厄災戦争 大魔王アザトースvs世界2

 

 戦闘態勢に入った大魔王アザトース。


 かつて世界を支配しかけたその力は全盛期ほどにまで戻っており、殺気を周囲に撒き散らずだけで兵士達の士気をへし折っていく。


 その姿、正しく魔王。


 世界の全てを混沌に陥れた元神の力は、地上に落ちた今となっても健在である。


 「これが魔王の殺気........!!昔暴食の魔王と戦った時とは比べ物にならないぞ........!!」

 「殺気だけでここまでの圧を出せるとは、流石は本物の魔王様ってか?これだけで大半の兵士の心がへし折られるとは........やってらんないねぇ」

 「大丈夫ですか?」

 「ロムスさんは平気そうですね」

 「私はかつてこれよりも恐ろしい世界を見た事があるので。この程度は問題ないですよ」


 アザトースの殺気に圧倒される龍二達の横で、涼しい顔をしながら本をめくる“禁忌”ロムス。


 長年神聖である皇国を代表するミスリル級冒険者として頂点に君臨してきた男は、龍二達以上に強かった。


 「しっかりしてください。旗印である貴方が怖気付いては、この世界を救えませんよ?声を上げて兵士達を鼓舞しないと」

 「分かっています。世界を救う兵士達よ!!僕たちがこの世界を救うんだ!!剣を構えろ!!背筋を伸ばせ!!僕達はこの日、大魔王を倒した英雄となるのだ!!」

 「「「「「「オォォォォォォォォ!!」」」」」」


 ロムスからの進言を素直に聞き、勇者の刀を天に掲げて味方を鼓舞する光司。


 勇者の異能には様々な力が宿っているが、その中に入は自分の言葉を人々に届けて奮い立たせる能力もあるのだ。


 剣を掲げ、英雄たる背中を見せるその姿は正しく勇者。


 この世界を救うにふさわしく、暗闇をも照らす一筋の光である。


 「ほう。あやつと同じことを言うのだな。ひとつ違う点があるとすれば、その言葉が本心かどうかぐらいか。最も大きな差ではあるがな」


 味方の心を持ち直させた光司を見て、アザトースはかつて初代勇者と戦った時の記憶が蘇る。


 あの時は既に勇者との密約があり、アザトースはわざと負けるつもりだった。


 しかし、女神の目を欺く必要があった為、それなりに本気で殺し合いをしたものである。


 それから2500年後の今、またこうして勇者の号令を聞けることに少しだけ感動を覚えていた。


 懐かしく、忌々しい勇者の一声。


 今となっては、濃い味を求める木偶人形だったが。


 「総員!!構え!!」


 そんな昔を懐かしむアザトースの心など知る由もなく、光司は兵士たちに剣を構えさせると号令をかける。


 世界を救う戦い。人類の存亡をかけ、今持てる全てを使って守る戦い。


 これに負ければおそらく人類は滅ぶだろう。それだけの力が、大魔王アザトースにはあるのだ。


 「行くぞォォォォォォォォ!!」

 「「「「「「「ウヲォォォォォォォォ!!」」」」」」」


 大地を震わせ、空気を揺るがす程の声と共に、神聖皇国軍の精鋭約2万人が一斉に大魔王アザトースに向かって突撃していく。


 その先頭を走るのは、もちろん光司であった。


 「喰らえ!!魔王!!」


 地面を強く蹴り上げ、大きく空へと飛び立つ光司。刀を大きく振り上げると、大魔王アザトースの脳天を目掛けて剣を振るう。


 「ブッた斬れろ!!」

 「甘いわ!!」


 ミスリルすらもバターのように切り裂く聖剣と、数多の物を滅ぼしてきたアザトースの触手が交差する。


 ガン!!


 と大きな音を立てたその瞬間、ぶつかりあった衝撃が辺り一面に弾け周り、周囲の土が大きく吹き飛ぶ。


 「........っ!!やっぱ本気のアイツはやべぇな」

 「急げ龍二、時間は相手の味方だぞ。私達が全力で戦える時間は短い!!」

 「分かってる!!オラっ!!死ねよ魔王!!」


 光司とアザトースの衝突による衝撃波は周囲の兵士たちを巻き込む。


 何名かはその風に吹き飛ばされるが、そこる兵士達は時間をかければ不利になると理解して勇気を持ってアザトースへと突撃して行った。


 しかし、大魔王アザトースも時間が味方となることを理解している。


 人間と元神。


 生きるために休息や食事、睡眠を必要とする人間と何も必要ない元神では種族差があまりにも大きすぎた。


 「時間を稼げ。我が分身達よ」


 アザトースはそう言うと、自分の分身を触手から生み出す。


 強さはアザトースよりも格段に劣るものの、周囲に群がる雑兵を相手するには十分。


 2人程この分身では抑えられない相手が居るが、それでも数は力である。


 「ニャルラトホテプ。敵を滅せよ」


 人型の分身が幾つも現れ、神聖皇国軍を食いとどめる。


 数は神聖皇国軍よりも圧倒的な少ないが、一体で10人ほどの騎士は相手できるのだ。


 そんな分身が2500体。


 大魔王アザトースが昔使っていた数の暴力と神聖皇国軍がぶつかる。


 「これは........確か大魔王の分身体だったな。手練の騎士10人分にも相当する兵士達。これに滅ぼされた国も多いと本に書いてあったぞ」

 「ニャルラトホテプ。おぞましい者たちだだが、人型の姿は間違いだったんじゃないか?なぁ?シンナス」

 「えぇ、人型であるならば、私の能力で暴れ回れますよ。おい、ニーナ、周囲の兵士たちに場を離れるように伝えろ」

 「分かった」


 人型の分身体本来ならば絶望するところであるが、相手が悪い。


 「さて、歴史に名を刻みに行こうか」


 神聖皇国軍聖堂異能遊撃騎士団副団長シンナスは、そう言うとニッと笑って拳と拳を合わせるのだった。

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