厄災戦争 力を受け継ぐは新たな原初1

 

 神聖皇国から南西に降りたとある属国にある開けた草原では、30体以上の悪魔とシルフォード達が対峙していた。


 傭兵団の中でも戦力が最も低いシルフォード達ではあるが、悪魔達を足止めするには十分な実力を持っている。


 勝てずとも、時間を稼ぐだけでいいと団長である仁に言われている彼女達は、全滅しない事を最優先として悪魔たちの前に立った。


 「30体以上の悪魔達........かつて大魔王アザトースの手足として働いてきたこの化け物たちを相手に足止めしなければならないとは、流石に骨が折れそうですね」

 「だね。でも、私達がやらなければほかに迷惑が行く。少なくとも、揺レ動ク者グングニルの名を落とす事だけは避けなきゃダメ」

 「お姉様は相変わらずですね」

 「ラナーお姉ちゃんも悪魔達が来る前に言ってたじゃん。“間違ってもこの傭兵団の汚れとなっては行けない”って」

 「だってそうでしょう?私達の居場所はこの傭兵団だけ。団長様が私たちを見放した時が私達の死ですよ」


 ダークエルフ三姉妹にとって、仁の作った傭兵団は唯一の居場所であり絶対的な忠誠を尽くす組織である。


 かつて悪魔達に故郷を滅ぼされ、過去の先祖が犯した過ちによって居場所を無くした彼女たちに残された唯一の安寧の地。


 それがグングニルであり、この場所を守る為ならば例え命を捨てたとしても構わないとすら思っているのだ。


 特にシルフォードはこの傭兵団への忠誠心が高い。


 どんな手段を使ったとしてもこの場所を守る為ならば、一切の躊躇いを持たずに実行するだけの覚悟がある。


 その団長である仁の言葉は絶対。


 仁が傭兵団のために死ねと言えば、躊躇わずに首を切るだろう。


 花音は仁を愛しているが故に全てに従うが、シルフォード達は傭兵団を守るために全てに従う。


 それが、シルフォードたちの在り方である。


 「エドストル。指揮はあなたに任せる。失敗は許されない」

 「わかっていますよ。団長さんが私の右腕を取り戻しに言っているのですから、彼が帰ってくるまでの間を待つのですよ。私達が死ぬことは許されませんし、悪魔達も逃さない」

 「分かってるならいい。皆が負けるわけが無いし、暫くは時間稼ぎ。上手くやろう」


 既に準備は済ませてある。


 1日耐えれば問題なしと言われているので、エドストルはその為の作戦を練っていた。


 誰一人欠けることなく、悪魔たちの動きを封じる。


 万が一の時でも対応できるだけの準備はしたつもりだし、余程のがない限りは耐えれるだろう。


 「僕も頑張らないと。これがきっと最後の戦いになるだろうし」

 「そうだね。拾われたご恩をまだ返し切って無い。それに、私もまだ副団長様にもふもふされたいわ」

 「僕も頭とか撫でてもらいたいなぁ........団長様の手は暖かいんだ。副団長様が怖くで甘えれないけど」

 「あの人、団長様により着くハエには例え自分の子供であろうと容赦しないからね。でも、そこがいい!!」

 「........姉さんも毒されたね」


 頬を赤らめながら尻尾を揺らすリーシャを見て、若干引き気味なロナ。


 闇奴隷として変態共に買われて壊される未来しか無かったはずの彼女達に光を与えた仁と花音の存在は、ふたりを大きく変えた。


 昔のように笑うようにもなったし、なんなら昔よりも今の方が楽しい。


 変態共に買われなかった代わりに、自分たちが変態になっている事には気づいていないが。


 彼女達の忠誠は、仁と花音。


 2人の命令が絶対であり、生きる意味である。


 「まさか、世界の存亡を掛けた戦いに参加するとは、人生何があるかわからんな。そうは思わないか?プラン」

 「そうね。私もあの闇市で売られていた時はそんなこと考えたこともなかったわ。ゼリスの言う通り、人生何があるのか分かったものじゃない。少し歯車が違えば、私達はこの場所にたっていなかったもの」

 「団長さんには感謝だな。あの人、奴隷を奴隷として扱わないし、男連中を風呂に誘ってくるんだぜ?ストリゴイさんなら分からなくは無いが、普通の人は奴隷と一緒に風呂に入ろうとは思わんよ」

 「副団長さんも同じね。急に私のところに来たかと思えば、“釣りに行こう!!”とか言い出すし。絵のセンスと団長さんラブがなければ、完璧なのにね」

 「ハッハッハ!!それは副団長殿に“死ね”と言ってるのと同じだろ。あの人、団長以外の人間に興味が無いからな」


 ゼリスはそう言いつつ、かつて花音が僅かに見せた嫉妬の悪意を思い出す。


 実の娘であるイスに対して僅かに見せた嫉妬の渦。イスが直ぐ様気づいたから良かったものの、あと数秒遅れたらイスは殺されていたかもしれない。


 そう予感させるだけの愛を持った副団長は、流石に恐ろしかった。


 そんな狂った花音とその愛を許容できる器の大きすぎる仁に、ゼリスもプランよ感謝している。


 本来ならば、2人は離れ離れになって知らぬところで死んでいたかもしれないのだから。


 主人に“外していいよ”と言われた奴隷の首輪を未だにつけているのは、彼らに対する忠誠の証。


 この傭兵団の中でもダークエルフ三姉妹と獣人組は、最も忠誠心の高い団員なのである。


 「それじゃ、行く。作戦通りに、作戦からズレたらエドストルの指示通りによろしく」

 「「「「「「「了解」」」」」」」


 かつて世界を震撼させた悪魔達の大群。その化け物たちを前に、恐れを知らぬ世界最強の傭兵団は立ち向かうのだった。

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