心の向こう
竹田さんの家に着くと、僕は夕食を作りながらボソリボソリと竹田さんに今日あったことやその他のことを包み隠さず話し始めた。先生に暗に部活をやめるよう言われたこと、親か特別支援学級のどちらか――もしかすると両方――が圧力をかけたらしいこと。
「そう。なら私も部活なんてやめる」
全て聞き終わった竹田さんはそう言った。
「え?」
僕は衝撃のあまり言葉を失った。
「当たり前じゃない、仲間を切り捨てるのは間違いなく悪いことだと思う。そんなことをする部活なんかにはいたくない。それに、丸木くんがやめるように言われたのは私のせいでもあるでしょ?なら私もやめないと、丸木くんに悪いと思う」
「……駄目だよ、竹田さんはやめるようになんて一言も言われてないのに」
「だからなおさら駄目だと思う。原因を責めずに結果を責めるのは、一番やっちゃいけないはずなのに」
僕は竹田さんの言葉を否定しようとしたが、否定する言葉は思いつかなかった。
「……わかった、二人揃って帰宅部か」
僕が言うと、竹田さんは首を振った。
「そうするように言ったり圧力をかけたのは学校でしょ?なら、学校に行かなければいいと思う」
「でも……学校に行かなかったら」
「大丈夫、もう学校も何もかもやめちゃえばいい。それで、学校が折れてくれればまた学校に行きましょう。元々学校にいるみんななんて私たちをいじめた悪人じゃない。部活がないなら行く必要もない。学校で勉強する大体のことは丸木くんも知ってるでしょ?」
「まあ……そうだけど」
「なら問題ない。私は明日から学校に行かない」
「でも僕は……母さんが」
「心配ない、うちにいて。まだお母さんにはここのことは知られてないんでしょ?」
「……多分」
「なら、ここに住めばいい。何か取ってくるものはある?」
「ない」
「そう。なら私と一緒に、ここに住みましょ」
こうして僕たち二人だけの生活が始まった。
あれから二年。9月になって、僕たちが本来なら受験に忙しいはずの今朝、僕たちを支援してくれた竹田さんのお父さんが死んだという知らせが届いた。交通事故だったそうだ。
「このままだと私たちは……」
今朝から竹田さんは何度もそう言って言葉につまる。僕たちは死を考えないように生きてきた。だから、それを考えても口に出せないのだろう。
「……僕、働くよ」
「無理でしょ。貯金は5ヶ月も持たないし……中学の卒業資格ももらえないと思う」
「確かに留年してそうだし……」
「でもどうすれば……身体を売ったら多分捕まるけど」
「それは駄目」
「え」
「竹田さんは僕のものだから」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
「でも竹田さんはどう思うの?」
「……できるならやりたくない」
「だよね」
僕たちの前の暗澹は決定的なまでの暗さで、僕たちがどこへ逃げても追ってくる。どうすれば良いのか、僕たちは知らなかった。
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