第22話 あんなやつだけど仲間なんだ!

上空からオークの群れを眺めていると

2人のボロボロの冒険者が近くにいた。



「あれは…」



剣士ビリーといつも一緒にいる魔導士カーリンと拳闘士ユルゲンだ。


カーリンはユルゲンの肩を借りながらなんとか歩いている様子。


あんなところにいてはオークの餌食になってしまうぞ。



「助けなきゃ!」



俺が2人の元に移動しようとした時



「ちょっと待つのじゃ。

ウェルはあやつらにひどい目にあったと聞いておるぞ。なぜ助けるのじゃ?」



エリスお嬢様は俺を引き止めた。


あんな奴ら助ける義理はないはず。


しかし、



「俺は冒険者なんで…助けられる命は助ける!」



「まったく、やっぱりウェルはお人好しなのじゃ」



そうかもしれないな。


そして、俺はユルゲンとカーリンの元へ降り立った。



「だ、だれだ!?」



「俺です! 大丈夫ですか!?

ユルゲンさん、カーリンさん!」



「お、お前は…」



ビリーとの決闘から一度も会ってない。

だからこの3人が俺に対してどういう思いでいるのかわからない。


しかし、助けたい!



「ここにいては危険です!

オークの大群が近くにいます!

すぐにここから離れましょう!」



俺はすぐに離れるように呼びかける。

しかし、自力でどうにか逃げられる状態ではない。


それなら!



「俺に掴まってください!

ラーニング2つ同時発動。

空間魔法『ダブルテレポート』」




空間魔法『ダブルテレポート』はテレポートを2回同時発動して2倍の効果をもたらす魔法。


本来のテレポートは50mの移動が限界だが、ダブルテレポートのおかげで100m移動できる。


俺はエリスお嬢様、カーリン、ユルゲンと一緒に森の外で街の近くまで移動した。



「な、なんて魔法なの…。

こんな使い手と戦ったなんて…」



驚くカーリン。

テレポートだけでも中級者向けの空間魔法だが、無詠唱で2つ同時発動はそうそういるものではないらしい。



「お、お願いだ…ビリーを…助けてくれ!」



え? ビリーを!?



「せ、説明を…!」



俺はその一部始終を知った。

楽園の使徒ラプラスと謎の男について。

ビリーが謎の男について行ったこと。

ビリーがカーリンとユルゲンを傷つけたこと。


そして。



「私は意識を失う前にポーションを飲んで応急処置をした。その後、光魔法『ヒール』でユルゲンにも応急処置をして一命を取り留めました」



「そのあと、俺たちは身体を引きずりながらビリーを追いかけたんだが…謎の男にオークにされちまった!」



まさか、そんなことが…。


このオークの大群。

楽園の使徒ラプラスが絡んでいるのか。


あいつらめ…いったいなにを企んでいるんだ?



「ビリーを助けようとしたがその謎の男に洞窟の外まで吹き飛ばされてしまったんだ」


「オークの群れにずっといたけどオークたちが私たちを襲わないのはきっとビリーのおかげよ!

私たちを斬ったことだって操られたからに違いないわ!」



「頼む!! 助けてやってくれ!!!

ビリーはまだ生きているんだ!!」



頭を下げて必死に頼みごとをするカーリンとユルゲン。



「何を図々しいことを言っておるのじゃ。

主らがどれだけの悪行をしてきたかわかっておるのか?」



ウェルリーと一緒にやりたい放題してきた三人。

今さら誰かに助けを求めるなどお門違いだというエリスお嬢様。



「わかってる! 罪は償う!

そして後輩で新人の冒険者に恥を忍んで頼む!!

あんなやつだけど仲間なんだ!!!!」



あんなやつだけど仲間なんだ。

誰かにとっては憎まれる存在。

だけど誰かにとっては大切な仲間。


……それなら…。



「…わかりました。助けましょう!」



これが俺の答えだ。



「何を言っておるのじゃ!?」



「エリスお嬢様。

俺を気遣ってくれてありがとうございます。

でも、俺なら助けることができるかもしれないんです」



「ウェル、まさか…」



「はい、闇魔法『マナドレイン』でオークになった原因となる魔力を全部吸い上げるんです」



オークレベルならマナドレインも通用するはず。

そして、これが使えるのはこの中では俺だけだ。

なら俺にしかできないことだ。

俺ならヴィリーを助けることができる。



「このお人好しが!!

それがどれだけ負担になるかわかっておるじゃろう!!

なんで自分をひどい目にあわせたやつらを助けるのじゃ!?

自分を犠牲にしてまで!!!」



俺のことを心配してくれてありがとうエリスお嬢様。


でも、放っておけないんだ。

その理由は父親にある。



「…たぶん…父親の影響ですね…。

『優しさは取り柄だからその心で人を助けなさい』。

そう言い聞かせられました。

イジメられて引きこもっていても、俺には取り柄があるって思えたから自殺せずに済んだんです」



父親の教え。

言葉を支えに俺は生きてきた。

引きこもりでも自分にできることををやろうと思って、家事を手伝ったりした。


それがきっかけで楽しくなり家事は一流まで極めてしまったが。



「だからこのお人好しは俺の個性なんです。

あと、俺にとって嫌なヤツでも誰かにとっては良いヤツなんです。

だからその人がいなくなると悲しむ人がいるんです。

この人たちのように…」



それでもどうしようもないヤツなんていくらでもいるのじゃ!

と言いたそうな顔をするエリスお嬢様。


わかってはいる。


俺はもう36歳だ。

それなりに人生は積んでいる。


だが、この『良い人』は生まれ変わっても拭いきれない。

お人好しでお節介で、貧乏くじばかり引いて。


そのくせ自分は何もできなくて。

それでも誰かの役に立ちたい。

誰かを助けたい。


引きこもりだったころは、力がなかった。

力がないからエリスお嬢様を助けられなかった。

だが、今は力がある。

助けることができる!

もう、あの時の後悔はしたくない!



「…ほんっっっっっっっっっとに!!

大バカが10個つくほどのお人好しなのじゃ!!!

妾はもう知らん!!!」



バカがつくほどではなく、あえて大バカ×10。

さすがエリスお嬢様!!!!



「あはは、ありがとうございます。

エリスお嬢様」



さて、カーリンとユルゲンを置いてすぐに戦場へ向かうか。


早く戻ってオークになったビリーを探しながら

危険度Aランクのジェネラルオークを倒さないと。


ゲルドさんなら大丈夫だろうけど

他の冒険者では太刀打ちできないからな。





一方その頃。


オークの大群の奥深く。



「くそ!! なんで…なんで!?!?

こんなところにオークロードがいるだよおおお!!」



オークロード。

危険度Sランク。

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