厄災戦争 力を受け継ぐは新たな原初2

 

 悪魔総勢34体vsグングニル8名の戦い。


 戦いとは本来、質と量を要求されるものである。


 タイマンで戦うよりも複数人で1人を囲った方が強ければ、その複数人よりも圧倒的な質がある方が勝つ。


 地球での戦争では数こそが正義だが、一人一人の力量に圧倒的な差が出るこの世界では量よりも質の方が重視されがちだ。


 「行くよサラ」

 「──────!!」


 ダークエルフ三姉妹と獣人組の中でも最も戦闘力の高いシルフォードは、自らが契約した上位精霊であるサラから力を借りると、精霊魔法を行使する。


 普通の魔法よりも強力で魔力消費も少ない精霊魔法が大地を揺さぶり、どのように動こうかと考えていた悪魔達をぐるりと囲った。


 「ほう?精霊魔法か。ダークエルフも元を正せばエルフと同じ血筋。精霊が使えるのも納得だな」

 「使うかい?この感じ、相手は上位精霊と契約しているように見えるけど」

 「もう少し待とう。相手の鼻をへし折るのは、相手が最も油断した時だ」


 炎に囲まれた悪魔たちの反応は様々で何とか炎を掻き消そうとする者も居れば、呑気に会話をする者もいる。


 悪魔達の中でも強いもの達、そしてこの戦争において最も重要なとある鍵を持っていることを知っている者たちは落ち着いていた。


 「........落ちろ」


 シルフォードは嫌な予感が走るものの、計画通りに全てを実行する。


 悪魔の周りを囲んだ炎が徐々に狭まり、悪魔達の行動を制限すると、纏まった悪魔達の足元が崩れて奈落の底へと落ちていく。


 「団長様に迷惑をかける下衆共が。さっさと死ね」

 「お姉ちゃん。大丈夫?」

 

 異能と魔法により、地面を操ることの出来るロナとトリスの2人が行動範囲を狭めた悪魔達の地面を掘り抜いたのだ。


 これにより、悪魔達がこの場を脱出するには穴から出る以外の方法が無くなる。


 地面を掘られる可能性もあるにはあるが、それに関してはシルフォードの炎が周囲を覆っている為問題ない。


 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 「熱い!!熱いぞ!!」


 炎に触れた何名かの悪魔達は精霊の炎に焼かれ、燃え広がった炎に全身を焼かれていく。


 悪魔の中でも力の弱い悪魔達は焼かれ、その数を着実に減らしていた。


 「やることが凶悪だな。我らよりもあっちの方が悪魔なんじゃないか?」

 「んな事言ってる場合か。仲間たちが次々に殺されているぞ?」

 「この程度で殺される方が悪い。魔王様に仕える悪魔がこの程度で死ぬのであれば、死んだ方がマシだ」

 「一応、仲間だろうに」

 「仲間?笑わせる。この程度で死ぬやつを仲間だとは思えんな」

 「流石は悪魔。相変わらず自分勝手な考えですね。仲間を仲間とも思わないあたり、腐っていますよ。腐臭がこちらまで臭っくる」


 穴の上から悪魔たちの様子を眺めていたエドストルは、悪魔たちの会話を聞いてあきれ果てる。


 この世界は質が量に勝るのは確かだが、それでも量と言うのは大事な戦力だ。


 国家間の戦争よりは重要度が下がるが、今回の戦いではそれなりの強さを持った兵達も重要である。


 それを理解していないのか、理解した上で仲間を見殺しにしているのか分からないが、エドストルからすれば不愉快な光景だったのは言うまでもない。


 「団長さんのお弟子さんが色々と教えてくれましてね。私は格下には強いのですが、格上にはなすすべもなく殺される。だから、こんなことも覚えたんですよ。プラン、構え」

 「俺の出番、ないんだけど」

 「それは仕方がないわ。あなたの力は守るものだからね」


 エドストルの号令に合わせて悪魔達に牙を向けるプラン。


 穴から這い上がろうとする悪魔達が複数いる中で、プランとエドストルの攻撃が投下される。


 「爆弾って知ってます?芸術性はさすがに感じませんが、誰でも扱える素晴らしいものですよ」

 「落ちなさい。記憶とともに」


 放り投げられた爆弾と天を貫き地に落ちる矢。


 這い上がってくる悪魔達は爆破に巻き込まれ、更に天から降り注ぐ矢の雨に貫かれて死に至る。


 「おぉ、危ない危ない」

 「おい、いつ使うんだよ」

 「1度使えばかなりの時間使えなくなるのは知っているだろう?出来れば使いたくないのだがな」

 「さっきは使う気満々だったくせにか?」

 「忘れてた」

 「コイツ、1回殺した方がいいんじゃないか?」

 「まぁ、そう慌てるな。とはいえ、上位精霊を暴れさせればかなりの被害は出せるか。上手く行けば、精霊樹も燃やせるかもしれんしな」


 降り注ぐ爆弾と矢の雨を避けつつ、悪魔のひとりが一冊の本を取り出す。


 それは、かつて正教会国に封印されていたとある本であり、神正世界戦争が終わった直後に盗み出したものであった。


 「仕方がない。元々は中位精霊以下の精霊達を全て使うつもりだったのだがな」

 「もったいぶらずにさっさとやれ。ここで死んだら全てが終わるぞ」

 「はいはい分かってる。では、開け、“ソロモンの書:大鍵”」


 悪魔が本を開くと同時に、不吉な気配が溢れ出す。


 かつて、ソロモンという名の賢者が作った対精霊最終兵器。


 「─────?!」

 「サラ?」

 「────────!!」

 「サラ!!どうしたの?!」


 その牙が上位精霊のサラに向けられるのだった。

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