恋人が実は 前世の息子/母親の生まれ変わり だった?!

ことはゆう(元藤咲一弥)

恋人が実は 前世の息子/母親の生まれ変わり だった?!





 私の名前は伊集院いじゅういんあざみ

 大学四年生、歴史を専攻している。


 前世は魔王でした。

 嘘みたいで本当の話。

 女の魔王をやって世界を滅ぼそうとして、息子に説得されてブチギレで自害しました。


 そんな私に、何処で働いているかは知らないが高給取りの社会人の恋人がいます。

 ちなみに、出会ったのは中学時代で、前世の記憶から人間不信でボッチの私がうざい男どもにからまれているのを助けられた時です。


 恋人になったのは大学生になってから、それまでは年の離れた友人として仲良くしていました。


 彼の名前は浅井あざい白夜びゃくや

 年齢は知りませんでした。



 何故でしたかというと、気づいたからです。




 彼、前世の私の実の息子じゃねーか!!


 と。

 いやいや、ちょっと待てとなりました。

 仮にも血のつながりのない相手とは言え前世で腹痛めて産んだ子だぞ相手は?



 それに、私が自害してからずっと生きてるとすれば何年生きているんだこの息子は?!


 幸い彼は気づいていない。

 が、どうしようと私は悩んでいます。

 別れたくありません、が相談する相手もおらず、一人悶々とする日々を送っています。








 私の名前は浅井白夜――本当の名はエヴァン・エレジオン。

 嘗て世界を滅ぼそうとした魔王シスル・エレジオンの実の息子だ。


 私は魔王だった母を説得したが、母はキレて「お前がそこまで言うなら生まれ変わって人間が屑じゃなかったら滅ぼさないでやるわ!!」と自害されました。

 説得の仕方を間違ったのではないかと今でも心底思っている。


 そんな私は現代まで生き続け、そして何故か気になる少女と出会い、彼女が大学生になったのを機に彼女と恋人になった。

 清いお付き合いをさせてもらっている。

 彼女の名前は伊集院薊。

 綺麗な茶色の髪に、茶色の目の女性だ。


 友人を作らない所と、家族仲が良くないことを除けば何も問題はない。

 こんな身だが結婚したいとまで思っていた。



 が、ある日気づいた。

 彼女が魔王――母の生まれ変わりだと!!


 ちょっと待て、何で今まで気づかなかったと自問自答する。

 母親のような仕草があったかとか色々探ってみて、恋人になって所作が母そっくりなのと、私の目を盗んで、自分に近づく魔を払ったりしているのを見て気づいた。


 あ、私の母の生まれ変わりだこの女性は。



 幸い彼女は気づいていないようだ。

 別れたくないが、相談しようにも内容が内容だった。

 流石に所属する機関に言うわけにもいかないし、どうするべきかと悩む。


 私は彼女と一緒に居たい、別れたくない。

 けれども、彼女は母の生まれ変わりだ。


 どうすればよいのだろう?





 最近、白夜の様子がおかしい。

 もしかして気づかれたのだろうか?

 いやそんなはずはない。

 だが、このまま隠し通しておくべき問題ではないと私は思っている。

 明日休みだから話そう。





 薊が急に明日は映画に行くのをやめて家で休もうと言ってきた。

 何回も見ていた映画だから、久々に家で話したいと。

 話すのは構わないのだけれども、彼女は何処か真面目な表情をしていた。

 もしかして、気づかれたのだろうか?

 ならば、ちょうどいい、腹を割らなければ、と私も覚悟を決めて話したいことがあると言った。

 彼女はそうすると、わかったとだけ言って帰っていった。

 明日が来るのが怖かった。





 私は近くのマンションに住んでいる白夜の部屋へと向かう。

 ロック式なので、白夜の部屋の番号を押してドアのロックを解除してもらい、部屋へと向かった。


 部屋では、いつものように紅茶を白夜は用意してくれていた。

「薊よく来て……どうした? 目の下にクマができてるぞ?」

「そういう白夜も」

 今日腹を割って話すと決めたから怖くて寝れなかったなんて言えない。

 けど話すんだ。


 この関係が崩れるのは怖いけど、知らぬままでいるのはもっと嫌だったから。


 とりあえず向かいあって座り、私は紅茶を一口飲んでから、ふぅと息を吐いた。

「どっちから話す?」

「私からでいいかい?」

「うん」

 白夜は深呼吸を繰り返してから、私を見据えて口を開いた。



「実は私は人間ではない、魔王と呼ばれた女性の子だ。そして薊、君の前世が私の母だ」



 それを聞いた私は――


「一体いつから気づいてたのー?!?!」



 とらしくない絶叫をしてしまった。





 絶叫する彼女に、私はぽかんとする。

 そして薊の言った言葉の意味を理解する。

 彼女もまた、私が前世の自分の息子だと知っていたのだ。

「薊、君はいつから?!」

「え、えっと大学生になって恋人になってから……なんか色々と気になってちょっと魔王の力で調べたりあれこれしたら……ってそれよりも白夜はいつから?! 出会った当初なの?!」

「いや違う!! 私も君と恋人になってから君の所作を注視するようになって何か母に似てるなーいやまさかはははと思ってたら、ある日君が一人の時近づいてきた魔をぶん殴って払っているのを見て『あ、母上だ』と……」


「「……」」


 痛い無言の時間が始まった。





 前世の息子――白夜は嘘は言っていない。

 だから本当なのだろう。

 でも、この沈黙をいつまで続けても無意味だし、私ははっきりと言いたい。

「エヴァン、いえ白夜」

 あえて本当の名前を呼んでから、今の彼の名前を呼ぶ。

「な、なんだ?」

「私、別れませんからね! そんな理由で!!」

「え、いや、その……」

「私は前世貴方の母親で人類にブチギレで魔王やってましたけど、今はそんな気さらさらないですし、大学卒業したら貴方と結婚したいと思っているんですから!!」

 矢継ぎ早に私は言葉を繰り出す。

「前世は前世、今は今。私は伊集院薊!! シスル・エレジオンではなく、伊集院薊!! 浅井白夜という貴方に助けられ、貴方に恋をしたただの女です!! 魔王の力使えるけど!!」


「私は、貴方の事を愛しています!! 伊集院薊として!!」


 はっきりと言い放った。





 言葉をはさむことを許さぬような薊の言葉に私はただただ驚いた。

 確かに私はエヴァン・エレジオンだが、今の私は浅井白夜。

 彼女と出会い、友として過ごし、そして彼女に恋をしたただの男。


 魔王の血引いているが。


 割り切っている彼女に私は強いなと思った。

 別に彼女に母の面影を見て恋をしたわけではないのだ。

 恋をした相手の前世が私の母親だった、魔王だったそれだけの話。


「――私もです、薊。浅井白夜として、私は君を愛している」


 そう答えると、彼女は目からぽろぽろと涙をこぼした。


「あ、薊?!」

「ごめんなさい……実は断られるんじゃないかとちょっと怖かったの……でも、嬉しくて……」

 そう言って彼女は笑顔になった。

 とても、素敵な笑顔だった。


 母が笑った時と全く違う、薊の笑顔だった。





「……じゃあ、大学卒業したら結婚してくれる?」

 私の問いかけに、彼は答えた。

「勿論だとも」

 息子が母に言うような口調ではない、私への口調。

「式は要らないからドレスが着たい。あの女には何も言わずに消えたいから」


 私の母は、男漁りが趣味で育児に興味のない女だった。

 お金ならいくらでもくれるから別によかったけど。

 そんな女に白夜を会わせたくない。


「わかった、では、こちらでそれが上手くいくように図ろう」

「ありがとう、白夜」

「いいんだ。卒業したら一緒に暮らそう。君の就職先も決まっているし、ね」

「うん」

 不安がなくなった私は白夜と笑いあった。





 薊が今後静かに暮らしていくために、所属組織の長に話を通した。

 長は私が母を説得しに行ったときに一緒にいた仲間の子孫で、話がすんなりと通った。

 薊が魔王としての力を振るわないよう、彼女が静かに暮らしていくように私は彼女を組織としては「監視」しながら結婚し過ごすという形になった。

 不本意な所もあるが仕方ない。

 魔王の起こした事はそれほど恐ろしかったのだから。


 けれども、人間が起こした事が母を魔王にした原因だった。

 だからあんなことを言って母は自害した。


 でも、母だから幸せになって欲しいのではない。



 私は薊だから、愛している大切な女性だから幸せになって欲しいのだ。







「御二人さん、表情が硬い……そうそう、その表情!!」

 温かな春の休日、写真館で白いドレスと白いスーツに身を包んだ夫婦の姿があった。

 最初は緊張した面持ちだったが、少しずつ柔らかな表情へと変化していった。



 カシャ!! カシャ!!


 写真が取られる。

 二人は端末に映った先ほどとった映像を見せられる。

「どちらがいいですか?」

「二枚目で」

「私もです」

「了解です!」

 現像に向かう店の人の後ろ姿を見ながら二人は笑いあった。

「薊とても綺麗だ、勿論君はいつでも綺麗だけども」

「白夜も綺麗でカッコいいわ、いつでも」

 幸せそうに二人は微笑み合った。





 その日は、二人の過去の因縁を完全に断ち切った日であり、二人の温かな春の陽気のような心地の良い日々の始まりの日だった。







 

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