厄災戦争 力を受け継ぐは新たな原初5

 

 丸1日の戦いはエドストル達に有利に働いた。


 1日も経てば、他の場所で戦っている仲間達の何名かは戦いを終えているはず。


 そうなれば、次の戦場へと仲間を助けに来るはずだと予想したエドストルは、とにかく待ち続けた。


 仲間達が負けてしまっていれば、自分たちの方が窮地に陥る賭け。


 しかし、厄災級魔物の中でも上位の強さに位置する者たちが負けるとは微塵も思っていない。


 事実、こうして揺レ動ク者グングニルの団員達はやってきたのだ。


 「クソッ!!厄介だな!!」


 先程まで余裕綽々だった悪魔たちも、厄災級魔物が複数相手では勝ち目も薄い。


 切り札であるソロモンの書大鍵を使ってしまった今、彼らにできることは“逃走”のに文字だけだった。


 そして、それを厄災達は許さない。


 気づけば周囲を毒で覆われ、天から降り注ぐ雷が行く手を阻む。


 16体居たはずの悪魔達は、10体までに減ってしまっていた。


 「逃がさないでくださいジャバ。奴らはここで仕留めます。それと、本を持ったあの悪魔は殺さないでください」

 「分かった。ラナーは下がってて」


 ラナーの指示を聞き、ジャバウォックは悪魔達を逃すまいと能力を乱発する。


 雷の槌が流星群の如く舞い落ち、周囲の草木を叩き潰しながら全てを破壊し尽くす。


 その姿は、“強大な粉砕者”の名に相応しく、かつて神々の神器としてこの世界を破壊し尽くした過去を思い出させる。


 「皆、ジャバウォックさんのサポートを。逃がしてはダメですよ」

 「わかってるよ。お姉ちゃんの方はストリゴイさん達が何とかしてくれているから、私たちは悪魔を逃さずしっかりと殺さなきゃ。それに、サラを元に戻す方法も見つけないとね」


 破壊神の如く暴れるジャバウォックのサポートにエドストル達が回る傍らで、シルフォードと吸血鬼夫婦、そしてヨルムガンドはサラの相手をしていた。


 原初の力を僅かに引き継いだサラの炎はあまりにも強大で、現在はシルフォードが何とか抑えているものの、火力は凄まじい。


 正直な話、悪魔達よりもサラの方が圧倒的に厄介だった。


 「フハハハハ!!精霊と戦う事になるとは、さすがに予想外だな。それはともかく、元には戻せんのか?」

 「さっきからやってるけど無理。声が届いてない」

 「どうするのかしら?殺すのはさすがに不味いし........と言うか、殺せないし」

 「何とかしたいけど、手が浮かばない........」


 ソロモンの書:大鍵の力はあまりにも絶大で、上位精霊と言えど抗うことは出来ない。


 やはり耐えるしかない。


 そう結論づけてサラの暴走を抑えようと動き出したその時、その場にいた全ての者の足が止まる。


 時が止まったかと勘違いするほどにまで重い圧と不気味な気配。


 先程まで吹いていた風はピタリと止み、世界は静寂と化す。


 そんな中で最初に口を開いたのは悪魔の1人だった。


 「まさか........ここに干渉してくるのか?!奴らはこの世界に干渉してこないはずだと言うのに!!“万物の根源”アルケー!!」

『私を知っているのか。悪魔と言えど学はあるようだな。しかし、私の可愛い子供たる精霊に手を出すとは、不遜。死を持って償え』


 声が実際に聞こえた訳では無い。


 頭の中に直接語りかけるような感覚が響き渡る。


 「アルケー........精霊神。フハハ。とんでもない者が出てきたな」

 「新たなる管理者でありながら、神の域に立つ精霊の王。まさかこんなところでお目にかかれるとは思わなかったわ。まぁ、私達には見えないけれどね」

 「なにあれ........黒い何か?モヤモヤした霧状の何かが空を覆ってる」


 かつて、イスが精霊樹の元で見た“黒い何か”。


 “万物の根源”アルケー。


 全ての精霊たちの頂点に立ち、世界を管理する2代目の管理者。


 その姿は黒いモヤであり、とてもでは無いが精霊と言えるような見た目をしていない。


 唯一姿が見えるシルフォードはその姿に恐怖すると同時に、悟る。


 敵か味方か。それ次第で自分たちの運命は決まるのだと。


『精霊の系列から外れた原初の力を持つ精霊よ。最初はどうしたものかと様子を見たが、今決めた。お前を新たな精霊の種族として認めよう。母なる私が許してやる』

 「─────────!!」

『ソロモンの書か。長年放置していた私の過失だな。では、元に戻るといい。そして名乗れ。お前は今日から“原初精霊王”だ』

 「─────────?!」

 「サラ?!」


 黒いモヤがサラの周りに集まると、サラはもがき苦しむ。


 シルフォードが心配して近づこうとするが、その足はアルケーに止められた。


『案ずるな祖先の血を引き継ぎし者よ。この子のは今から偉大なる原初の力を持った精霊王として蘇る。私の子を頼んだぞ』

 「........」

『ふふふ、数万年に一度、このような想像もつかないことが起きるから楽しいな。では、新たな系列の精霊に祝福を』


 アルケーはそう言うと姿を消す。


 何が起こったのか全く理解できなかったシルフォード達。


 しかし、分かっていることもある。


 どうやら万物の根源とやらは、自分たちの味方をしたのだと。


 「サラ?」

 「───────」

 「もう大丈夫?」

 「───────」

 「そう。良かった。良かったよぉ........」


 長年連れ添った相棒。初めて出会った時は悪ガキだったものの、絆は深めてきた。


 そんな相棒の狂った姿を見ていたシルフォードは、溜め込んでいたものが溢れだしてしまう。


 「─────」

 「うん。分かってる。グスッ、後はよろしくね」

 「─────」


 シルフォードがサラにそう言った次の瞬間。悪魔達が突如として燃え始め、悲鳴をあげる間もなく灰となり消え去る。


 「「「「「........は?」」」」」


 あまりにも呆気なさすぎる幕切れ。


 その場にいた全員が、思わず口を大きく開けて固まる。


 この日、世界に初めて原初の力を持った精霊の王が誕生した。下位精霊から王へと成り上がった精霊。


 “原初精霊王”サラ。その精霊の名を知る者は極わずかである。

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