狂ってんのか!!」
「気狂い起こしても蛙のたまごなんて飲みやあしねえよ。これはな、なんとかいうイモから作った玉をよ、甘くした茶と一緒に飲むものなんだよ。」
「・・・泥水かい?」
「おめえ俺の話聞いてたか?茶だっての。」
「にしてもまー、ヘンテコなものによくもまあ。・・・うめえのかい?」
「おうよ、飲むか?」
「いいのかい?へへ、じゃあちょいと失敬して・・・。」
鹿乃介は次郎から湯呑を受け取ると、大きく口を開けてごくごくと飲み干しました。
「どうよ、甘ったるい茶と一緒に飲むもちもちっとした『たぴおか』はよ?」
「んー、なんだかよくわからねえな?もう一つ貰ってもかまわねえかい?」
「これ一杯で
鹿乃介は両手を合わせて「頼む!」と懇願いたしましたところ
「ったく、しょうがねーな。おう!同じのをもう一つ!」
「やー、さすが金持ち!よ!大将軍!大統領!しーいーおー!」
「大将軍以外ちょっとわからねえが悪い気はしねえな、お?きたきた、ほれ。」
「待ってろ、今度こそわかってみせるからよ。」
そう言って再び飲み干しますが、これもまたよくわからねえと来たもんで
そのあとも四度ほど鹿乃介はタピオカを飲み干しました。
六杯目のタピオカを飲み終えた辺りでございます。
「おっと、いけねえ!仕事の時間だ!次郎わりぃ!」
「おう、いってこい。」
鹿乃介は次郎に「ごちそうさん」と言い韋駄天のごとくビュー!っと駆けていきました。
次郎にもこの後、家の金を払う約束がございましたので茶屋に代金を支払おうとしました。
「おう、勘定頼む。」
「へい、お客さん。『たぴおか』六つで一両になります。」
「一両ね、まあ家の金で足りねえ分は親父に言って貸してもらえばいいだろう。どれ・・・。」
そう言って次郎は懐からさっきの十両を取り出そうと致しましたが・・・
(ん?無い!俺の十両が無い!)
なんとどこにも十両がございません。次郎は思考を巡らせて十両の行方を考えましたところ
(あああ!!鹿乃介の野郎、俺の金盗みやがったな!!)
遡ること数分前、十両を鹿乃介に見せびらかした時の話。『たぴおか』が気になる鹿乃介の質問に答えていた時のことです。次郎は十両を返してもらっていなかったのでございます。
なんとも情けないことに岡っ引きでありながら友人に十両をまんまと盗まれていたのです。
茶屋の一両は店主にツケにしてもらい、江戸中を走り回り鹿乃介を探しましたが時すでに遅し、鹿乃介は当の昔にどこへやら。
家の金を全て失った次郎は、父親とカミさんの父親に頭を下げてなんとかして十両を工面いたし家の支払いに当てました。
その後の次郎は今までよりも真面目に働き、広い家の中、肩身の狭い思いを致しましたとさ。
現代社会でも、宝くじが当たったことを口外してはいけないとよく言います。
『金』というのは魔性の物です。簡単に人を惑わします。
『油断大敵』
隣人、ご友人があなたの『敵』にならぬよう
良いことがあっても顔口財布はしっかりと
仁王像の『吽形』のごとく閉じておくことをおすすめ致しまして
このお話は終わりにございます。
最後までお読みいただきまして、お時間までもいただきまして
まことにありがとうごうざいます。
イマサラ・ラクゴニ・ニーズハ?←ハナセバワカル! ム月 北斗 @mutsuki_hokuto
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