厄災戦争 大魔王アザトースvs世界3

 

 聖堂異能遊撃騎士団副団長シンナス。神聖皇国の中でもかなりの強者とされており、聖堂騎士団の中で名を知らないものは一人もいないと言われるほどの有名人。


 その凛とした美貌や男勝りな言動から男女共に好かれる彼女は、この世界の歴史の転換点に足を踏み入れた。


 「神正世界戦争からはや五年。あのバカ弟子に影響を受けて少し鍛えたんだ。そう簡単に死んでくれるなよ?」

 「不遜なる人の子よ。ここで首を差し出すのであれば、楽に殺してやるぞ?」

 「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。今なら負け犬ではなく、名誉ある死を選ばせてやるぞ?」

 「........」

 「........」


 売り言葉に買い言葉。


 どこぞの煽り癖がある弟子に影響されたのか、シンナスの口は昔よりもかなり悪くなっている。


 相手が例え大魔王であろうとも、シンナスは臆することなく言葉を返した。


 そして訪れる静寂。


 近くで光司がアザトースと戦っており、あちこちが戦場と化している為騒音が響き渡るが、少なくともシンナスとニャルラトホテプの間には一切の音が流れていない。


 「師匠!!退避終わった!!」

 「よろしい。ならば、始めるとしようか。私の力を舐めるなよ?魔王の分身体」


 周囲の兵士たちの退避を告げたニーナの声とともに、シンナスが動く。


 素早くニャルラトホテプの懐に潜り込むと、魔力を纏った拳がニャルラトホテプの腹にめり込んだ。


 体がくの字に曲がるニャルラトホテプ。


 しかも、体がくの字に曲がり腹に衝撃を受けたのはこの個体だけでは無い。


 「連鎖破壊領域ザ・ブレイカー


 ニャルラトホテプを殴ると同時に発動されたシンナスの異能は、彼女を中心として周囲100m程の分身体全てに攻撃を与えたのである。


 全く同じタイミングで吹き飛ばされたニャルラトホテプ達だが、この程度で死ぬはずもない。


 10人の騎士を纏めて相手できるだけの強さを持った分身体は、空中で素早く体制を整えるとシンナスに向かって反撃を繰り出した。


 「闇に飲まれろ」

 「シンナスを援護しろ!!」


 ニャルラトホテプの手から湧き出る闇がシンナスを飲み込もうとするが、それを龍二やアイリス、ニーナが許さない。


 龍二の光が闇を払い除け、シンナスの隙を見て接近する分身体達をニーナとアイリスが排除する。


 神聖皇国の中でも屈指の強者である彼女達が善戦するその光景は、兵士達の士気を上げて彼らの力となった。


 それぞれが今持てる全てを使い、その力を持って分身体を抑え込む。


 そうして出来た隙をシンナスは逃さず、周囲の敵全てに攻撃を当て続ける。


 相手が人種であれば、このような戦法は取れないだろう。


 しかし、相手は元神。


 人は神ではない為に、シンナスの能力が遺憾無く発揮されているのだ。


 「........面白い能力だ。ここで始末しなければ、厄介になりそうだな」

 「できるものならやってみな。お前のような分身体如きが、人間様に敵うと思うならな!!」


 耐久力があまりにも高いニャルラトホテプ。


 シンナスは右拳を顔に打ち付けると同時に、相手の次の動きを予測してさらなる攻撃を加え続ける。


 もちろん、分身体も反撃をしてくるが、幾度も渡り歩いてきた戦場での経験と極限下における圧倒的な集中力によってシンナスはその攻撃全てを避けていた。


 その経験と集中力から生み出される予測は正に未来予知。


 人の限界を超え、シンナスは人類の祖の力を手にしつつあった。


 「なんか、私より強くね?」

 「対人ならアイリスの方が強いけど、こう言う乱戦はシンナス副団長の十八番だからな。にしても、動きがちと人外じみてるけど」

 「かー!!私の団長としての座もそろそろ終わりかねぇ.......」

 「何言ってんだ。まだまだ現役の癖に」


 あまりにも圧倒的すぎるシンナスの猛攻。


 その姿にアイリスや龍二は感心するが、人である以上疲労による集中力の低下は免れられない。


 ニャルラトホテプ達との戦闘から数時間後、ついにシンナスの動きが悪くなり始めた。


 「チッ........!!」

 「どうした人間。最初ほどのキレが無くなってきているぞ?」


 精神と肉体による疲労。こればかりは、幾らシンナスが覚醒していたとしてま免れない世界の理。


 人の身でありながら、強引に疲労を打ち消す者も存在するが、シンナスは世界の理を越えられるほどの存在ではなかった。


 「固すぎる。何発殴ったと思ってるんだ」

 「人の身でありながらここまで戦えたのは褒めてやろう。だが、所詮は人。耐え忍び、その時が来れば形成はあっという間に逆転するのが世界の摂理。者共、反撃の時間だ」


 ずっとシンナスの攻撃をくらい続けてきた分身体がそう言うと、分身体達が一斉に攻勢へと出る。


 常に攻撃をかわし続けていきたシンナスだったが、ここで一撃重い攻撃を食らってしまった。


 口の中に血の味が混じる。


 幸い、今は興奮状態なので痛みを感じないが、それでも動きはさらに鈍くなるだろう。


 「くそっ!!耐久力だけ1丁前ってか?!」

 「遊撃部隊!!全員防御に回れ!!」

 「師匠!!ここはあの人達に任せますよ!!」


 シンナスが一撃貰ったのを見て、一旦引くアイリス達。


 そして、光司のサポートに回っていた神聖皇国軍最強が代わりに動き出す。


 「次は私が相手ですか」


 聖堂騎士団第一団長ジークフリート。彼はそういうと愛剣を引き抜いて静かに殺気を巡らせるのだった。

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