第2話

「えいと、、、えいと、、、」


夏美が俺を呼んでいる。


行かなきゃ。夏美のもとに。そう思うけど、身体が動かない。


夏美を探したいけど、辺りは一面真っ暗闇で何も見えない。


「夏美!俺はここにいる!」


パチ


自分の叫び声で目が覚めた。


時計は8時をさしている。窓の外が明るいので朝の8時だろう。


目の前に広がるのはほとんど何もなくて生活感がない、築30年程のボロアパートの一室。


真っ暗闇が広がっているわけでも、もちろん、彼女の夏美が俺を呼んでいる訳でもない。


「夢か、、、」


今から約十年前、俺は世界で一番大切な彼女を交通事故で亡くした。


彼女がいなくなるまでは大学への進学に向けて勉強も部活も頑張っていたけれど、彼女が死んでしまってからは何もする気が起きなくなり、高校こそは卒業できたものの、大学への進学を諦め、地元近くの工場に就職し、工場から徒歩5分程のボロアパートで一人暮らしをはじめた。


「日曜日か、、、」


仕事は休みだけど、やりたいことも、会いたい人も居ない。


しなきゃいけないこともないので寝ようと思ったら、


ピーンポーン


インターホンが鳴った。


日曜日の、しかもこんな朝早くに誰だよ、、、


と思いながら扉を開けると


「夏美、、、?!」


そこには今はもう居ないはずの夏美が立っていた。


「、、、ナ、ツ、ミ、、?」


目の前に立っている夏美は自分のことが分かっていないらしく、不思議そうにこちらを見つめ、首を傾げた。


「夏美!俺だよ!瑛斗だよ!」


「えいと、、、」


「そう!矢田瑛斗!」


「、、、やだえいと、、、矢田瑛斗。貴方を150日後に殺す。」


夏美はハッと思いだしたかのように俺を指さし、そう、言い放った。


「は?何言ってるんだ!」


俺にはなんのことかさっぱり理解が出来ない。


「矢田瑛斗。私は貴方を殺すために作られた。今日から150日後、私は貴方を殺す」


瞬間冷凍されたかのように俺は凍りついた。別に死ぬのが怖いわけじゃない。

俺は夏美が今までになく冷たい表情をしているのが怖かった。


「、、、なんでだ、、、?」


やっとのことで震える口を開き、恐る恐る訊ねてみると


「そう、プログラミングされたからだ。」


と、一瞬悲しそうな顔をしたが、またすぐにあの冷たい表情をして


「とにかく、貴方を殺すのが私の使命で、貴方を殺すまでの時間はあなたの元で過ごすことになっている。150日間の間、どうぞよろしく」


と手を差し出した。


「、、、ああ、はい」


俺は目の前にいる夏美そっくりな人間がロボットであることを確信したものの、この状況がイマイチ把握しきれないまま、夏美そっくりなロボットの手を握った。


彼女の手は夏美とは違って、金属のような冷たさだった。

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