厄災戦争 大魔王アザトースvs世界9
遂に現れた援軍。
ドッペルゲンガーとリンドブルムはアザトースを牽制しつつ、この場にやってきたストリゴイの近くに寄る。
僅かに戦線を離れた皺寄せがロムスと光司に押し寄せてくるが、少しの間ならば耐えられる程度ではあった。
「勝ってきたんだね。お疲れ様」
「フハハハハ。我は殆ど戦ってないがな。それはそうと、中々に面白いものが見れたぞ。私が生きてきた中でも五本の指に入るぐらいには愉快な出来事だった」
「へぇ、それはなんだい?」
「今にわかる。シルフォード達がそろそろ到着する。戦況は?」
「見たらわかるでしょう?決定打が無くて困ってます。団長さんやファフニールさんを待つしかないですね」
「向こうが女神の目を気にしてくれているからまだ何とかなっているって感じだね。アタシがもっと本気を出せたらいいんだけど、それをやると団長さんに怒られるからなぁ........」
今回の戦いでの目的は、人類の存続。
もっと言えば、仁や花音の友人や知り合いを守るための戦いである。
そのため、戦場となっている神聖皇国を吹き飛ばすような攻撃はしてはならない。
広範囲の破壊に優れたリンドブルムにとって、この戦場はとにかく戦いづらかったのだ。
「フハハ。確かにあそこでこっそりと戦いを見ている者たちを巻き込んだ日には、団長殿に死ぬほど怒られそうだな。いや、怒られるだけでは済まないかもしれん」
「だろう?だから、規模の小さい流星しか落としてない。やりにくいよ」
「我らは守る戦いに慣れていないからな。かつて国々を滅ぼした厄災級魔物と言えど、守る戦いと言うのは面倒なものだ」
かつて吸血鬼の王国で民を守ってきたストリゴイ。
何かを守りながら戦う苦労というのは、嫌と言うほど分かっていた。
だからこそ、この戦いはストリゴイの得意分野でもある。
今の今まで好き勝手に暴れてきた厄災級魔物達とは違い、ストリゴイは守る戦いになれている。
やり方さえ分かっていれば、被害を抑える戦いを行えるのだ。
ドッペルゲンガーも名将の顔を持ってはいるものの、あくまでもそれは人間同士の戦争の話。
化け物と戦う時に使えるものでは無い。
だからこそ、この場の指揮権はストリゴイに任される。
「団長殿と副団長殿が不在の際の指揮権は“適材適所”。我が指揮を取っても?」
「お好きにどうぞ。私には無理ですしね」
「アタシも無理だし好きにしていいよ。でも、ちゃんと勝てよ?」
「フハハハハ!!任せるが良い。かつて1国を率いた王の指揮、見せてやるとしよう」
ストリゴイはそう言うと、手を高く指を刺して振り下ろす。
「大魔王アザトースよ。あまりにこの世界を舐めるなよ?」
刹那、膨大な炎がアザトースと分身体を焼き払い、戦場は一瞬にして焼け野原と化すのだった。
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神聖皇国所属ミスリル冒険者“禁忌”ロムス。
140年近く生きてきたエルフと思われているが、彼の実年齢は最低でも数百年である。
彼の扱う禁術の中には老化を遅らせ寿命を長くする魔術もあり、彼はその禁術を用いて寿命を伸ばしていた。
140歳辺りだと思われるのは、彼がその時期に人里に降りてきたから。
孤独な山の中で禁術を修行してきた彼が、世に出始めたのがその辺なのである。
「はぁ、貯めた魂がそこをつき始めていますね。これは不味い。そろそろ戦線の維持が出来なくなってきますよ........ジン君のお仲間が来てくれてからは何とかなってますが、だとしても辛い」
ロムスの異能である、
様々な本を使い、その中に内包された魔術を扱うことの出来る異能であり、この力を用いてアザトースの進行を止めていた。
が、そろそろ魂のストックに限界が来ている。
禁術の対価は魂。
普段から魔物の魂を収集し、このような時に備えていたものの、あまりにも消耗が激しすぎた。
何百年と貯めてきた魂のストック。それが見るからに減っていくのは少し悲しいが、使わなければ死んでしまう。
この世界のありとあらゆる禁術を収めるというのが、ロムスの生きる目標なのだ。
大魔王アザトースにその禁術を壊されまいと戦い続けるロムス。
新たな援軍が来たことを堪忍し、また少し負担が減ると思っていたその時だった。
「........は?」
つい先程前で苦戦し続けていた分身体が全て燃やされ、大魔王アザトースの触手までもを燃やしていく。
何が起きたのかと周囲を見渡せば、平原が灰の山と化していた。
あれほど苦戦していた戦いが、一瞬にしてひっくり返る。
一体何が起きたのか。
状況が全く理解できないながらも、ロムスは自分も巻き込まれたら死ぬと判断して宣戦を離脱。
これにより、神聖皇国軍の中でアザトースと戦っているのは光司1人だけとなる。
「........ジン君。君の配下も滅茶苦茶だね。おかげで助かったけれども、これはこれで酷いよ」
原初の炎に焼かれた分身体達は、跡形もなく消え去り、魔王本体にすら明確なダメージを与えている。
ロムス自分の出番は終わったのだと悟ると、この先の戦いがどれほどのものなのか少しだけ楽しみになるのだった。
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