ツンデレケットシーの帰郷と森を目指す勇者

 私はシルトパッティ・アシャガーヤ。ゴーレム競技でゴーレムライダーをしている。


 いつもは人間に化けて擬態しているのだけど、呪いの霞の中で気絶してしまい、聖水で治療されたみたい。

 助かったけれど、その聖水のせいで本来の姿ケットシーに戻っちゃった。ローブをかぶっていたのでバレなかったようで焦ってそこから離れた。聖水の効果せいなのか人の姿にはなれなかったので逆に猫姿になった。ローブがあってよかったぁ。

 アシャガーヤは故郷の地名で私たちは人間に擬態した時はそれを使うの。まあ、今の人間だって、先祖は名前だけで、貴族になって家名をつけるようになったり、その貴族の召使が名前の一部をもらったり、領民が地名をもらったりしただけだから、私たちだって変わらない。

 アシャガーヤ村でサビ猫みたいなミケのケットシーは私だけだから、同族にはシルトパッティで私だとわかる。


 人間モードでないといろいろ不便なので、一応恩人である勇者についていくことにした。聖水のおかげで救われたが擬態ができなくなった。強力な聖水らしくてなかなか効果が消えない。まあ、この勇者、厄介なヤツではなさそう。猫嫌いではなさそうだし、年中発情している見境がないヒトのオスではなさそう。乗合馬車のヒトのメスにも安全牌として上手く扱われてる。叶わぬ想い人がいるタイプね。


 この勇者、なかなか便利な逸材。能力的にも申し分ないし、オスの野心もあるが暴走しない枷もある。強力な聖水を持っていたから高位の聖女とつながりがあるみたい。それが枷となっているのね。聖女とともに種族を超えた英雄となる素質があるけど、薄毛の血の呪いがね……。薄毛になる呪いじゃなく、先祖返りな血筋の呪いのせいで薄毛になってるのだけど、ヒトではそれはわからないでしょうね。しかも自分で薄毛促進してるみたい。


 勇者の住む町である聖都に着き、勇者から離れた。聖水効果が消えるのを待って擬態してアシャガーヤに戻らなければ。ギルドで水晶認証でタグが再発行されれば、口座からコインを引き出せるはず。



 俺の名はトモドール・キンボウ。冒険者をしている勇者だ。

 ゴーレム競技の警備依頼から帰ってきて、フランの治療院でフランが調薬している間にアメーオ親方からもらったミニチュアゴーレム「デロリアン」を操作するのに夢中になっていたら、フランが無表情で聞いてきた。


 「トモくん、浮気した?」

 「ええええええぇぇ、なんでなんで? なにもしてないよ? フラン、なんか怖いよ」


 フランの先輩のオレリーさんに聖体治療してもらったけど、それはずいぶん前だし、浮気とかじゃないし。もしあの聖体治療だったら、その後の脱毛ポーションの効果を消してもらった時の治療で言われてるはずだし。


 「血にメスの魔力の残滓がある」

 「なついてたネコをもふもふしてただけだよ。三毛猫だから女のコだろうとは思うけれど」

 「まさか猫相手に浮気……」

 「ちがうちがう! セヤナクーワから馬車に紛れ込んで来た猫が寝るときはいっつもいつのまにか俺のところ来てたんだよ。俺が寝てるときに傷のところを舐めたりしたんじゃないかな」

 「確かに獣の魔力に近いみたいだからそうかもね。舌のザラザラが気持ちよかったとか……」

 「舐められたのは傷のとこだけだからそんなことないよ! ここに連れてこようかと思ったんだけど、馬車が聖都に着くなり、猫がどっかに行っちゃったんだ。元気にしてるかなぁ」

 「ひょっこり現れるかもね。泥棒猫じゃなければいいわ」


 フランはいつもそっけない感じなんだけど、たまに厳しい感じになるんだよな。俺が酒場のねーちゃんとかに付きまとわられても気にしない感じなのに、精霊がついてきたり、魔物にマーキングされたり(俺は全然わからないんだけど)、今回みたく猫になつかれたりすると、なぜかあたりが強い。


 「そうだ、トモくん、先輩のとこに寄れるようならお願いしたんだけれど……」



 「シルトバッティさん、セヤナクーワのギルマス預かりの賞金があります」


 帰宅のための馬車代をギルドの口座から引き出そうとしたら、そう告げられた。


 「賞金ですか?」

 「はい、行方不明扱いになっていて、ゴーレムレースのセヤーク杯が呪いアイテムによるテロでノーコンテストになったことによる分配賞金が未払いでしたので」

 「ちょっと具合が悪くなって、知人のお世話になっていたんです」

 「そうですか、あなたが呪いアイテムの被害にあっていたことは確認されてます。大変でしたね。警備をしていた勇者トモドールから被害者の一人として報告されてますので、王宮からの慰謝給付金もあります」

 

 思わぬ収入があった。本人確認ができなかったので口座に入金されず保留されていたようだ。ちょっと上級の長距離馬車に乗れそうだ。馬車案内所にで値段が安いわりに寝台が広いウイローエクスプレスの長距離馬車を予約した。


 

 そんなわけで、俺はフランに新ポーションの材料となるらしい準聖水を預けられ、ダブリー治療院にやってきた。


 「おや、いつぞやの自称童貞勇者ぼくどうていくんではないか」

 「ど・ど・ど・童貞ちゃうわ」

 「いやいや、私は職業出現条件とか研究しているからね、君がエッチなことはなかなかだけれど厳密にはいつも自分で言っているように童貞なのはお見通しだよ」

 「え?職業って、勇者とか聖女の発言条件……? それって教会でもすべてはわかっていないことじゃ……」

 「まあ、検証の問題はあるけれど有力な仮説はいろいろあるのだよ、ふっふっふ」

 「オレリーさんは?」

 「妻は今、産休中なのだよ」

 「え? おめでたですか?おめでとうございます。脱聖女の方は聖女業務の影響で授かりにくいことがあると聞いたことがあります。お大事にしてください」

 「うむ、妻の為に錬金したデリケートポーションが妊娠安定にも効果があったので、使ってみたらなんとまた処女膜再生されたのだ。わが妻はなんと処女懐妊した聖母といえるのだよ! 吾輩オキシーのことをヨーゼフと呼んでくれても良いのだよ!」


 いやいや、それは違うだろう。この錬金術師、大丈夫か?


 「フランから預かったのは、納入するこのポーションと、フランの学院同窓生修道女の準聖水です」

 「おお、準聖水は私のオーダーだよ。一般には用途がないと言われている準聖水だが、開発中のポーションに使えそうなのだよ!」

 「そんなら、俺にも薄毛の治療薬作ってくださいよ! こないだは酷い目にあった!」


 この錬金術師にもらった増毛剤、実は脱毛剤だったの赦さないからな!


 「何を言ってるんだ? 君にとってはある意味増毛材なんだぞ。君は恋人の高い品質の上級聖水を頭頂部に塗ってしまったのだろう? 勇者魔力を持つ君がそんなことをしたら聖光作用が働いて聖光発現のために毛根が退化していくんだ。それを毒をもって毒を緩和させたんだよ」


 なんてこった!

 フランの上聖水、俺にとって劇薬じゃないか!


 「まあ、今は通常の薄毛進行状態のようだな。聖水の純度と君の魔力の親和性もあってピカピカの聖光頭ストロボヘッドになる進行中だったのだよ。まあ、そうしたらアンデッドには敵なしのフラッシュマン勇者になっていただろうけれど」

 「ここから毛根回復はしないんですか? 何とかしてくださいよ!」

 「豊穣めぐみの森の女神様なら頭頂部にも実りを授けてくれる可能性がある。行ってみたらどうだ?」

 「豊穣めぐみの森は遠いですよ……」

 「豊穣めぐみの森の娘女神様が実家のウドゥーンの森から出て、ハンノー村から川の上流の奥に入った森に居られるという情報がある」

 「ハンノー村と言えば荒ぶる川を越えた先ですね。行ってみます。脱毛剤の件疑ってすみませんでした」

 「まあ、妻がヌいてやったのだから、私も抜いてやろうと思っただけだよ、はっはっは」


 そんなこんなで、川越えの村方面の王都北西の森を目指すことになったのだった。

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純潔絶頂聖女外伝 超聖水のまわりでは 沖石絃三 @OXYGEN_PZ

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