最後に見たのは
竹田さんのお父さんが死んだと知らされて一週間。僕たちは考えに考え抜いて、どうにか決断をする段階にたどり着いたようだった。
「僕たちはもうこうするしかない……か」
「そうだね。ごめんね、丸木くん」
「全部僕が悪いんだ。竹田さん、許してください」
「私は丸木くんのせいで辛い目に遭ったことは一度もないわ。それより、もっと楽しい気持ちで行きたいな」
「では久方ぶりにお嬢様ごっこを致しますか」
「そうね」
「ではお嬢様、お茶をお入れします」
僕は茶葉をパックに詰めた。もう味わうことがないならと、一番高いお茶を。紅に染まった液体をティーカップに入れ、帆花お嬢様の前にお出しする。
「美味しいわ、丸木」
「ありがとうございます」
妙に笑いがこみ上げてきた。僕は笑いをかみ殺して立つ。帆花お嬢様はニコリと笑って、僕の目を見た。
「ありがとう、丸木」
楽しく話す僕たちは、最後をできる限り明るくしたつもりだ。
「そろそろかな」
「また会おうね。いつまでも一緒だから」
「じゃあ、また会おうなんて言わずにさ」
「わかったよ。じゃあ隣にいてね」
「うん、約束だよ」
カッターナイフの刃が光る。ここまで書いたノートを置いて、竹田さんの手を握った。
「上山先生、警察の方からお電話がありました。竹田帆花さんと丸木健くんが遺体で発見されたそうで、事件性があるかどうかを含めて警察が捜査中とのことです」
「……そうですか」
その名前を聞いたとき、私は二人の顔など思い浮かべられなかった。学校を長い間休んでいるということだけを知っていた。私は二人がどんな存在でどんな子供だったかもわからない。それでも、クラスメイトなら知っているかもしれない。
「ホームルームで話していただけますか?」
「わかりました」
朝のホームルームで彼らの死を伝えることになった私は、時間に追われながら三年生の教室に向かう。
「竹田さんと丸木くんが亡くなったそうです」
「……」
クラスの生徒達も無言で首をかしげている。一人が
「学校に来てない丸木と竹田か?」
そう聞いた。私は静かにうなずいた。クラスの生徒達は戸惑っている。彼らもまた、二人のことを何一つ知らないのだった。
特殊清掃員が部屋に入ったとき、机の上には血のついていないノートがあり、床の上には血で染まった二つのティーカップ、そして二人の死体があった血だまりがあった。ティーカップには血がいっぱいに溜まっていたという。それらは明るい部屋の中で、ただ佇んでいた。
君のとなりに 古井論理 @Robot10ShoHei
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