厄災戦争 力を受け継ぐは新たな原初3

 

 ソロモンの書。それは、かつてソロモンと言う賢者が大魔導士マーリンに対抗するために作ったとされる禁忌の書である。


 マーリンを光の魔術師とするならば、ソロモンは闇の魔術師。


 常に対極な人生を歩んできた彼らは、残した物も対極だった。


 マーリンは世界を救うために愛弟子を残し、ソロモンはいつの日かマーリンを超えるために三冊の本を残す。


 ソロモンの書:小鍵。


 これは魔界と呼ばれる異界の地から悪魔たちを呼び出し、使役するための本。


 大魔王アザトースが偶然発見し、使用したものである。


 小鍵は既になくなっており、残すは大鍵と“グリモア”の2冊であった。


 そして、その内の一つ、“ソロモンの書:大鍵”。


 この本は精霊に対して絶対的な力を持ち、周囲の精霊達を狂わせると言う能力を持っている。


 正教会国の奥底に封印されていた書であり、かつて神正世界戦争の際に優先的に大エルフ国を狙ったのはこれが原因だった。


 大エルフ国には多くの精霊魔法を使う者がいる。


 戦争の最中にこの本を開けば、仲間だったはずの精霊を敵とすることが出来るため、態々遠い国である大エルフ国を狙うのは自然の道理。


 残念ながら、大エルフ国へと続く道であったアゼル共和国に世界最強の傭兵団が居た為、大鍵が開かれることは無かったが、正教会国が滅んだ際に悪魔達が本を回収していたのだ。


 「サラ?!サラ!!しっかりして!!」

 「────────!!」


 最初にサラの異変に気づいたのはシルフォードだ。


 長年サラと共に歩んできたシルフォードは、サラが苦しそうにし始めたのを察知してサラから力を引き出すのを辞める。


 この作戦はサラの力があってこそ。三姉妹と獣人組の中で最も戦闘能力の高いシルフォードが崩れることは避けなければならない。


 しかし、ソロモンの書はサラを奪う。


 正気を失ったサラは、1番近くにいたシルフォードに向かって原初の混じった炎を放つ。


 炎への耐性が高く、契約が解除されていなかった為シルフォードは軽傷で済んだが、この行動はシルフォード達に大きな衝撃を与える。


 「リーダー!!」

 「お姉ちゃん!!」

 「私はいいから、悪魔達を見て!!悪魔が何か仕掛けてきたに違いない!!」


 炎に包まれたシルフォードを見て、声を張り上げたエドストル達。


 本来ならば取り乱しても可笑しくない光景だったが、シルフォードの一言で正気を取り戻した。


 「プラン、ラナー!!私達で悪魔を抑えます!!プランは先程と同じように!!ラナーは壁に仕掛けて!!ゼリス!!リーダーの援護!!リーシャは能力で悪魔たちを錯乱!!ロナとトリスは破壊された壁から即修復!!ここで逃してはダメです!!団長さんに顔向けできなくなりますよ!!」

 「「「「「了解!!」」」」」


 的確な指示の元、各団員は任された任務を遂行していく。


 プラン、エドストル、ラナーの3人は悪魔を穴の中から逃がさないように攻撃を続け、リーシャが穴の中に煙を巻いて幻覚を見せる。


 大鍵を使ったことで穴から脱出できると思った悪魔たちだったが、想像以上にエドストル達の攻撃が激しかった。


 「やりづらいな。攻撃自体は痛くない。だが、空を悠々と飛ぶのは厳しい。完全に消耗戦だな」

 「だから最初から使っておけと言ったんだよ。どうするんだい?」

 「少し時間を稼げば、私が全て吹き飛ばそう。私を守れ」


 大鍵を開いた悪魔はそう言うと、全身に魔力を貯め始める。


 エドストル達もその事には気づいて即攻撃を仕掛けたが、周囲の悪魔達が邪魔で妨害をすることが出来なかった。


 30秒後、悪魔達は一斉にその場から離れるとリーダー格の悪魔がその力を発揮する。


 「魔力の咆哮マナバースト


 カッと白く光った瞬間、穴の外にまで魔力の波動が漏れだし、全てが吹き飛ばされる。


 強引に悪魔たちを穴の中に閉じ込めようとロナとトリスが動いたものの、周囲の土を吹き飛ばされてしまってはどうしようもない。


 エドストル達は身の安全を第一として、その場を離れると次の手を考えていた。


 「ゼリス!!リーダー!!サラの様子は?!」

 「全然言うことを聞かない!!」

 「力を抑えるので精一杯だ!!」

 「........精霊魔法を封じられると言うのは考えていなかったですね。私もまだまだですか」

 「言ってる場合じゃないわよ。どうするのコレ」

 「どうするもこうするも、悪魔たちの数は減らせましたし、後は気合いで耐えるしかないですね。リーダーの言葉がサラに響くまで私達は時間稼ぎです。もちろん、悪魔達は逃がさないようにしながらね」


 エドストルはそう言うと、義手である右腕の動きを確認する。


 様々な機能が備わった義手。その力を解放する時が来たのだ。


 「1日耐えれば私達の勝ちです。では、消耗戦と行きましょう。ゼリス、リーダー。サラの相手は任せます。プランとリーシャは援護、ロナとトリスは地面を使ってできる限り時間稼ぎしてください。ラナーはトラップ地帯の設置と逃走防止を頼みます」

 「案ずるな獣人。我らは逃げやしない。むしろ、貴様らこそ逃げる準備が必要なのでは?」

 「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。あまり私達を舐めないで貰いたい」


 作戦は破綻。


 ここからは完全な実力勝負。


 エドストルはそう思うと、腰に下げた剣を抜いて静かに心を研ぎ澄ますのだった。

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