自由のための反抗
僕が家に帰ると、両親は帰ってきていた。
「
母が言う。家の中には焦げたシチューの香りが充満していた。
「はあい」
そう返して手を洗い、台所に行ってシチューの盛り付けられた皿をとる。
「これから一週間ぐらい作り置きだからね」
「分かってるよ」
「そう、ならよかった」
「そういえば中学校の部活なんだけど」
「駄目」
「なんで話してもないのに否定するの」
「健は絶対うまくいかないから」
「なんで決めつけるかな……吹奏楽部なんだけどさ」
「駄目に決まってるでしょ。パソコン部ならまだ許したけど」
「何が違うんだよ」
「全部よ。特別支援にも行かなきゃいけないのに、なんで休めない部活に入ろうとするの」
「また特別支援療育?」
「なに?将来困りたいの?」
「困りたくはないけど……もう良いんじゃない?治るかもしれないとか言うけど、現時点では治療法はないわけだしさ。覚えるったって日常生活に問題はないよ?」
「良い子にしてるっていいたいのかもしれないけど、じゃあなんでしょっちゅう他の子と喧嘩するの?」
「それは向こうが悪いんだよ」
「あんたが殴ってるのに、向こうが悪いわけないでしょ」
「向こうが先にやってくるのに?」
「とにかく、私は健のために言ってるの。療育はちゃんと受けなさい」
「嫌だ」
「なんで?健は将来困ってもいいの?」
「いいし、そもそも困らない」
「困るから言ってるの」
「じゃあ具体的にどう困るの?」
母の顔が少しゆがむ。何かが違うと悟ったのだろう。
「それは……」
「例が挙げられないなら困らないってこと。じゃあ部活に参加していいよね」
「……父さーん」
「健、また母さんを困らせてるのか」
「僕は意味のない療育に行く必要はないって言っただけ」
「意味がないだと?」
「うん。療育を受けなかったらどう困るのか言ってみたら?」
「お前、誰に口を利いてるつもりだ」
「どう困るの?」
「……もしかしたら困るかもしれないじゃないか」
「それぐらいなら『外に出たら事故に遭うかもしれない』って言ってるのと同じじゃん」
「そんなわけあるか」
「同じだよ、具体的に困る内容を示してないぶん父さんや母さんの言ってることの方が暴論に近いけどね」
「んだとこら」
「殴っても良いけど、そのときは虐待で訴えるからね」
「……もういい。どうなっても知らんぞ」
「ありがとう。同意したって紙に書いといてね」
「なんでだよ」
「所詮口約束なんて言われたりしてやっぱ駄目なんてなっても困るからね」
「はいはい」
「じゃあこれに書いて」
僕はノートの1ページを取り出して、サインと「部活に入ってもいい」という文言を書かせた。
「ありがとう。これは僕が持っておくよ」
「勝手にしろ」
まだ寒い3月の夜、僕は帆花お嬢様のために親と決別した。卒業式までのあと幾日かは、僕のこれまで通りの日々は変わらないだろう。春休みになったところで、お嬢様と過ごす時間が長くなって、幸せになれるだけだ。風呂から上がった僕は、冷たい布団をかぶって目を閉じた。
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