厄災戦争 大魔王アザトースvs世界8

 

 最初に強大な気配達が近づいてきたのを察知したのは大魔王アザトースだった。


 女神イージスを殺す為に力を温存していたアザトースは、リンドブルムとドッペルゲンガーに苦戦しながらもその力を解放することなく戦い続ける。


 長年封印され、邪神として恐れられてきた大魔王。


 そんな大魔王も時が経てば考え方は変わるものであり、この戦いで仲間が助けに来ると信じて疑わなかった。


 もちろん、中には負ける者もいるだろう。しかし、半分近くは勝ってくれるものだと信じてしまっていたのだ。


 かつては悪魔を率いて孤高に戦った魔王と言えど、心を持ち自身の在り方を変える。


 特に最近仲が良かった先代勇者や、長年手足として戦ってきてくれた悪魔達、そして自分と手を組んだアドムなんかは勝ってくれるだろうと信頼していた。


 だが、その信頼はいとも容易く崩れさる。


 召喚主であるアザトースと繋がっていた悪魔たちとのリンクが外れた時から察してはいたが、悪魔達と対峙していたはずの者達がこの場に現れたのだ。


 「そうか........負けたのだな。都合のいい駒だとは思っていたが、それでも多少なりとも愛着はあった。古くから大切にしてきた物を失った気持ちが、少しだけ分かる気がするな」

 「........何を言っている?」

 「貴様らには関係の無いことだ」


 ブツブツを呟いたアザトースの独り言を聞き返す光司。


 その姿は、僅かに哀愁が漂っている。


 しかし、その哀愁漂う姿を見て手を抜くほど光司も馬鹿ではない。


 ドッペルゲンガーとロムスの援護を受けつつ、彼は剣を振り下ろした。


 ガチン!!と、聖剣と触手が交わり合う。


 全てを切り裂く剣と言えど、使い手がその剣を理解し使いこなせなければ真の力は発揮できない。


 剣を受け止めたアザトースが反撃をしてくるよりも早く、光司はその場から動くとドッペルゲンガーの隣に降り立った。


 「すみません。僕が未熟なばかりに」

 「お気になさらず。私は私の仕事をしているだけなので。それにしても、遅かったですね」

 「........?何の話ですか?」

 「私たちのお仲間の話ですよ。既に3度大きな魔力を感じています。1つは団長さんのもの。残り二つは知らない気配でしたが、大体の予想は付きますね。そして、アザトースはそれを感じとれてない。恐らく、何者かが手を出したのでしょう。こんなにまでなっても手を出さないのかと思っていましたが、さすがに少しは手を出すようですね」

 「........なるほど?」


 ドッペルゲンガーの言っている意味がわからない光司だが、少なくともこちら側に有利に働くなにかがあったのだと察する。


 「時間を稼ぎますよ。援軍が来ましたが、まだまだ先は長いようです」

 「........仁くんですね。早く来て欲しいものです。僕よりもよっぽど勇者にふさわしいというのに、なぜ女神様は僕を選んだのやら」

 「????????」


 光司の呟きに今度はドッペルゲンガーが首を傾げる。


 勇者にふさわしい?あの自由奔放傍若無人で、気分次第で敵味方構わず困らせる頭のおかしい人間が?


 勇者の目は節穴か?


 一体あのバカの何を見ていたと言うのだ。


 そう言いたい気持ちをグッと堪え、ドッペルゲンガーは適当に頷いておく。


 人の感覚は人それぞれ。ドッペルゲンガーが口出しするものでは無い。


(........いや、目を覚まさせてあげるべきかもしれませんね)


 そんな事を思いつつ、大魔王アザトースが放った闇の槍を軽く受け流す。


 風魔流水拳。


 風は魔のごとく敵を穿ち、水は流れるように身を守る。


 この世界の歴史の中で最も攻守に優れた武術であり、ドッペルゲンガーが滅ぼした武術。


 その達人であった者の力を使って闇の槍を受け流すと、風を弾いてアザトースの触手を牽制する。


 達人ともなれば山の一つや二つ消し飛ばせるだけの威力があるのだが、アザトースからすれば軽くビンタされた程度。


 周囲の土を巻き上げて放った一撃も、アザトースには全く効果がない。


(元とは言えど神の領域に立つ者。私やリンドブルムの力では無理ですね。それこそ、理を操る原初や、理から逸脱した団長さんの様な力が必要ですか)


 ドッペルゲンガーはそう考えつつも、攻撃の手を緩めない。


 恐らく、すでにほぼ全ての戦場で決着が着いている。


 1番の不安要素だったシルフォード達も悪魔達に勝ち、この場に向かってきているのが分かっていた。


 後は、アザトースを倒せるだけの力を持った者が来てくれればそれで終わる。


 幸い、アザトースは邪魔をされて戦況をほとんど把握出来ていないのはわかっている。


 わかっていたら、今も尚力を温存する訳が無いのだ。


 「コウジさん。少しの間下がっていてください」

 「え?何故?」

 「仲間が来たので、巻き込まれますよ。私は割と常識人ですが........彼らは周囲への被害とかあまり考えない質なので」


 ドッペルゲンガーがそう言った瞬間、血の雨が降り注ぎアザトースの体を貫かんとする。


 まだ自分も退避していないと言うのに、この仕打ち。


 ドッペルゲンガーならば避けられると思って放ったのだろうが、だとしても人声かけるべきである。


 「フハハハハ!!苦戦しているようだな!!」

 「私では決定打が無いのでね。それはそうと、少しは忠告してくれてもいいのでは?」

 「どうせ避けれるだろう?それに、ちゃんと大魔王だけを狙ったでは無いか」

 「はぁ、もういいです。それで、戦況は?」

 「見ての通り勝ってきた。喜べドッペルゲンガー。我らの勝利は目前だ」


 1人だけ先に飛んできたストリゴイはそう言うと、ニッと笑って両手を広げるのだった。

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