輝夜月子の場合。



 控室に行くまでの廊下。コツコツと子気味良く響く足音が心地いい。


 そんなことを考えながら、控室に着く直前。


「ちょっ、ちょっと、一夜」


「うわっ!? び、びっくりした……月子か。どうしたんだ?」


 突然、月子が飛び出してくる。それになぜか顔を赤く染めている。


「あ、あの……その……これっ! 作ったから食べてっ!」


 そういって無理やり押し付けられるかわいらしい紙袋。


「え、これって……」


「きょ、今日、バレンタインだから……その……チョコ、作ってきた……味には期待しないでね……?」


「えっ、ありがとう月子! 中身、見てもいいか?」


「あぇっ、え、うん……」


 同意が出たところで紙袋の中身を覗く。中には丁寧に梱包をされた三つの箱があった。


「な、生チョコと、ブラウニーと、チョコクッキー……何が好きかわからなかったから、いっぱい作ってきたの……」


 これまでにないほど顔を真っ赤に染め上げる月子。耳の先まで赤さがわかるほどだった。


「本当にありがとうね、月子。大事に食べるよ」


「う、うん。それじゃ……」


 そういって控室に戻ってゆく月子。その動きはどこかぎこちなかった。




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