厄災戦争 大魔王アザトースvs世界7

 

 分身体を抑え込むリンドブルムと、光司のサポートをしながら上手く立ち回るドッペルゲンガー。


 元神であるアザトースが女神を殺す為に力を温存しているというのもあって、その戦いは均衡が保たれていた。


 「硬いねぇ。流石は魔王の分身体だ」


 魔力によって具現化された流星が大地を抉り、小さなクレーターを作り上げる。


 舞い上がる粉塵とその破壊力はあまりにも凄まじく、遠くから状況を眺めていた神聖皇国軍の兵士達にまで暴風がやって来ていた。


 荒れ狂う魔力を含んだ風。


 精鋭と呼ばれ、かつて大国を滅ぼした神聖皇国の軍人と言えどこの風を身に受けて正気では居られない。


 精鋭と言えど彼らは所詮人間であり、人の枠組みの中でしかその強さは測られない。


 世界の基準で言ってしまえば、彼らはどれ程贔屓目に見ても中の上。


 神話に語られるような戦いは、見ているだけで命懸けだったのだ。


 「ぐっ........とんでもない魔力量だな。余波だけで戦意を失ってしまいそうだ」

 「あの中でまともに戦っているのがロムスとコウジだけだ。私達はどうやら邪魔物らしいな。あまりにも格が違いすぎる。見ろよ。後ろの兵士達ガ怯えて使い物にならなくなってやがる」


 世界の終わりを見せられているような錯覚に陥りつつも、龍二とアイリスは気をしっかりと持ってこの戦いの行く末を見守っている。


 今は戦線が安定しているが、もし崩れてしまった場合は自分達が少しでも時間を稼がなければならない。


 そう思ってはいるのだが、あまりにも壮大すぎる戦いはアイリスすら引け腰にするほどだった。


 今あの中に飛び込めば、僅か数秒でアイリスは死人と化すだろう。


 絶対的な竜によって降る流星。


 天に煌めく星々が下す天罰が分身体の脳天を打ちつけ、衝撃波が周囲を巻き込んで全てを吹き飛ばす。


 分身体ももちろん反撃を行うが、この日のために人外じみた化け物と戦っていたリンドブルムからすればその攻撃を避けるのも容易い。


 「あの人もえげつねぇな。ドッペルゲンガーだっけ?あんなの見せられたら、自分の積み上げてきた物があまりにも稚拙なものだったのだと痛感するぜ」

 「動きの全てが自然で格が違う。これが極地に至った武術........だが、あの顔見覚えがあるな........」


 迫り来るアザトースの触手を手の甲で弾き、流れるように拳を突き出す。


 大した魔力も込めていないはずのその拳は、ゆらりと突き出されるとその見た目からは想像もつかない程の破壊力を生み出してアザトースの体を撃ち抜いた。


 もちろん、この程度でアザトースがどうこうなる訳では無い。


 幾ら武の極地に至ろうとも、人の身で出せる破壊力には限界がある。


 しかし、意識をドッペルゲンガーに向けるにはこれで十分。コバエが目の前をずっとウロウロと飛ぶ事に苛立ちを覚えるように、アザトースの体をペチペチと殴ることはアザトースをイラつかせるには十分なのだ。


 そして、ドッペルゲンガーに意識を向けた瞬間、勇者の一振と禁忌の一撃が降り注ぐ。


 大魔王アザトースを殺す為に作られた異能は、真の力が解放されずとも人の力でアザトースの体に傷を付けれるのだ。


 決定打にはなっていないものの、小さな傷はアザトースから力を奪う。


 神聖皇国軍が死ぬ気でやっても出来なかったことが、たった二体の厄災級魔物がやり遂げているのだ。


 「たった二体で戦況を変えつつある。これが厄災級魔物か。ジンと敵対するのは以ての外だな。する気なんてないけど」

 「身内には滅茶苦茶甘いヤツだから、よっぽどの事がなければ仁が俺たちと敵対することは無いよ。まぁ、花音がお願いしたら分からんけど........」

 「ハハハ。カノンのご機嫌を取るのが1番なのか。今度から“奥さま”とでも呼んだ方がいいか?」

 「死ぬほど不快そうな目で見られそう」


 雑談する余裕もでてきたアイリス達。


 宣戦を離脱して見る神話の戦いはあまりにも壮大すぎるが故に、1周回って余裕が出てきたのだ。


 ギリギリ理解できる範囲ならば手に汗を握りながら油断することなくその光景を見続けただろうが、理解の及ばない極限の戦いは見ても能が正常に動かない。


 ほかの兵士達も、アイリスと同じように恐怖こそあれど余裕が出てきている。


 これが世界最強の傭兵団が現れたことによる力であり、影響力。


 理解が及ばないが、“強い”と思わせてくれるだけで人々は安心するのだ。


 さらなる強者達が現れればなおさらに。


 「遠目で見てたけど、やっぱりリンドブルムとドッペルゲンガーが戦ってる。私達も加勢に行こう」

 「フハハハハ!!我、未だにまともに戦ってないのでな。ここで少し暴れさせてもらうでしよう!!」

 「私の鎌も暇してるのよねぇ。少し暴れるぐらいは問題ないでしょう?」

 「ジャバさんは私の護衛を、私は周囲に罠を仕掛けてきます」

 「了解」

 「リーダー、サラの調子は?」

 「問題ない。超絶好調。今なら団長さんにも勝てるかもって言ってる」

 「いや、それは無理でしょ」


 悪魔達との戦いを終え、大魔王アザトースと戦う為に援軍に来たシルフォード達。


 世界を命運を掛ける戦いが始まって三日目。揺れ動く者達は集結しつつあった。

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