第二八話 策
「あっしに手紙っすか……?」
「はい。差出人は不明ですが。では」
救助者ギルドにて、受付嬢ノルンが入ってきたフォーゼに手紙を渡すと、足早にカウンターの奥へと立ち去った。
(……さては、あっしへのラブレターっすね。へへっ。ツンデレ嬢らしい、遠回しなやり方っす。どれどれ……)
ニヤニヤしながら手紙の封を解くフォーゼだったが、まもなくブルブルと手を震わせることになる。
『お前が元盗賊であり、例の指輪を盗んだという証拠を握っている。それを渡してほしくば、これから示す日時と場所に一人で来い。こちらが欲しいものはそのときに話す』
「…………」
真っ赤な顔で手紙をくしゃくしゃにするフォーゼ。その目は異様なほどに尖っていた。
(へっ……誰がなんの目的でやったかは容易に想像がつくっす。あっしに喧嘩を売るとはいい度胸っすねえ。心強い味方もいるし、今やただの盗賊上がりじゃねえっす。証拠を奪ったら殺してやるっすうう……)
そこは救助者ギルド近くにある路地裏、白い覆面を頭からすっぽりと被った三人組が、フォーゼと相対することになった。
「――どうせあんたら、ギルドメンバーっしょ。んで、目当ては金っすね? 金目当てに仲間を脅そうなんざ、救助者ギルドの名が泣くんじゃないっすかねえ」
「「「……」」」
フォーゼの小ばかにしたような言葉で、三人組は顔を見合わせたあと、その一人が前に出た。
「それはこっちの台詞。盗賊上がりで仲間を売った男が」
「へっ、図星な上、調査済みってわけかい。金が欲しいんだったら、まずその証拠とやらを渡してほしいっすねえ」
「いいだろう」
三人組の一人がそう言ったあと、石を掲げてみせた。
「……な、ななっ……? って、それは……ただの石ころじゃないっすか……」
一瞬ビクッとした仕草をしたあと、一転して呆れ顔になるフォーゼ。
「確かにただの石ころのように見えるだろうが、これには秘密がある」
「へっ、秘密……?」
「そうだ。【記録】という加護で、お前の音声をこの石ころに封じてある」
「は、は……? そんな出鱈目、誰が信じるんすかね……」
「では、証拠を聞かせてやろう」
石を掲げた者がそう言った直後、くぐもったような声が上がった。
『あの指輪とギルドマスターがあっしの惨めな人生を変えてくれた……』
「っ!?」
その声を聴いた途端、両目を見開くフォーゼ。それは彼の声と非常によく似たものであった。
「お前の声をこの石に【記録】したのだ。石に触れた状態で、封じ込めた音を出せと念じるだけで今の声が出てくる。どうだ、信じたか?」
「ぐっ……。か、金ならやるから、その石をこっちに渡してもらうっす……!」
「我々の目的は金ではない」
「じゃ、じゃあ、なんなんっすかね……!?」
苛立った様子のフォーゼに対し、石を持った人物が一枚の紙を懐から取り出す。
「この紙にサインしてほしい。お前が指輪をテッドの体に仕込むように、ギルドマスターから指示されて仕方なくやったという自白の証明書だ。それを書きさえすればお前の罪は軽くなるが、このまましらばっくれるつもりなら、この音声を駐屯地にて公開するゆえ、お前もマスター同様、異次元の監獄行きは免れない」
「ぐぐっ……」
激しく動揺した様子を見せるフォーゼだったが、まもなく一転してニタリと笑ってみせた。
「あっしって結構、演技力あるほうっすかねえ? こういうこともあろうかと、ちゃんと策は打ってあるっす!」
「「「っ!?」」」
フォーゼがその場から忽然と姿を消した直後だった。周りの塀の向こうから弓矢を持った者たちが飛び出すようにして現れ、覆面の三人組に対して構えてみせたのだ。
「へへっ。あっしの加護【ハイド】については勉強不足っすね? その石ころ、タダでいただっくすよ……!」
「それはどうかな」
「へ……?」
石ころを持った人物が覆面を外すと、それは救助者ギルドの一人、シェリアであった。
「私を殺せるというのなら殺してみなさい。あなた方にはできないでしょうけど……」
「そ、そんなの関係ねえ! や、やれ! あの女も含めて、三人ともぶっ殺せっす!」
「「「「「……」」」」」
だが、弓矢を構えた者たちはいずれも困惑した様子で、姿を消したフォーゼの命令を聞くことはなかった。
まもなく、彼の加護【ハイド】の効果が切れたのか、呆然とした顔のフォーゼが姿を現したかと思うと、弓矢は一斉に彼のほうに向けられるのであった。
「え、ちょっと待って? ちょっと待ってっす、タンマ、タンマタンマタンマタンマ――うぎゃああああああぁっ!」
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