第17話 村のお祭り


うーん


真っ暗だ


何も見えない



俺どうなったんだっけ?




「ここ置いておくね!」



ん? 何を?



「感謝するのじゃ!」



誰かが話をしている。



何の話だ?



「…ん…ここ…は?」



俺は寝ていたようだ。


目を覚ますと村の女の子とエリスお嬢様がこっちを見ていた。


この子は昨晩の食事で料理を持ってきてくれた女の子だ。



「お兄ちゃん! 目が覚めた!」



「全く…お寝坊さんなのじゃ」



女の子の方がストレートに喜んでいるのが伝わってくる。

エリスお嬢様は呆れ顔だが、心配してくれたんだなって分かる。



「俺は…あの後…」



正直記憶があいまいだ。


危険度Sランクのグリーンドラゴン倒したまでは覚えている。



「魔力の使いすぎで気絶したのじゃ。

『マナドレイン』で魔力を吸収しているとはいえ疲労はたまっていくのじゃぞ?

その上、自分の力量を超えた魔力を扱ったのじゃから当然の結果じゃ!」



なるほど、闇魔法『マナドレイン』は無限に魔法が使えるほど万能じゃないんだな。

気をつけよ。



「お兄ちゃん、もう2日も寝ていたんだよ!」



「え!? 2日!?」



俺はそんなに眠っていたのか。

グリーンドラゴンを倒した技はそれほど身体と精神に負担がかかるのか。


多様はできそうにないな。



「ということで宴に入るのじゃ!!」



え?



宴!?



「みんなー!!

お兄ちゃんが目を覚ましたよー!!」



俺を看病していた女の子は村のみんなを呼びに行った。



「ウェルさんが目覚めたか!!!」



「早速準備を始めよう!!」



え、ちょ!?


話によると村の危機を救ったということで、この村名物の宴会をやるとか。


そんな気を遣わなくてもいいのに…。


でもまぁ、せっかくだし楽しむか!



ぐぎゅるるるるるる…。


かなりでかい腹の虫が鳴った。



「それにしても腹減ったなぁ」



2日間何も食べてないということをようやく脳が認識したようだ。



「お兄ちゃん! こっちこっち!」



女の子に連れられて特等席に案内された。


ちょっと気恥しいなぁ。



「ウェルさんの!

リザード1000体の討伐を祝って!!!

カンパーイ!!!!」



あの大人しそうな村長さんが凄い大声を上げた。

よほど嬉しかったのだろう。



「村の名物かぁ」



見た目は13歳だけど年甲斐もなくワクワクしていた。


何しろ異世界転生して村の郷土料理を食べたり、

文化に触れるのは初だ。


おっさんの頃はほとんどどこにも行かなかったからな。



「お兄ちゃんこれ食べてみて!」



「ありがとう。

そういえばまだ名前聞いていなかったね。

俺はウェル! よろしく!」



「あたしはルル! お兄ちゃん!

あたしと結婚しよ!」



ルルか…可愛い年頃だなぁ。


俺と結婚だなんて…。



結婚!?!?!?!?!?!?




「ぶほぉ!?!?!?」



俺は噴き出してしまった。



「お兄ちゃん大丈夫!?」



心配そうに見つめるルル。


いやいやいや待て待て待て!!!!

落ち着け俺!!!!!!!!



見たところ6歳ぐらいだ。


結婚の意味はわからないだろう。


つまり、異性の好きではなく憧れるお兄ちゃんということだ。


うん、つまり恋愛ではない。

Loveではない。

LIKEだ。


それなら憧れるお兄ちゃんらしくキリッと返さないとな!



「…そうだね。大きくなったら結婚しようか」



「ほんと!? お兄ちゃん! 約束だよ!!」



「あぁ、約束」



6歳なら大人になる頃には忘れているだろう。

子供に夢を与えるのも大人の仕事だ。



「じとーっ」



あれ!? エリスお嬢様から嫌な視線!?



そして、ルルは顔を赤くして走ってどこかへ行ってしまった。



村の郷土料理。


村の踊り。


村の優しさ。


俺はこの世界に来て初めて宴を楽しんだ。




翌日、俺たちは村をあとにした。



ルルは泣きながら



「お兄ちゃん行かないでーー!!

あたしも行くーーー!!!」



とダダをこねる。

随分と懐かれたものだ。



ギルドに戻ると俺は報告した。


リザードの群れ退治がリザード10000体になっていたこと。


それを操る存在がいたこと。


楽園の使徒『ラプラス』のこと。


グリーンドラゴンを倒したこと。



Cランク任務がこれほど異常事態になるなんて誰も思わないだろう。



「楽園の使徒『ラプラス』…聞いたことないな」



「ゲルドさんでも知らないのですか」



ギルドマスターなら知っているかと思ったら知らないとは。



「闇ギルドの情報は色々聞いているがラプラスはわからんな。とはいえ闇ギルド自体が半分も情報が入ってこないからわからんことの方が多い」



なるほど、闇ギルドだけでも数の把握ができないぐらい隠された組織だからな。



「しかもラプラスが闇ギルドでなければな、おさらわからんな。そっちは専門ではないからな!」



闇ギルドなら冒険者などの正規ギルドと衝突があるから情報はあるけどラプラスはそうでないから情報がないのか。



「あと、グリーンドラゴンを倒したという話は信じられんな…素材があればいいのだが」



そうなんだよな。素材がないんだよな。


魔物討伐は、その証明に魔物の一部を持ち帰る必要がある。


しかし、俺が倒した10000体のリザードとグリーンドラゴンは魔法で作り出されたもの。


メイデンを倒した同時に消えてしまった。



「ウェルの言っていることが正しければ、村に行けばリザード1000体を討伐したと言ってくれるだろう」



つまり、情報は受け取るけど証明できるのはリザード1000体倒した報酬分らしい。



うぅ…あんなに苦労したのに…。



それにしても楽園の使徒『ラプラス』か。


全てが謎に包まれたその組織は

今後どうなることやら。

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