池永由良の場合。
月子が控室に入ってから、少しして俺も入る。今日は割とすぐ撮影が始まるのでメイクさんやら、色んなスタッフさんがいた。
俺は、いつもの場所に座りながら、水分を補給し、台本を机の上に出す。
そうして台本を読んでいた時。
「一夜君っ!」
こっちまで元気があふれ出てしまうような、そんな声をした子。最近、知り合った有名人。
「あ、どうも由良さん。どうしたんですか?」
「え、いやぁ、その」
何故か由良さんの目線は時々月子からもらった紙袋へ行っていたが、2、3回ほどチラ見して以降することは無くなった。
「これ、スタッフさんからもらったんですけど、私、ファンからの分とかもあるから食べきれなくって……よかったらいります?」
そこには食べかけだろうか、透明なプラスティックの容器に入ったトリュフチョコが数個。蓋は開いていて、中の一個につまようじが刺さっている。
「あ、ありがとう。それじゃあもらっとくね……」
食べかけだし、何よりスタッフさんが由良さんに渡したチョコを俺が食べても良いのだろうか、なんて思ったが断われるわけもなく。苦笑いを浮かべながらそのチョコを受け取ろうとしたその時。
「……はいこれ、あーんしてください?」
そういってつまようじに刺したトリュフチョコを目の前に差し出してくる由良さん。
何故か由良さんの表情はキラキラしていた。ペットに餌をやるときのような、自分の作った料理の感想を待つような……、まぁ後者はないか。
なんとなく断り切れず、そのトリュフチョコを食べる。
「うん。おいしい」
「よ、よかったぁ……」
「……? なんで由良さんが安堵してるんですか?」
「えっ……あっ、いや、スタッフさんも多分『良かったぁ』って思うだろうなぁってことで!」
「あ、そうなんだ……えっ、ちょっ!?」
何故か再び無理やり口も入れられるトリュフチョコ。食べ終わって口を開こうとしたらすぐに入れられ、再び食べ終わり口を開こうとしたら入れられを繰り返すこと四回。
さすがに一度に摂取できるチョコの量を超えた。
「もっ、もういいです……ありがとうございました……」
由良さんレベルのアイドルにあーんされる機会なんてこれから先にないだろうな、なんてこともおもったが、いかんせん量が多い。
「あ、すいません……それじゃぁ……」
興奮気味のようにも見えた由良さんも、なぜかあーんが終わった時には肩を落としていた。謎だ。
俺はとりあえず、トリュフチョコが入ったプラスチックに蓋をした。。
~~~~~
由良は、『スタッフからもらったチョコ』と言って一夜に食べさせていたが、一夜よりも由良よりも前に、現場入りしていたスタッフは知っている。
池永由良に今日チョコをあげたスタッフなどいないことを。何なら一夜が来る前に由良は自分のカバンから透明なプラスティックの容器を取り出していたことを。
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