面会と豹変

 入学式の翌日、僕は竹田さんの家に行った。竹田さんのお父さんは家の前で待っていた。

「君が帆花の面倒を見てくれてる丸木健君だね?」

「はい」

「事情は帆花から聞いたよ。俺が君のご両親に報酬を払う。親一人あたり5万でどうだ」

「じ、10万も!?」

「ああ。今のところ毎月貯金にかなり回ってるからその一部を払うくらいは大したことじゃないし、俺が世話をすることほど恐ろしいことはないからな。君のご両親にも手紙を書くよ。手紙が信じられなかったときのためにチップをやる。なくさず全額渡せよ」

 竹田さんのお父さんは、僕に一万円札2枚を渡して、頭をなでてくれた。

「さて帆花、丸木君、俺はまた社員寮に行ってくるからお別れだ。二人とも頑張ってくれよ」

 竹田さんのお父さんはそう言うと、スポーツカーに乗って静かに去っていった。

「さあ丸木くん、夕食を作ってくれる?」

「わかった」

 僕は竹田さんの家に入ると、野菜と肉を料理して肉じゃがを作った。肉じゃがは我ながらとても美味しく、いい出来だった。

「おいしいよ」

「お嬢様やっとく?」

「もうやめにしよう」

「え?」

「虚構の中でなくても、私達は一緒だから」

 竹田さんはそう言って微笑んだ。可愛い顔が、僕の方を見る。僕がどぎまぎしていると、竹田さんは僕の手を掴んだ。

「私のとなりにいてね」

「それって……」

「君と会えたことが、今は一番の幸せだから……。一緒に歩いていこうね」

「……」

「どうしたの、男の子が告白されるなんてめったにないんじゃないの?」

 僕の顔は真っ赤だっただろう。そして僕は言った。

「はい、よろしくお願いします」

「一生縁がないとでも思ってたの?私がいる限り縁はあるからね」

 僕は竹田さんを抱きしめようとして思いとどまった。しかし、竹田さんは僕に手を伸ばしてぎゅっと僕を抱きしめた。母に叩かれたアザが消えない体は、竹田さんの体の前に温かい幸せで満たされた。


 その日の夜、僕はお母さんとお父さんに2万円と契約書を渡した。

「僕が友達のお家で友達の面倒を見ると、お父さんとお母さんは5万ずつもらえるよ。これが契約書、これが振り込み先口座の通帳」

 お父さんとお母さんは顔を見合わせたあと、僕に微笑んだ。

「わかった、部活のあとはそっちでご飯を食べてくるんだね?」

「うん」

「いいよ、行っていい。頑張ってね」

 僕は竹田さんと一緒にいられることになったことが信じられず、何度も聞き返した。そのたびにお父さんとお母さんは「いいよ」と言った。


 その夜、僕は竹田さんのために生きることを決めた。竹田さんの幸せを守れば、僕も幸せになれる。そう思ったからでもあるが、竹田さんが好きなのが一番の理由である。僕は冷たい布団の中で、竹田さんを想った。

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