厄災戦争 天秤は崩壊す1
人々が生きる大陸の中心部。ヌルベン王国よりもやや西側に位置するそこそこ大きめの小国。
俺が今いる場所は、そんな小国の山の麓。
富士山よりも高い山が聳え立つ山岳地帯だった。
「君は判断を間違えた。今ならまだ許してあげるよ?泣いて地面に頭を擦りつければね」
「残念。“そのセリフ、そっくりそのまま返す”とは言えねぇな。俺はお前ら全員を殺す気なんだよ。悪いね。命乞いの機会を与えてやれなくて」
「ほっほっほ。相も変わらずふざけた口じゃのお。儂1人にすら手こずった奴が大口を叩いておる」
「よく言うよクソジジィ。弟子を見捨てて世界を壊す運動をしてるとか、弟子が聞いたら泣くぜ?それと、最後はボコボコににされてたじゃないか」
「ほっほっほ。あの時の儂と同じと考えていたら痛い目に会うぞ?」
「そうだな。あの時よりも更に老いてるもんな。大丈夫?おじいちゃん。ちゃんと歩ける?」
俺の目の前にいる敵は全部で4人。
元々戦う事が決まっていたアドムと剣聖のジジィはともかく、その隣で黒のスーツを見に纏った七三分けのなんちゃってサラリーマンと、七つの首がある竜はランダムで決められた相手だ。
竜の名前は確か........“七頭”エレンスゲだったか?
かつてとある大国に単身で乗り込み、炎や水、氷や雷をばら撒きながら全てを破壊し尽くした厄災級魔物だった気がする。
団員の中で合ったことがあるやつが居ないか聞いたが、誰も会ったことは無いらしい。
大国を滅ぼしたということは、かなりの強さがあるとは思われるがどれ程強いのかは分からんな。
その身に纏う圧は大したことないから、そこまで苦戦することはなさそうだけど。
「彼が人類最強を名乗る人間。恥ずかしくないのか?私だったら自分のことを人類最強なんて名乗れはしないな。恥ずかしすぎて死にそうだ」
「そりゃお前が弱いからだろ。自分の弱さを棚に上げて、強いやつを貶すとか底が知れるな。妬みは人の中でも最も恥ずべき感情だぞ?つーか、お前誰?」
「ハッ、人間一人に対して過剰戦力にも思えるが、油断は禁物。全力で潰させてもらうぞ?」
「やれるもんならやってみな。その沢山の頭が飾りでない事を祈るよ」
「........口は達者なようだな」
若干イラッとした感情を表に出すエレンスゲ。
ダメだよ。戦いの前の口喧嘩で感情を出したら。
戦いにおいて必要なのは冷静さ。
その点で言えば、剣聖が一番そこら辺を理解している。
心は熱くなりつつも頭は冷静に。
剣の頂きに立った御仁は、長年の経験からしっかりとそこら辺を理解していた。
エドストルの右腕を切り飛ばした対価を支払わせてやりたいが、ジジィの成長次第では苦戦することになるかもな。
元々俺の異能すら切り飛ばせる力を持っているのだ。そこから更に成長し、神の域に立つ剣を持っていたらやりづらい。
それ以外は........まぁ、なんとでもなるだろう。
アドムに関しては“油断するな”とファフニールに言われているが。
「私を知らんとは、知識が足りないな。ちゃんと学習するべきだぞ?知識は何よりの力となる」
「それはそれは有難いお言葉ですね。で?お前誰?」
「“増殖者”バラン。まさか名を知らない訳では無いでしょう?」
誰だよ。
なんでこいつは自分が俺に知られていると思っているんだ?
バランなんて名前は聞いたことがないし、俺は戦う相手は強者でなければいちいち名前なんて覚えない。
だってコイツ俺の可愛い弟子たちよりも弱そうだもん。
そこら辺のおっさんと特に変わりのないぐらいには力を感じない。
一番最初に殺すのはコイツかな?
「お前、人のこと言えないな。自分の名前が全世界に知られているとでも思ってるのか?人類最強を名乗る俺よりも痛々しいじゃん。生きてて恥ずかしくないの?」
「これだから低脳な猿は嫌なんだ。自分の知識のなさを棚に上げて相手を貶すからな」
「その低脳な猿の中に自分も入ってる事に気づこうな。ナルシストとか今時流行らんぞ」
「........口だけは達者だな。話術士にでも転職した方がいいのでは無いか?」
「お前は口も下手そうだもんな。無職の方が似合うんじゃないか?」
「これだから下列な猿は。人と猿の違いが分からんのだよ」
「痛々しいやつだな。なんというか、自分のことを神と言ってた馬鹿なヤツを思い出す」
俺はそう言いながら既に殺したバカ5人組を思い出す。
あの世でもアイツらは馬鹿なことをしているのだろうか?
それにしても、自分に自信がありすぎだろコイツ。
ここまでナルシストだと、一周まわって清々しい。
言葉が通じないのが難点だが。
いるんだよなぁ。同じ言葉を使っているはずなのに、会話ができない類人猿が。
お前は
........いや、そういえばこの世界の人は神によって作られたって言ってたな。
じゃぁ、神が欠陥品を作ったのか。
俺はこの会話の通じない頭のおかしい奴の相手をこれ以上してられないと思うと、戦いを始めるため静かに殺気をばら撒き始めるのだった。
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