ゴーレムイベントと暴走旅行者(ツアラー)

 俺の名はトモドール・キンボウ。冒険者をしている勇者だ。


 今回俺はパーティ仲間と王都から辺境のセヤナクーワに向かう乗合馬車に乗っている。

 セヤナクーワでゴーレムを利用した競技大会があり、ギルドを通じて運営警備の指名クエストが入ったのだった。


 俺はと言えば、最近頭頂部が薄毛になりかけたが、聖女フランの回復魔法により薄毛が進行する前の状態に回復してもらった。

 こないだは回復してもらった後に「増毛剤だ」と騙されてつかまされた脱毛剤を塗ってひどい目にあった。あの錬金術師め、許さん!今度会ったらどうしてやろうか……いや、会いたくないな……気まずいから。いや、フランの先輩の旦那さんなら会っちゃう機会はあるだろうけど……。


 聖都から王都に向かい、そこで辺境行きの馬車に乗った。乗客の中に時々長距離馬車に乗り合わせる見知った客がいた。フードをかぶったおとなしそうな女性なのだが、長距離馬車での遭遇率が異常に高い。馬車泊の方が多いんじゃないかというくらいだ。


 長距離馬車ってのは、ちょっと大型の馬車で、離れた街を結んでいる。馬車には折り畳み寝台もあり、宿屋がない集落に泊まるときなどは車中泊もできる。

 そういった集落は長距離馬車のための馬の交換所である場合が多い。馬の頭数と交換回数を増やした高速長距離馬車もあるが、これはただでさえ料金が高い長距離馬車よりもさらに高い。


 ゴーレムというのは魔力で動く泥人形だ。泥でなく岩石や金属、木材のものもある。自動人形的に動かすものと、乗り込んで動かすものがある。ゴーレムは探検や工事に使ったりするが、競技にも使う。フィールドで戦わせる戦術を競ったり、乗り込んで操縦技能を競ったりする。

 戦争になったらゴーレムも兵力として利用されるので、いわば王国内の軍事技術の維持向上のための催しでもある。

 今回の大会はゴーレムの操縦技術を競う大会だ。


 現地の冒険者ギルドに顔を出す。


 「ようこそ、おつかれさん」

 「アメーオ親方!冒険者ギルドマスターになったんか?」

 「ちげーよ!留守番だ」


 そこにいたのはギルドマスターか筋モンにしか見えない強面のドワーフ鍛冶師、アメーオ親方だった。

 俺のブレイブソードもアメーオ親方に仕立ててもらったものだ。

 王都の鍛冶ギルドの名誉顧問にしてゴーレム作りの第一人者だから、競技会場の地にいてもおかしくはない。


 「ここのギルドマスターが大会主催者で忙しくてな、留守番を押し付けられたってことだ」

 「似合いすぎ」

 「うるせえ」

 「じゃあ、会場の方に行けばいいのかな」

 「会場近くの掘立小屋が本部だ」

 「わかった。じゃ、親方、またあとでな」


 俺たちは会場横の掘立小屋……石造りのテントのようなところに来た。親方が即席で作ったな、この建物。

 競技者受付の列にあのフードの女性旅行者ツアラーがいた。ゴーレムライダーだったのか。それであちこち遠征して長距離馬車でよく見かけたんだな。ゴーレム競技は体力よりも魔力操作がものをいうから女性の達人も珍しくない。あの人も賞金稼ぎのゴーレムライダーかもしれないな。

 ギルドマスターにして主催者のグロック・ウービンさんに到着の挨拶をする。雑談の折にフードの女性のことを聞くとあちこちの大会の常連だがゴーレム競技好きではあっても賞金稼ぎではないようだ。やたら強い「プロライダー」というわけではないということかな。


 夜、ギルドの酒場でアメーオ親方に薄毛について相談したが、無碍にされた。


 「わしゃあ、作業で邪魔になるから短くまるめてるだけだからな」

 「回復魔法かけてもらっても、抜ける前に戻るだけで、また抜けるって言われるんですよ」

 「いっそのこと剃っちまったらどうだ? 異国では『武者むしゃ』というヘルムがぴったりするように頭の上の髪を剃る騎士がいるらしいぞ」

 「俺は勇者であって落武者おちむしゃじゃねぇよ!」

 「まあまあ、おちつけ。フランちゃんの聖水も効かねぇのか?」

 「地肌がツヤツヤになって薄いのが目立っちまった……」

 「ああ、俺も細かいエンチャントや小型ゴーレム研究で目がやられかけててな。薬師の作る目薬じゃなくてフランちゃんの聖水を指してみたことがあるんだが」


 フランの聖水を目にだって? 俺よりよっぽど勇者だな、このおっさん。


 「目から光線が出たり、ズーム出来たりするかと思ったが、暗いとこが見えやすくなっただけで、しみる割にあんまかわらなかったな」


 え?

 なんかすごいこと聞いたような……。


 翌日から大会が始まった。初日はエキシビジョンでアメーオ親方の変形ゴーレムの披露会があったりして、初級の非武装格闘トーナメントが行われた。

 二日目は午前に中級、午後に上級のトーナメントがあった。フードのレディー・旅行者ツアラーは中級で準優勝だった。彼女の戦い方は縦横無尽に走り回り、隙をついていくものだった。競技場の暴走者といった印象だ。


 ちなみにゴーレムはすべて王国が所有し管理しているもので、大会運営側が国から借りて提供する。競技者はくじを引いて順番に好きなゴーレムを選ぶという方式だ。


 三日目はメインイベントで階級なしの探索競技だ。広い指定エリアに三十個のポイント点数の違うアイテムが設置されていて、持って帰って来た時間ポイントとアイテムのポイントで順位を競うものだ。ゴーレムが持てるのは二つまでで一つで高得点のものだけを早く持ってきて時間ポイントを稼ぐのもいい。アイテムは木箱に入っているものや堅牢な箱に入っているもの、埋められていたり池に沈んでいるものなど設置方法もまちまちである。

 堅牢な箱に入っているものが高ポイントとも限らないし、箱などので破壊が難しくとも、ゴーレムを器用に操作して仕掛けをはずせば簡単に開く仕掛けもあり、総合的な判断と高度なゴーレム操作が必要だ。そして運も大きな要素だ。

 だから賞金もこの種目が一番大きい。

 ゴーレムも昨日までには見られなかった形のものを選べる。片手がドリルになったもの、トンカチ、つるはし、スコップになったものもあれば、四本足のものもある。

 また、ゴーレムが持つ道具も一つまで選べるが、道具の種類は様々だ。


 いよいよ競技が始まった。いち早く二個のアイテムを持ち帰って来るものの、どちらも「はずれ」でアイテムポイントは低得点の者もいたり、高得点アイテム入りと思われる設置箱を開けるのに苦労している者もいた。たとえ無理やり箱ごと持ち帰っても開けられなければ得点にならない。


 制限時間の半分を過ぎた頃、事件が起こった。突如警報が鳴り響いたのだ。


 「トモドール! 来てくれ、ヤバいことが起こったみたいだ!」


 親方が競技エリアとの境界を見張っていた俺のところに走ってきた。


 「不正が起こらないように、ゴーレムや道具には発動魔術に反応するセンサーの魔道具を仕掛けてある」


 発動魔術とは、罠の魔法や呪いだ。


 「アイテムに呪いがかけられてるのがあったらしい。誰かがしかけやがったな」


 遠くで黒い霞が広がっている。


 身体強化で駆けつけて黒い霞を吐き出しているフジツボのボールみたいなアイテムを見つけると、ソードにフランの超聖水を霧吹きでまとわせてぶった斬った。

 元は絶ったが黒い霞が立ち込めているので再度超聖水を含むとあたりに霧を吹いた。グレート・トモとでも呼んでくれ。


 黒い霧は霧散し、ゴーレムから脱出したゴーレムライダーたちがいた。気を失ってない連中には聖水をわたして飲ませる。あのフードのレディー・旅行者ツアラーも倒れて気を失っていたので聖水を無理やり飲ませた。

 ハッチが開いていないゴーレムがあったのでハッチをこじ開けると、ライダーが出てきた。朦朧としていたがゴーレムに守られて動けるようだったので聖水をわたして飲ませた

 親方も到着し、俺がぶった斬った呪われたアイテムの中にあった脚の生えた青い樽みたいなものを見ている。


 「またこいつか。この樽みたいに見える奴は魔力を蓄え放出する魔道具部品で、魔力を決まった量だけ流すように使われる。これに呪いをかけて時間が経ったら呪いの霞を吐き出す魔道具にしちまう手口が近頃あちこちで見付かってるんだ」


 うわ、なんか胡散臭いやつらが動き出しているのかもしれないな。


 ふと見ると、フードのレディー・旅行者ツアラーは倒れていた場所にいなかった。回復して本部に戻ったんだろうか。聖水を飲ませたときにフードを外して見たが、茶髪と黒髪と銀髪が入り混じった、ちょっと釣り目で妖しい美人だった。いや、容姿は関係なく、気を失っていたから口移しで聖水をのませたんだよ。フランは赦してくれると思う。


 競技は事故ということで用意していた賞金は参加者に均等に配られた。ただフードのレディー・旅行者ツアラーだけは姿が見えず、分配賞金は主催者のグロック・ウービンが預かった。あのおっさん肉買って食ったり酒代にしたりしないか心配だ。


 その後何日か事件の調査をした。犯人などは謎のままだが呪いの仕掛けの調査報告はまとまったので、警備終了ということで明日帰ることになった。ギルドの酒場でアメーオ親方と陽気なギルドマスターと飲んでいたらテーブルに三毛猫が乗ってきた。猫じゃないな、ケットシーだ。


 「こいつ、あの事件の頃からここに居ついてるんだよ」

 「割と人気者でな、みんなハムやチーズとかツマミを食わせてるよ」


 なんだか俺になついてきてゴロゴロのどを鳴らしている。

 

 長距離馬車で帰るときににいつの間にか俺の荷物に紛れ込んでいた。帰路の道中、乗客みんなにかまってもらっていたが、夜は気が付くといっつも俺の腹の上で寝ているので俺が引き取って連れ帰ることになった。


 王都から馬車を乗り継いで聖都に戻り、いつものようにフランの治療院に行くと三毛猫ケットシーは俺の腕から飛び出すと、走ってどこかに行ってしまった。治療院になんか猫が嫌がるポーションとか薬草でもあったのかな。


 とにもかくにも、フランに土産話をして、癒しの施術をうけたあとで、髪の毛の回復魔法をかけてもらうのだった。

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