厄災戦争 大魔王アザトースvs世界13

 

 遂に本気を出すことを決めた大魔王アザトース。


 元々の計画ならば、女神イージスを殺すために力の温存をするはずだったのだが、計画の要となるアドムやニヴ、更には遠くの地で感じた原初達の死により計画は完全に狂ってしまっている。


 こんなことならもっと早く力を解放して、逆に助けに行けば良かったと後悔するアザトースだが、後悔先に立たず。


 全てが手遅れになってから、後悔とはするものなのだ。


 「やってくれたな人間。楽には殺さん」

 「さっきも言ったけど、できる限り楽に殺してやるよ。俺達は慈悲深いからな。それこそ、神のように」

 「ほざけ」


 先手を取ったのはアザトース。


 先程とは違い、膨大な魔力を纏った触手が仁と花音に迫り来る。


 神聖皇国軍の兵士がこの触手に少しでも触れれば、その膨大な魔力に押しつぶされて跡形もなく消し飛んだ事だろう。


 しかし、相手は世界最強であり、人類の祖をを殺した絶対的な人間。


 人としての領域を超えている仁と花音からすれば、触れたとしても死ぬことは無い。


 「花音、俺に会わせろ」

 「はいはーい」


 仁は迫り来る触手を素早く避けると、アザトースの頭上に向かって落ちていく。


 その速さは到底人の目で終えるものではなく、残像だけが残り黒い柱となってアザトースの脳天に落ちていった。


 ドゴォォォォォォォン!!


 と、世界を揺らす衝撃が響き渡る。


 仁の拳とアザトースの触手がぶつかり合い、2500年前に行われた初代勇者とアザトースの戦いの時よりも派手で重たい衝撃が世界を駆け巡った。


 「........フハハ。サポートも無理かも」

 「おいストリゴイ。アタシ達がサポート出来ることなんであんのか?」

 「無いな。というか、サポートが返って邪魔になりそうだ。下手に手を出した方が団長殿を苦しめる。って言うか、強くなりすぎだ。ドラゴン相手にヒーヒー言っていた団長殿を返して欲しいぞ」

 「アッハハハ!!それは言えてるな。んで、戦いに参加できないけどどうする?みんなで団長さんを応援するか?」

 「応援は当たり前。我らは周囲に被害が出ないように務めるとしよう........まぁ多分無理だが」


 たった一撃の衝突で、自分たちの出る幕では無いと察した団員達。


 拳と触手がぶつかった際の衝撃と魔力を感じただけで、ストリゴイ達は自分たちでは手に負えないと判断したのだ。


 元神の圧倒的な魔力と、本来操ることの出来ない魔力量を強引に操る仁。


 これが世界の終焉になるかもしれないとストリゴイは思いつつ、できる限り周囲の国々が巻き込まれないように尽力することにする。


 それでも、心の中では“無理だろこれ”と思っていたが。


 「アドムを殺しただけはある。この速さと重さは人の身でできる範疇を超えているな」

 「そりゃどうも。それにしても、神様のくせに俺の拳を防ぐので精一杯なんだな。これなら俺が神と名乗っても問題なさそうだ」

 「戯言を」


 アザトースは仁の周囲に闇の魔法を展開すると、仁の動きを制限させるように放つ。


 アザトースが行使した魔法は、闇の弾丸を飛ばすという人間でも闇魔法の適性があれば誰でも使えるようなものだが、威力が桁違い。


 流石の仁と言えど、これほどの量の弾丸を打たれれば、逃げざるを得ないと判断しての一手だった。


 が、しかし、アザトースはあまりにも世界最強の力を舐めている。


 「こんな弾丸が効くわけねぇだろ」

 「........化け物が」


 仁が取った行動は、そのまま突っ込む。


 闇の弾丸をその身に受けながらも、アザトースの頭をかち割ろうとしたのだ。


 しかも、弾丸がまるで聞いていない。


 軽い雨に打たれるかのような気軽さで弾丸の中に突っ込んでくる仁を見て、思わずアザトースも“こいつは化け物か?”と思ってしまう。


 圧倒的な魔力を圧縮して作られた膜は、仁を守る鉄壁の防護となり、生半可な攻撃は全て防いでしまう。


 アザトースがちゃんと殺す気で放った闇魔法であろうと、仁にとっては生半可な攻撃だったのだ。


 「死ね」


 それを見たアザトースは、仁に魔法のほとんどが効かないと悟ると触手を伸ばして仁の迎撃を試みる。


 正面で仁を受け止める触手と、周囲から仁を攻撃する触手。


 その数は十数本にも及び、仁がガードをしようとも触手のどれかが当たるようになっていた。


 それこそ、真正面から突破されるか、第三者の介入がなければ。


 「それはダメだよ。仁の邪魔すんな」


 サポートに回っていた花音は、鎖を服の裾から出すと全ての触手の行動を止めさせる。


 本来花音の出力では鎖で受け止められるレベルの攻撃では無いのだが、その異能によって魂の出力を上げている現在の花音ならば可能。


 人類でありながら人類では無い花音の鎖は、今や神の攻撃すら受け止められるほどの力を持っているのだ。


 「チッ!!厄介な人間共が」

 「覚悟はいいか?歯ァ食いしばれよ」


 超高速で動く仁とアザトースの攻防では、この一瞬の隙が命取り。


 先に隙を作り出した仁は、その拳を大きく振りかぶるとアザトースの脳天に向けて思いっきり拳を振り下ろす。


 アザトースを守る膨大な魔力と仁を守る膨大な魔力。


 この2つがぶつかり合い、周囲に閃光の如く眩しい光が飛び散る。


 「眩し........」

 「光が........」


 終焉の光に包まれた者達は、一斉に目を瞑り、世界の一旦で輝くのだった。

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