厄災戦争 大魔王アザトースvs世界10
シルフォードの原初精霊魔法によって分身体を焼かれたアザトースは、痛みや分身体を消されたことによる怒りよりも先に混乱が来ていた。
世界の管理者たる力である“原初”。
全ての現象よりも更に強い力を持つ原初は、正しく世界を管理するにふさわしいものなのだ。
しかし、その力を扱えるものはとてつもなく少なく、世界広しと言えど4体のみ。
それが今までの世界であった。
が、今放たれた原初の炎は1人のダークエルフが放ったもの。
正確には精霊が放ったものではあるが、どちらにしろ有り得てはならない一撃。
この場にファフニールがいるならば話は違うが、ファフニールは今ほかの原初と戦っているのだ。
「馬鹿な........原初の力を使えるダークエルフだと?精霊魔法とは言え、ありえない」
「大魔王アザトース。お前さえ居なければ、私達の故郷は滅ぼされなかった。私達の家族を、村の同胞を葬ったその対価、払ってもらうよ」
シルフォードの故郷は、かつて大魔王アザトースと共に人類を裏切った事により滅んでいる。
再び悪魔達が動き出したことにより、シルフォードの家族や友人達は皆輪廻の中に返ったのだ。
残されたのは下の妹達のみ。
悪魔の手から逃れつつ今の居場所を見けたが、その恨みが晴れるとは限らないのだ。
(ある意味、感謝もしてるけどね)
しかし、その出来事がなければ、仁や花音に出会えることは無かっただろう。
確かに辛いこともあったが、この居場所はシルフォードにとってとても心地のいい場所である事は間違いない。
自分達をダークエルフと知った上で保護し、職を与えて自由に生かしてくれた。
シルフォードにとって、絶対的な忠誠を誓う居場所であり守るべき組織。
そのきっかけとなったのも大魔王アザトースである。
仁と花音に出逢えたという点だけは、ある意味大魔王アザトースに感謝すらしている。
が、家族や村の人々を殺したのも事実。その恨みはここで晴らさなくてはらならい。
「その精霊、なぜ原初の力が使える?本来有り得てはならない力だぞ」
「女神様は、この世界に蔓延るゴミを燃やして欲しかったんじゃない?ほら、今も生ゴミみたいな臭いがするし」
「........戦い方を間違えたようだな」
「産まれた時点で間違ってるんだよ。さっさと死ね」
シルフォードはアザトースが逃げられないように周囲を囲んでいる団員達を確認すると、できる限り攻撃範囲を絞って周囲に被害が及ばないように気をつけながら原初の炎を呼び覚ます。
ファフニールからサラが力を僅かに継承していた時から使っていた原初の炎だが、“万物の根源”アルケーの手によって力を増した原初精霊王の力は今までと格が違う。
まだ扱いに慣れていないシルフォードはできる限り規模の小さい魔法を選ぶと、迎撃態勢に入っているアザトースに向けて炎の玉を放った。
「原初:火球」
ソフトボール程の小さな炎の玉。
シルフォードから放たれたその一撃は、パッと見そこら辺の魔道士が放った魔法と変わらない。
しかし、炎の質が違えば火力も変わる。
アザトースは本能で“まともに受ければ手痛いダメージを受ける”と察すると、触手を使って火球を弾き飛ばそうとした。
パァン!!
と弾ける音と共に、火球は触手にかき消される。
が、消されたのは火球だけではなかった。
「........ちっ、だから原初の力は厄介なのだ」
「おぉ、今のでも触手ひとつは弾き飛ばせるんだ。これは驚き」
忌々しく自分の触手を見つめるアザトース。
原初の炎によって作られた火球を消し飛ばしたはずの触手は、中程から先が綺麗に無くなってしまっていた。
光司がどれほど本気で振るっても斬ることの出来なかったアザトースの触手が、たった一つの火球で吹き飛んだのだ。
流石のシルフォードも、たった一つの火球で触手が吹っ飛ぶとは思っておらず驚き、アザトースは分かりきっていたことではあるものの苦い顔をする。
「温存は辞めて、ここで出し切るべきか?いや、しかし、アドムやほかの原初が勝った時のその後が困る........もう少し時間を稼ぐしかないか」
「大魔王ともあろう者が、時間稼ぎとか情けないね。辞めたら?魔王」
「ほざけ小娘。貴様を殺すかとは簡単だが、その先を我らは見据えているのだよ。それに、少し力を解放すればこの状況もひっくり返せる」
「なら最初からそうすればいいのに........傲慢だね。その慢心が後の自分を苦しめるよ?」
「言ってろ」
アザトースはそう言うと、触手を鋭く伸ばしてシルフォードの体を貫かんとする。
幾ら強いとはいえ、素体は人。
心臓に穴が開けば死ぬし、適当に殴れば骨が折れる。
生物しての格が違うのだ。
アザトースはそう思いながら触手を伸ばすが、原初の登場によりあまりにも周囲を見ていなかった。
「ジャバさん」
「分かってる」
突如として現れるは、雷の槌。
天から振り下ろされた槌は、大魔王アザトースを叩き潰して僅かながらダメージを与える。
「くっ........!!忘れてた」
「フハハハハ!!我らを忘れるとはいい度胸だ。では、諸君。団長殿が来るまで私が指揮を取ろう。なぁに、死ぬようなアホな命令は出さんのでな」
かつて吸血鬼の国を率いた王は、ニッと笑うと大魔王アザトースを殺す為に指揮を取り始めるのだった。
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