厄災戦争 力を受け継ぐは新たな原初4

 

 計画が破綻し、完全な実力勝負へと移行した悪魔達との戦い。


 半数近くの悪魔は始末することに成功したエドストル達だが、それでも数は悪魔の方が圧倒的に優位だった。


 本来ならば8人で戦う所を、サラを抑えるためにシルフォードとゼリスが戦線離脱している。


 6対16。


 最初ほど数の差はないが、それでも10人の差は大きい。


 「チッ、やりづらいですね」

 「我らを相手に余裕そうではないか。大口を叩くだけはあるな」

 「タイマンなら今頃あなたは死んでますよ。仲間に感謝するんですね」

 「ほざけ。私一人でも貴様を殺せるわ」


 悪魔達のリーダー格と戦いつつ、他の悪魔達の動きを牽制し続けるエドストル。


 ロナやリーシャ、プランからの援護を貰っている為に何とか16体の悪魔を抑えられているが、悪魔達も自分たちの優位性を分かっている。


 決して致命傷になる傷を受ける事無く、できる限り遠距離からの攻撃でエドストル達を狙っていた。


 「エドストルと一緒に突っ込むのはダメなのかな?」

 「ダメだよロナ。それだと私たちにも犠牲が出る。リーダーが精霊魔法を使えるならともかく、いまは耐えるしかない」

 「あの本を燃やせればいいのですが、本を持っている悪魔は戦線から離脱して下がっています。あそこまで行くのは厳しいですよ」

 「むぅ、あの本が原因だとわかっているのに、その原因を排除できないのか。1度狙えば警戒されるだろうし、下手すると逃げられる........今は狙わない方が得策と」

 「そういう事です。1日耐えれば援軍が来るはずです。今はエドストルとお姉様を信じて耐えましょう」


 サラを狂わせた原因である本は、発動させた悪魔とは別の悪魔に渡っている。


 しかも、その悪魔はとにかく安全地帯に逃げていた。


 エドストルやロナ達が隙を見て攻撃の機会を伺うも、その悪魔は他の悪魔を盾にして器用に逃げ続けるだ。


 仁や他の厄災級魔物の様に圧倒的な力を持たないエドストル達からすれば、その盾があまりにも邪魔となる。


 結果として、相手のミスを待つしかない。


 「熱ッ!!ファフニール殿の炎を受けてたから耐えれるけど、これ熱すぎだろ!!リーダーまだなのか?!」

 「さっきから声をかけたり色々してる!!サラ!!正気に戻って!!」

 「──────────!!」


 一方、サラを正気に戻そうと声をかけ続けるシルフォードと、周囲へ被害が行かないように盾を構えるゼリスだが、こちらも中々上手くいかない。


 長年連れ添った相棒の声も虚しく、サラは苦しみながら炎を撒き散らし続けた。


 そんな苦しい戦いを強いられつつも、何とか戦線を維持するエドストル達。


 気づけば日が暮れ始め、気づけば日が昇っている。


 星々が天を照らす中でも戦い続け、疲労に支配されながらも一夜を越したのだ。


 「丸一日戦っても動きが落ちないとは、見事だな」

 「はぁ、はぁ悪魔の体力は無尽蔵ですかね?こっちは疲れていると言うのに........」

 「案ずるな。私もかなり疲労している。痩せ我慢と言うやつだな」


 余裕綽々で話す悪魔を見て、エドストルは心の中で“嘘をつけ”と思う。


 戦いが始まってから丸1日。

 

 人種であるが故に出てくる疲労。悪魔との種族差がここに来て大きく出てきたのだ。


 「チッ!!」

 「おや?避けるのか?今までは軽くいなしていたと言うのに、随分と必死に逃げるではないか」

 「生憎、こちとら人種なんでね。疲れもするし集中力も切れるんですよ」

 「それはいいことを聞いたな。ならば、次はこちらから行こう」


 白々しい会話の後、悪魔が手を振りかざしてほかの悪魔達に攻勢の命令を出す。


 悪魔達が一斉に襲いかかってくる光景は、2500年ほど前に行われた大魔王アザトースに従って暴れていた頃を思い出させる。


 「させません!!」

 「エドストルは殺させないよ」

 「させないわよ。こちとら人の未来背負ってんだからね」

 「時間稼ぎ時間稼ぎ。副団長様が来るまでの間の時間稼ぎ」

 「エドストルが死ぬとお姉ちゃんが悲しむよ」


 悪魔の猛攻にを迎撃するロナ達。


 巨大な土の手が、空から落ちていく記憶の矢が、周囲に張り巡らされたトラップが、幻影を見せる煙が、エドストルを守らんと悪魔たちに降り注ぐ。


 一気に混戦となった悪魔たちとの戦い。


 しかし、エドストルだけはこの状況でも笑っていた。


 皆戦いに夢中になりすぎて気づいてないが、地面が大きく揺れている。


 そして、その揺れは徐々に大きくなり、エドストル達のいる場所に向かってきている。


 更には、遠くから雷の音が聞こえる。それは大地を焼き焦がし、世界を吹き飛ばす天上の神器。


 エドストルはこの揺れを知っていた。エドストルは、この神器を知っている。


 そのふたつだけでは無い。他にも真祖の気配まで感じる。


 「来ましたね。私たちの勝ちです」

 「あ?頭が狂ったのか?」

 「いいえ、言ったでしょう。一日耐えれば私達の勝ちだと」


 刹那、悪魔の背後にいた数名の悪魔が天からの裁きを受ける。


 天地の雷。それは大地を轟かせ、世界を大きく揺らした。


 「ジャバ!!」

 「遅くなった。ごめんラナー」


 “強大な粉砕者”ジャバウォック。


『シルフォード、大丈夫?』

 「これが大丈夫に見える?ヨル君」

『見えないね』


 “死毒”ヨルムンガンド。


 「フハハハハ!!よく耐えた!!」

 「お利口さん達ね。おまたせ」

 「ブルル!!」


 “真祖”ストリゴイ、同じく“真祖”スンダルボロン。何故かいる“不純の使徒”バイコーン。


 既に戦いを終えた者達が、この場に集まってきたのだ。


 「反撃と行きましょう。私たちの勝ちです」


 エドストルはそう言うと、自分たちの団長がよくするようにニッと笑って勝利を確信するのだった。

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