厄災戦争 天秤は崩壊す3
あまりにも圧倒的すぎる仁に勝つために、自らの命すらも削った一撃を叩き込まんと隙を狙うアドム。
エレンスゲがその隙を作り出すために奮闘するが、人類最強の名を持つ者の前でそれを行うのは至難の業だ。
七つあった首は既に2つ減らされ、更には身体中に傷を負っている。
竜種であるが故にその膨大な鱗を持ってして耐えてはいるものの、エレンスゲが死ぬのも時間の問題だった。
「強すぎる........!!人の身でありながらこれほどまでの力を持つとは、まさしく人外だな........」
「おいおい、俺は歴とした人間だぞ?人外扱いは酷いんじゃないのか?」
「普通の人間は厄災を自らの力でねじ伏せることなど出来ないのだよ。それが出来る人を人とは呼ばん」
「それは人を舐めてるな。人には無限大の可能性が秘められている。人の進化を侮ったらダメだぜ?」
「進化?笑わせるな。お前は人の理から逸脱しただけの存在だ。人を語るには、あまりにも違いすぎる」
「酷すぎて涙が出てきそうだ」
会話を使って時間を稼ぐエレンスゲ。
会話の中でも攻撃を仕掛け続けるが、そのどれもが仁に当たることは無い。
たった1つの攻撃で街が滅ぶというのに、その一撃が当たらない。
この世界の理から逸脱し、人のみでありながら神すらも殺せる領域に立つ仁の防御は、あまりにも固すぎた。
「戦争が終わって直ぐに俺たちと敵対していれば未来は変わっただろうに。その時はまだ自らを強化した状態で能力を使用できなかったのにな」
「グッ........」
エレンスゲの足元に入った仁は、エレンスゲの腹を蹴り上げるとそのまま天秤を崩壊させる。
何も無い空間から黒い玉が現れ、その中に入った物全てを消し炭にしようとするものの、流石のエレンスゲもこれは死ぬ気で避けた。
エレンスゲは仁の能力を知らない。
正確には、仁の能力の詳しいことは分からない。
アドムから何となくは聞いているが、天秤を操作して全てを壊す能力だとは知らないのだ。
だからこそ、避けただけで安心してしまう。
その黒い固まりが形を変えることも知らないのだから。
「ほら、当たるぞ?」
「何っ?!」
黒い玉が形を変えて鋭い棘をいくつも吐き出す。
仁の攻撃の隙を狙っていたエレンスゲは、この一撃を予想することが出来ずに翼を貫かれ、更にふたつの頭を失ってしまった。
空を飛べぬ竜はただの的。
アスピドケロンの様に防御特化出ないエレンスゲは、この瞬間地竜ににも劣る獣と化す。
「エレンスゲ!!」
「やれ!!アドム!!」
しかし、アドムの準備が整った。
エレンスゲは自分事巻き込めと言わんばかりに仁に向かって突撃をかまし、わずかながらだが仁の動きを止める。
そして、その隙を見てアドムは切り札を切った。
「因果──────────」
「待ってたぞ、その大きな動き。大量の魔力を消費して未来が見えなくなるその瞬間。お前の負けだ」
だが、アドムの切り札を切る瞬間を仁は待っていた。
数秒先の未来を見ることが出ない瞬間をじっくりと、静かに待っていたのだ。
「
先程エレンスゲを攻撃した黒い玉。その黒い玉は仁の元に戻ることなくその場に存在している。
そして、その黒い玉の中では重力が崩壊し、全てを飲み込む圧倒的な質量を持った惑星が顕現した。
「体が........!!」
「ヌゥ........!!」
あまりにも強大すぎる重力がアドムとエレンスゲを持ち上げ、それどころか惑星すらも全て持ち上げる。
近くにあった山々は崩壊し、黒い玉の中に誘われて消え去った。
「死ぬ死ぬ死ぬ。これ、俺も巻き込まれるから使いたくないんだよ。しかも、調整ミスるとこの星そのものが消し飛ぶし」
アドムとエレンスゲだけではなく、仁までもが重力に囚われて身体を浮かしている。
かつて追放楽園で試しに放ったこの一撃は、星そのものを滅ぼしかねないとファフニールに言われたのだ。
しかし、それでも今回ばかりは使わざるを得ない。
なるべく早めに勝負を終わらせ、仲間を助けに行かなければならないから。
未だに
この戦いが終われば、仁は丸1日は使い物にならないだろう。
その時間を考慮し、なるべく早く全てを終わらせることを決めたのだ。
仁は魔導崩壊領域を解除すると、続けて自分を守るように周囲に黒い膜を貼る。
これで少しはこの重力に耐えられるはずだ。
「それじゃ、女神によろしくな。あの世で女神を殴り飛ばしてくれることを祈ってるよ」
「貴様ァ!!」
アドムは最後の最後まで仁に鋭い視線を向けていたが、やがて黒い玉に飲み込まれて塵となって消えていく。
創生期から生きてきた最古の人類、全ての人類の祖先であるアドムは、この日を持ってこの世界から姿を消したのだ。
もちろん、エレンスゲも巻き込まれて消え去る。
数秒後、仁の周りに残っていたものは何一つなく、全てが消え去ってしまうのだった。
「........やべぇな。地面にクソでかい穴ができてやがる。とはいえ、星は壊れてないし俺も生きてる。
仁はそう言うと、全身筋肉痛の様に痛む身体を労わるように寝転がるのだった。
「イテテテテ。こりゃ暫く動けんな。俺が来るまで死ぬんじゃねぇぞ。みんな」
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「近頃の人間ってのは皆アホなのか?俺が手を出さなかったら今頃世界は滅んでたぞ........」
強大な魔力と絶望的な未来を見た管理者。亜神“
ラプラスが手を出さなければ、今頃世界は崩壊して全ての生命が消え去っていただろう。
普段は管理だけをしているラプラスだが、流石に今回ばかりは手を出してしまった。
それほどにまで、仁の一撃は世界の脅威だったのだ。
「イカレ野郎が。下手をすれば自分まで巻き込まれていたというのに........」
ラプラスはそう言うと、この先の管理のことを考えて頭が痛くなるのだった。
世界は、運良くラプラスの確率操作によって一命を取り留めたのである。
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