バレンタイン特別SS

堀田希の場合。


 それは何の変哲もないドラマの撮影日。珍しく舞さん、月子、由良さんが一堂に揃う撮影へ向かう途中。


 相変わらず無表情に車を飛ばす堀田さん。現場に到着し、車を駐車場に止める。


 台本を読み込んでいた俺は、バックに台本を直し、シートベルトを外す。


「それじゃあ今日も行って来ます!」


「はい、私は大抵現場にいるので、何かあれば電話か直接お願いします」


「わかりました! それじゃ——」


「あ、ちょっと」


「え? どうしました? 堀田さん」


 徐にバッグをあさり始めた堀田さん。そして、すこしすると小さなチョコ菓子、ハイイロサンダーを取り出した。


「はい、これどうぞ」


「え、あ、ありがとうございます……でもなんで急に」


「急に? 今日はバレンタインですよ?」


「あっ、そうでしたっけ!?」


 最近忙しかったこともあるが、単純にこれまでもらう事がなかったからなぁ。もらったとしてもなぜか父さんと母さんが共同で作ったチョコもらってただけだし……。


「ふふっ、ホワイトデー。期待してますよ?」


「えっ、あっ、そうでしたね! そんなのもありましたっけ……まぁ、頑張ります」


 珍しく笑う堀田さんに動揺してしまったが、何とか返事はきちんとできていたと思う。


「ふふふっ、嘘ですよ。ハイイロサンダー一つでお返しがもらえるとは思っていませんよ。それより一夜君、ちょっといいですか?」


 手招きをする堀田さん。なんだ?


 手招きに従って、顔を堀田さんに近づけ、結局は堀田さんの口元に耳を近づける形になった。


「……手作りじゃないからって本命じゃないとは言えませんからね?」


 そう、微笑みながら言った堀田さんはいつもとは違う雰囲気を纏っていた。




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