第3話
〈
ゆずにバレた。チラシ配りのこと、チラシをゴミ箱に投函していたこと。恥ずかしさで紙吹雪を降らせようとする腕が寸前で垂れ下がる。
もうゆずには会えない。とんだ迷惑客だなと嫌われただろうが、仮に許されたとてこんな姑息な行為を選択する人間と知られたこと自体、あたしは耐えられない。久し振りに話相手が作れて充実していた日々は簡単に捨てられた。流石に改心したあたしは、あの店を除外したローテーションでゴミ箱巡りをすることにした。
何十周かの巡回を終えた頃、バイト終わりの慣れた夜道を辿る。お互い仕事場は割れているがゆずが通行人エキストラとして配役されることはなく、あたしも遠目でゆずの制服姿を見張るだけに留めた。元々あたしにそこまで興味は無かったのかもしれない。こんなゴミ女拾う価値ないって。
家に伸びる一本道を進むと、誰かがあたしの玄関の前に何かを捨てていた。だらだらと汁を撒き散らしカラカラ落下するプラスチック容器。あ、こいつか、最近街の美観を汚す犯罪者は。コソコソ闇に乗じればバレないという算段か。こういうことする奴は大抵あたしを怒鳴りつけたような、良い歳こいた老人と相場が決定している。どれどれどんな奴だと、仕事で培った観察力でゆっくりその人物を捉えた。
あたしの影に遅れて気付いた犯人は容器を蹴飛ばしながら一目散に逃走した。落ちているのはぐちゃぐちゃになった弁当。あたしの時とは異なり間延びした後味は残らなかった。それどころか、あたしの興味関心は掃溜の底から這い上がってきた。
翌日、あたしは今日もゴミを捨てに行く。やっぱりコンビニは近くて便利だから。偶にはチキンを買ってみようか。
「いらっしゃいませー」
店員はにっこりあたしを迎えた。彼女もあたしもゴミだった。
ゴミ箱カップ 沈黙静寂 @cookingmama
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