第4話

「…ここにはずっとじっとしている女の人が沢山いるな」



あの格好で外に出すわけにもいかないので俺のパーカーと短パンを着させて、ファストファッションのお店に連れていくとナツミは不思議そうに辺りを見回し、呟いた。


ナツミは小柄なので俺の服はブカブカだが、案外似合っていた。


「これはマネキン。全部人間の偽物だから、動かないよ」


「…なるほど。私と一緒で、偽物の人間か」


隣にいるのは夏美そっくりなのに、口調や、話す内容がかけ離れているので違和感がすごい。



「ほら、そんなことより、服を選ぼう?」


「…なんでもいい」


「ほら、そんなこと言わずに…これとかどう?」


俺は近くにあった花柄のワンピースを手に取り、彼女に差し出した。


「…わからない」


「ナツミは可愛いから似合いそうだよ」


「…かわいい…?」


ナツミは眉をひそめた。


「あ、あんまり可愛いとか言われたくないタイプだった?」


「…わからない。かわいいってなんだ?」


「うーん…説明するのが難しいけど…綺麗なものとか、自分より小さくて弱いものに対していいなって思ったり、好きだなって思ったりすることじゃないかな」


「弱いものに対していいと思うのか?弱いものは役に立たないのに。」


「役に立つだけがいいこととは限らないよ。守ってあげないとなくなるものに人は惹かれたりするときもあるんだよ」


「…私にはわからないな…」


ナツミは不思議そうに首を傾げ、花柄のワンピースを手に取った。


「…まぁ、えいとが言うんだから、"似合う" んだろうな」


「じゃあ、とりあえずこの服は買おうか。…でもその服だけじゃ足りないから、もう何着か探そう」

「そうだな」





半日後


「たくさん買ったな…」


「そうだね…」


俺とナツミは公園のベンチでたくさんの紙袋を持って座っていた。


「しかし、すごい量だな」


「そりゃそうだよ。ナツミは何も持ってないから1から買わなきゃいけなかったし。下着も着てなかったのにはびっくりした」


「…仕方ないだろ。作られたときからあの格好だったんだから」


少し不服そうな顔をしてナツミは反論する。


「まぁ、今日はとりあえず家に帰って寝よう。さっき肉まん食べたから俺もうおなかいっぱいだわ」


「そうだな」


「久しぶりにショッピングしたから、疲れちゃった」


俺は紙袋を持って、立ち上がった。


「早く帰ろう」


ナツミもすっと立ち上がる。


俺たちは家へと向かった。



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残り時間は150日 紫海もだ @moda_shiumi

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